「レッドー、なんか飲むか?」

おれより先に風呂に入って上がっているレッドにそう声をかけると、ソファーに座っているレッドがおれのほうを向いた。
髪からぽたぽたと雫を落としながら。

「って、濡れてんじゃねーか!」

首にかけているタオルは一体なんのために?と聞きたくなるような光景に、おれは慌ててレッドのそばへと行くとそのタオルを首から掻っ攫うとレッドの頭へと被せた。
そして遠慮なしにごしごしと拭いていく。

「…グリーン、痛い」
「痛くしてんだよ。
つーか、ちゃんと髪ぐらい拭け。風邪引くだろ」
「…ん」

レッドが、こくん、とちいさく頷くもののちゃんとわかってるかどうかは定かじゃない。だってこれは毎回のことだ。
おれがこういう風に甘やかす(意味違う気もするけど)から自分でしないんだろう、とも思うが、目につくんだから仕方ない。
そしておれにされるがままに髪を拭かれているレッドはというと、だんだんと目が閉じてきていた。

「コラ、寝るんじゃない」
「…ん」
「聞いてねーだろ?」
「…ん」

完全に睡眠モードへと移行しているレッドの適当な相槌にイラっとくる。
どうしてこうなんだ、お前は。
そしておれは拭くその手を止めると、ソファーに座っているレッドと同じ目線になるようしゃがみこむと、眠たそうなその顔をじっと見た。

「レッド」
「…ん」
「キスしていい?」
「…だめ」

半分以上寝ているようなまどろんだ表情にそう聞いてみると、さっきまでの適当な相槌はどこへやら。
しっかりと拒否の言葉が返ってきてへこむ他ない。

「っ、なんでそこはちゃんと聞いてんだよ!」
「…ん」

こくんと頷く、というよりも眠たくて首がカクっとなったレッドがまた適当な相槌を打つ。
それに悔しいやら恥ずかしいやらでおれはしゃがんでいたのを立ち上がると、またレッドの髪を拭くべくタオルに手をかけた。

「ったく…あ、寝るなよ。
髪乾かしてから寝るんだからな」
「…ん」
「目を開けろ、目を」
「…開いてます」
「どこらへんが?」

そして完全に目を閉じてしまったレッドに寝ないよう促すものの、返ってきた強気な台詞にイラッとした。
開いてるだと?1ミリの隙間もないぐらいしっかりと閉じられてますけども。
これじゃあ髪が乾くよりも先に寝てしまうだろう。

「…仕方ねーな」

おれはため息をつくと、洗面所からドライヤーを持ってくるとレッドをソファーに座らせたままソファーの後ろに立つと、そこで髪に熱風を当て始めた。

(これも毎回のことだな…)

熱風に吹かれると、レッドの濡れていた髪はあっという間に乾いていった(髪が細いから乾きやすいようだ)
そして乾いた髪はさらさらとおれの指を滑っていく。
ああいう雪山にいてろくな手入れっつーか、何もしてないだろうにレッドの髪はとてもキレイだ。熱風で舞う髪が、リビングの電気に当てられキラキラと光る。

(こいつの髪質羨ましい…)

そう思いながら髪に指を滑らせていると、ドライヤーのゴーゴーという音と乾かすことに夢中になっていたため忘れていたが、レッドはというと完全にうたた寝モードから就寝モードになっていた。
ドライヤーを止めると、ちいさく聞こえる寝息がその証拠だ。

「…寝やがった…」

まぁ髪は乾かしたし寝てもいいけど。
それでもこいつはここで寝るつもりなんだろうか。それともベッドまでおれに運べと?
そう思いながら、ソファーの後ろに突っ立ってため息まじりにレッドの後頭部を見つめていると、レッドの頭がかくんと動いて前に折れるのではなく後ろ向きに、ソファーの背のうえを枕にするようにして天井を向いた。

「…気持ちよさそうに寝てんな…」

すやすやと眠るその寝顔はちいさい頃と変わってなくて、幼い。
というか、単に可愛い。だが。
鼻でもつまんでやろうか。
なにかいたずらでもしてやろうと思ったところで、天井を向いて寝ているレッドの顔を覗き込むようにして反対側から見るとちいさく聞いてみる。

「…レッド、キスしてもいいか?」

するとちいさな寝息が途切られると、微かに唇が動いた。

「…ん、」









眠り姫は夢の中でキスをする



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