チャンピオンになってから、僕の世界は一変した。
ここにいるひとたちは誰ひとり『僕』を見ていなくて。
だから『僕』はひとりぼっちで。
誰かにSOSのサインを送ってみても誰も気付きやしない。
いや、みんなが見てるのは『チャンピオンの僕』であって『僕』ではなくて。

「…つまんない」

ぽつり、と呟く台詞は壁に吸い込まれていく。
あんなに楽しかったバトルがいまでは苦痛でしかない。
楽しくないんだ。何をしていても。
青い空に手を伸ばしても届かなくて、誰かに聞いてもらいたくて言葉を投げかけても返ってきやしない。

「…グリーンは、こんなのになりたかったのかな」

あの日以来会っていない幼なじみを思う。
それとも僕だからだめなのかな。
僕じゃなくグリーンだったら。

「……ひとりは、いやだよ」

うざいぐらいひとに囲まれているのに、僕はどうしようもなくひとりで。
まるで暗闇のなかを、明かりなしで歩いているような気持ちだった。
誰かいないかと声をかけてみても、誰も返事をするひとなんかいなくて。

「……グリーン…」

思い出のなかのグリーンに呼び掛けてみても、グリーンは返事をしてくれなかった。

「…つまんない」

そんな日が続けば、惰性的に日々を過ごしていく術なんかを覚えた。
だけど歩けてるようで歩けてないってことに、鏡を見て気づいたんだ。
もともと感情がでやすい顔ではないけど、さらにそれは失速してしまっていて。

「…」

寂しげに笑う自分に嫌気が差した。
そして、相変わらず『僕』を置いてきぼりにする世界にも。
だから、飛び出した。
どうだっていいや、なんて思ってた自分を殴ってやりたい。
このままじゃ僕の世界は『僕』がいない世界になってしまう。
自分自身を捨ててまで、そんな世界に溶け込めやしない。
そんなの、とっくに気づいていたのに。
他の誰かじゃない。
『僕』だけが、僕を作るんだ。

「…」

たとえ選んだ道が、ひとから何と言われようとも。

「…グリーン」

真っ白なシロガネ山の頂上で、いまはトキワジムでジムリーダーをしているという幼なじみの名前を呟く。
その噂を聞いてから、会いに行ってみようかなとか考えたけど止めた。いまは会ってもきっと意味がない。

「……また降ってきた」

ぱら、と灰色の空から白い雪が舞ってくる。
ここで何回目の冬だろう。

「…さむい」

はあ、と息を吐き出せばそれも白い。
それを見ながらグリーンを思う。
グリーンは、グリーンの世界で『グリーン』として生きてる。
グリーンが描いた道とは違うかもしれないけど、でも確実に進んでる。

「…」

だから僕も負けられない。ライバルだし。
それにいつかきっと会えるだろうから、そのときまで。

「…まで、」

僕が歩いた跡が、たとえ雪で見えなくなってしまっても。
『僕』が誰かいないかと声掛けて、誰も答えてくれなくても。
僕は歩いていく。

「…グリーン」

そして思い出のなかのグリーンに呼び掛けてみたら、グリーンはぶっきらぼうな態度で、でもむかしみたいに笑うと、

『レッド』

確かにそう答えてくれたんだ。












サムライハート

(僕はいま、生きてる)



>らくりさん
自分で自分を変える、みたいなイメージで書きました。グリレなのかと言われたらあれですが一応底辺にあるのはグリレですすみません。
リク有難うございました。





サムライハート/SPYAIR



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -