「おれさ、レッドのこと嫌いになった」

勝手知ったるなんとかでおれの部屋に上がりこんで、ひとのベッドに腰掛けてひとの図鑑を見ているレッドにちいさくそう言ってみれば、レッドはおれのほうを向くこともなく、ただ一言。

「そう」

とだけ返してきた。
幼なじみだからケンカをするのはしゅっちゅうで、そのなかで嫌いだのなんだの暴言を吐いたことは何度もある。
でもそういうときレッドは何も言わなくて、無言のプレッシャーなるものをかけてきて結局はおれが折れて仲直りするのが常だった。
それでも今回はケンカなんかしてないし、おれが嫌いだという台詞を言うシチュエーションはいっさいない。
それなのに、レッドからの反応はごく短くなんでもないかのような一言で。

「…嫌いになったんだぞ?」
「うん、だから?」
「…」

もしかして適当に相槌打たれただけじゃあ、と思ってもう一度言ってみるものの、レッドはひとの図鑑をずっと見ていておれの台詞にちいさく頷いてそう聞き返してきた。
表情はいつもどおり。無表情だ。

「だから、どうしてほしいの?」
「…へ?」

すると視線は図鑑へ向けたままで、レッドがそうおれに聞いてきた。
おれはその質問の意味がわからなくてマヌケな声を出すものの、レッドはお構いなしに続けてくる。

「だから、僕にどうしてほしいの?」
「いや、どうしてって…なにが?」

質問の意図が汲み取れなくて、思わずそう聞いてみると、レッドはやっと図鑑から視線を剥がすと、おれのほうを向いた。表情はいつもどおり。無表情。
なんとなくその無表情に圧倒されて、なんか、怖い。いや、レッドの無表情は見慣れてるけど、こういうときの無表情はいつも以上に感情が読めなくて難しい。
つーか、喜怒哀楽もっと出せ。

「僕のこと嫌いなんでしょ?
部屋から出て行ってほしい?もう来ないでほしい?」

するとレッドは表情変えずに、おれにとってはきつすぎる選択肢を出してきた。
部屋から出て行ってほしい?んなわけねーだろ、何週間ぶりに会ったと思ってんだ。
もう来ないでほしい?そんなことおれを殺す気か。つーか、おれがシロガネ山に住むぞ。
そう、おれがレッドのこと嫌いなわけがない。
むしろ、好き。いや、好きです。
嫌いだなんて言い出したのは、そしたらレッドがどんな反応するか見てみたかっただけで。
それがこんなにもおれにダメージを食らわせるなんて思ってもみなかった。

「な、なんでそんな展開になるんだよ」
「だって、グリーンが僕のこと嫌いって言うから、そうしたほうがいいのかなって」
「んなわけねーだろ!」
「そう」

ここで、部屋から出て行ってほしい、もう来ないでほしいと言えば、レッドは絶対にそうする。有言実行。いい意味でも悪い意味でもこいつはそうだ。
だからつい焦ったように否定すれば、レッドはちいさくそう頷くと、また図鑑へと視線を戻した。

「…お前さ、おれのこと嫌いだろ」

なんとなくこの短い時間で感じたのは、おれより図鑑。そんなにレッドが知らないような新種とかあまりなかったような気がするものの、それでもおれより遥かに視線を向けられている機械になんとなく腹が立つ。心が狭いとかそういうのは仕方ない。
だって、好きなんだ、こいつのこと。
だからため息まじりにそう呟いてレッドの隣りに座ると、図鑑を一生懸命見ているレッドの横顔を見つめた。

「ん?」
「だから、おれのこと嫌いかどうか聞いてんの」
「嫌い」
「…ですよねー」

そして即答に近いぐらいに返ってきた台詞にかるく撃沈していると、図鑑から視線を外して、レッドがおれのほうをまた見てきた。
おれもレッドを見ていたのだから、見つめあうことになるのは必然で。

「ど、どうした?」

その無表情で冷たい炎みたいな目に見つめられると、なんだか居心地が悪い。見透かされてそうだ。
そして次にレッドから発される台詞に、おれは思わず耳を疑った。
これは完全に見透かされてる。

「…好きって言ってほしいの?」

流れ落ちた星のなまえを知っていますか?









(イエス、それ以外おれに選択肢はない)




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