「あ、クラブだー」 眩しい陽が降りそそぐなか、レッドがグレンタウンの砂浜を無邪気に歩く。 いつも寒いところにいるから暑いところは苦手らしいけど、海は好きらしい。 日差しのおかげでキラキラと砂浜は輝いていて、海もキレイな青だ。 「あんまはしゃぐとこけるぞ」 いつになく無邪気に笑って遊ぶレッドを見て、思わず保護者のような一言が出てしまう。 それに苦笑しつつも、大丈夫、と言って砂浜に足をとられて顔面から砂浜にこけたレッドを見て慌てる。 「だから言ったのに」 「…うん、ごめん」 レッドの手を引いて立たせてやると、自分の行動を思い出して恥ずかしくなったのかレッドが耳まで真っ赤にして俯く。 そういう姿もかわいいな、と思いつつ、あまり陽に当たっていたら日焼けして肌が痛くなるだろうからと木陰にレッドを連れて行った。 「だけどなんでグレンタウンになんか来たの?」 木陰に腰をおろして服についている砂を払い、レッドがそう言えばと聞いてくる。 そう、ここに来たのはレッドが来たいって言ったわけでもないし、ここでジム関係のことがあるとかそういうわけじゃない。 ここに来たのは。 「レッド」 「んー?」 同じようにレッドの隣に座ると、静かに響く波音を聞く。 そして砂を払い終えたレッドが、なに?とおれのほうを見てきたから決心して言葉を紡ぐ。 「結婚しよう」 思いのほか、すんなりと言えることが出来たそれはバトルしようぜとかそういうノリのものではなく。 だからだろう。 レッドがおれの台詞を聞いて、目を何度か瞬きさせるとおれの顔をじーっと見てきている。 きっと頭のなかで言葉がうまく整理できていないんだろう。 「…え?」 「おれと結婚してください」 だから聞き返してきたレッドに、もう一度台詞を投げかける。 レッドに届くように。 すると二回目のその台詞をレッドはぼそぼそと反芻すると、一瞬固まり、そして次の瞬間にはぼふっと湯気が出るほどに顔が赤くなった。 「えっ、なっ、え?なに言っ…、ええ?」 ようやく台詞を飲み込めたらしいけど、状況が状況なだけにいつもは落ち着いているというか何事にも動じないレッドがすごく戸惑っている。 戸惑っているそれは、答えではなく、その言葉自体に、のようだ。 「もう一回言おうか? おれとけっ、」 「い、いい!言わなくていい!」 真っ赤な顔で首を横に振り、両手でいらないと示してくるレッド。 そして口元を押さえると、ちらちらとおれを見てくる。 「えっと…な、なんで僕なの?」 頭にはたくさんの疑問符が浮かんでは消え、また浮かんでいる。 「なんでって…レッドのことがすきだから」 「す…っ、………うん」 おれの回答を聞いて、ぼっとまた顔を赤くするけどなにやら納得したように頷いている。 でもレッドが不思議に思うのは無理ないと思う。 だっておれたちは付き合ってるわけではないから。 友達、幼なじみ以上で恋人未満。 ずっとそれだった。 それでもいいと思っていた。 だけど、ある日知ったんだ。 レッドがすごく弱くて脆くて、寂しがり屋だってことを。 薄々気付いてはいたけれど、あの日、レッドが泣いてたあの日に、おれの心は決まったんだ。 「…でもいきなり結婚って言われても…」 「レッドはおれと居たくない? おれはずっとレッドと一緒に居たいし、レッドを抱きしめてやりたい」 しどろもどろで、ちらり、とおれを見ながら言ってくるレッドにそう聞くと、まっすぐにレッドの目を見つめてそう告げる。 するとレッドは体育座りをしていた膝に顔を埋める。 耳が赤いから恥ずかしいようだ。 「〜〜〜っ…、なんでグリーンってたまにへたれじゃないの…」 「ん?」 「………なんでもないっ」 そして膝をぎゅっと抱えるレッドを見つめる。 その間、ふたりに流れるのは静かな波音と木漏れ日の音だ。 「………グリーンのこと、嫌いじゃないよ」 「うん、ありがとう」 「………僕も、グリーンと一緒に居たいし、グリーンに頭撫でられるのとかすきだし」 「そうなんだ?」 「!」 膝に顔を埋めているから表情はわからないものの、耳が赤いからきっと顔は真っ赤だろうし表情はきっと見たことないような顔をしているだろう。 そしてそんなレッドが白状してきたそれに、初耳、と思ってレッドの頭をよしよしと撫でてやると、レッドががばっと顔を上げた。 うん、やっぱり見たことないような可愛い顔をしている。 「…っ、ばかグリーンっ」 「こういうやりとりを、おれは毎日したいんだよ」 「…!」 顔を上げたレッドにそう言ってやれば、レッドはまた顔を赤くして体育座りをした膝に顔を埋めてしまう。 恋愛経験なんてろくにないレッドにいきなり結婚っていうのはハードルが高すぎただろうか。 それでもこの想いは変わらない。レッドに捧げる。 それに一度握りしめた手を離すようなマネはしない。それがたとえ嵐へ向かっていても。 きっとふたりなら新しい旅に出ていける。 「……でも、なんで僕なの?」 「レッドがすきだって言っただろ」 「……なんで僕のことが好きなの? 自分で言うのもなんだけど、どこがいいのか…」 ぼそぼそっとさっきと同じ質問をしてきたレッドにもう一度そう答えてやれば、レッドが違う問いを投げかけてくる。 遠慮気味というか謙遜気味というか、自分を過小評価してそう言ってくるレッドの頭を撫でてやった。 「!」 「レッドの全部が好きなんだ。 バトルが強いところも天然なところもドジなところも、強いふりしてるだけで本当は弱いところも」 「!!」 「最初は半信半疑だったんだ。 バトルも強いし、精神的にも動じることなく強いレッドが、って。 だけどちいさい頃の怖がりで泣き虫なレッドを知ってたから、本当は怖くて泣いて弱くて強いふりしてるって気付いたんだ」 「…」 そう。レッドは怖がりで泣き虫だった。 随分と強くなってしまったから忘れていたけど、本当は繊細で心が脆くて弱いってことを。 チャンピオンという檻に閉じ込められていたとき、レッドの心は何度崩れていったのだろうか。 そしてそれを誰にも悟られることなく過ごしてきただなんて。 「気付いてやれるのが遅くてごめんな。 もっと早くに気がついて抱きしめてやればよかった。 そうすれば、泣かないですんだのに」 「…!!」 するとレッドが顔を上げた。 表情はとても驚いていて、そして目尻には涙がたまっていて。 だからそんなレッドをぎゅっと抱きしめてやる。 「!!」 「もう気ぃ張ってなくていいんだよ。 おれにだけはレッドの全部見せてくれよ、おれはその心に触りたい」 「……グリーン…っ」 な?と言って抱きしめたまま、よしよしと頭を撫でてやるとレッドの手が背中に回されてきた。 そしてちいさい子がするようにおれの服をぎゅうっと握りしめる。 「レッド、おれと結婚してください」 「…っ」 ふたりでぎゅっと抱きしめあって、静かに波音を聞いて。 するとレッドがこくん、と頷くのがわかった。 だからより一層レッドの体をぎゅっと抱きしめてやると、レッドが苦しいと訴えてきた。 「ご、ごめん」 「…っ………グリーン、」 「んー?」 体を少しだけ離してやると、レッドがずつきをするように頭をおれの胸に当ててくる。 そしてぽつりとおれの名前を呼ぶと。 OCEAN (ふたりの誓いは、この海だけが知っている) >アキトさん 歌はすごくすきなのですが真剣にプロポーズを考えるとものすごくこそばゆい話になってしまったような気がします…なんでグレンタウンなのってかんじですが舞台を海にしたかったのでそうなりました。それにグリーンもそこにいましたしね! リク有難うございました。 OCEAN/B'z |