「…なにそれ」

ゲームをしていたおれのところにレッドがやってきて、見たことないという顔をしてそのゲームを見る。
それはボードを使って遊ぶゲームで、バランス感覚などを鍛えることが出来るというやつで。そしておれがそのゲームでいまやっているのはボードのうえに胡坐をかいて座禅をして集中力を鍛えるというものだ。テレビ画面のろうそくの火が心を表していて、ちょっとでも体が動いたりしてバランスが崩れると火が揺らいで最後には消えてしまい、消えたらそこで終了となる。

「ゲーム」
「…座ってるだけで楽しいの?」
「そういうやつなんだよ。
座禅でバランスとって集中力を高めるってやつだから話しかけるなって」
「…」

要領が悪くてさっきはすぐにろうそくの火が消えてしまい、クリア出来ずにそこで終わってしまったから、今度はクリアしたい。
だから邪魔をしないようレッドにそう言えば、レッドは素直におれの横から遠ざかる。しかし。

「よし、イーブイ。きみのご主人さまは今日から僕ってことで」

そんな台詞が聞こえてきて、さらにはイーブイの嬉しそうな鳴き声が聞こえてきて、動揺せざるを得ない。
そして声のするほうを見てみれば、レッドがイーブイを抱っこしていてイーブイはまんざらでもないような顔をしている。

「こらっ!なにひとの勝手にゲットしようとしてんだ!」
「…イーブイ嬉しそう」
「だめ!てか、イーブイてめぇ…!」

と、そこでテレビから「終了」という音声が聞こえ、クリアできなかったことを知らされる。まあ当たり前だな、バランス以前に動き回ってるし。つーか、これでクリアできたらすごいだろ。

「うあああ!あと少しだったのに!」
「平常心、平常心」
「保てるか!
ったく、それならレッドやってみろよ」
「…僕?」

レッドからイーブイを奪還すると(不服そうなのはなぜだ、イーブイ)、クリア出来なかった怒りの矛先をレッドに向けてみた。というかクリア出来なかったのこいつのせいだしな。

「平常心保てるかどうか。まあ基本はバランスだけどな」
「…いいけど」

そしてボードのうえから退いたおれの代わりにレッドが今度はボードのうえに胡坐をかいて座る。
これでいいの?とおれのほうを向いて聞いてくるレッドの顔をテレビ画面のほうへと向けさせると、おれはスタートボタンを押した。

「ろうそくが最後までなくなったらクリア。
途中で火が消えたらアウトな」
「ふーん…」

おれがそう言うとレッドは、テレビ画面に映る、火が灯ったろうそくをじっと見つめる。その表情はいつもと同じで、そしてレッドは微動だにしない。
そんなレッドを見ながら仕返しはどうしてやろうかと考える。我ながらちいさい男だとは思うものの、シロガネ山で仙人になったレッドにならこれぐらいハンデあってもいいだろう。
それにレッドがバランスを崩すほどに動揺したり焦ったりするのはあまり想像出来ない。ポーカーフェイスだからわかりにくいのかもしれないが、それならこのゲームなら動揺して体が微かにでも動けばろうそくの火に連動するから心が乱れるのがわかるしちょうどいい。

(レッドが動揺しそうなこと…)

そして手始めに黄色い悪魔をさっきのイーブイと同じようにしてみようと思ったものの、あの黄色い悪魔がすんなりおれに捕まってくれることもなく、下手をすれば電撃が落ちてくる。
どたどたと周りで騒いでいるというのに、レッドはというと座禅したままじっとテレビ画面を見ていて、ろうそくの火はたまにジジッと音を立てるぐらいで揺らいで消えることはなさそうだった。

(まずい。このままじゃクリアしそうだな)

気がついてみればろうそくの長さは初めに比べると3分の1ほどになっている。
焦ったおれはどうすればレッドが動揺するかを考えてみた。黄色い悪魔うんぬん以外で。

(あ、)

そしてあることを思いつくと、レッドの隣りにしゃがみこんだ。

「レッド」
「…なに?」
「おれさ、昨日可愛い女の子に告白された」
「…」

モノでの動揺がだめなら心理戦だ、と思ってそう言ってみる。なんだかんだでレッドはおれのこと好きだし、こういうこと言われたら少しは揺らぐんじゃないかって。
それでもろうそくの火は揺らぐこともなく、ジジッと音を立てると全部溶けていってしまった。つまりは。

「…これってクリアしたの?」
「……ですね」

あっさりとクリアしてしまったレッドはボードのうえから退くと、立ち上がって背伸びなんかしている。
モノでつってもだめ(つれなかったけど)だし、心理戦もだめだし。なんだ、お前は鋼の心でも持ってんのか。そしておれのことどうでもいいのか。

「…」

何回やっても同じような気がするし仕方ないから違うのでもしようかとリモコンをテレビ画面に向けると、

「…グリーン、もう一回やってみて」
「は?」
「もう一回。今度は何もしないから」

レッドがそんなことを言ってきた。
自分に出来たんだからお前も出来るだろ、とでも言いたいのかお前は。
そう思いながらも、今度は何もしないというレッドの言葉を聞いておれは渋々ボードのうえで胡坐をかいた。
そしてスタートボタンを押したと同時ぐらいにレッドがおれの目の前にしゃがみこんできた。

「…グリーン」
「何だよ、何もしないっつっただろ」

そんなにおれをクリアさせたくないのか。
たかがゲーム、されどゲームだ。

「何もしないよ、言うだけ」
「言うだけ?」

するとレッドはさっきのイーブイの件とは比べものにならないようなことを言ってきた。

「あのね、昨日キスされた」

ぼそっと告げられたそれに一瞬耳が悪くなったんじゃないかと自分を疑った。
ん?キスされた?昨日?昨日?え?
おれの目の前にしゃがみこんでおれから視線を逸らしてそんなことを言ってきたレッドを見てみるものの、視線を逸らされていて表情が上手く読めない。つーか、いまここでそれを言うか?
そして案の定、動揺しまくったおれはバランスが崩れてしまい、ろうそくの火は消えてそこでアウトになってしまう。だけどいまはゲームとかどうでもいい、目の前のレッドのことだけ考えていたい。

「だだだだだだだ誰に?!」

完全に動揺してどもってそう聞くのが情けないけど仕方ない。
レッドがキスされた。相手は…ヒビキかコトネとか?よく挑戦しに行ってるみたいだし、レッドだって心開いてそうだし。いやいや、だからってキスはねーだろ。待て、それともおれが全然知らない挑戦者とか?誰だ?!誰なんだ?!
いろんなことが走馬灯のように駆け巡っていっていると、おれのほうを向いたレッドがおれをじっと見つめてきた。

「グリーン」
「な、なんだよ?」
「だから、グリーン」
「…は?」

そしてレッドから告げられた台詞にぽかんとしてしまう。
おれ?おれがどうかしたんだろうか。って、おれ?ん?
どうやら昨日レッドにキスをしたのは、ヒビキでもコトネでも知らない挑戦者でもなく、おれだという回答をレッドはしてきたようで。
ということは。

「…可愛い女の子からのキスがよかったけど、残念ながらグリーンでした」
「……す、すみませんでした…」

皮肉めいたその台詞はさっきおれが心理戦で言った、昨日可愛い女の子に告白されたということに対してなんだろう。確かに告白はされたけどきちんと断ったっての。
そしてそんな女の子の件とおれに昨日キスされたのが不服だったのか(というか何回もしてるのに)、少し怒って顔をおれから逸らしているレッドにとりあえずは謝ると、そこでハタと気がつく。








マグニチュード10でも足りない

(動揺したり焦ったわけじゃねーけど、それでも、嫉妬、してくれたんだ)



「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -