「はい、おしまい」

そう言ってレッドがトランプの山に、持っていたトランプ2枚をぱさっと置いた。
スペードのJとダイヤのJ。
そしておれの手には1枚のトランプ。ジョーカー。

「っ、もう一回だ、もう一回!」

暇だから、ということでふたりでトランプなんかしているわけなんですが、おれはいまババ抜き2連敗中だ。
まぁふたりでババ抜きして何が楽しいんだってかんじだけども。
そして負けてしまったおれはあまりの連続のストレート負け(最初からおれがジョーカー持っててレッドに引かれることなく最後まで持ってた)に、性懲りもなく再戦を要求して、レッドがそれに「いいよ」と言うとトランプをシャッフルし始めた。

「あ、忘れるとこだった」

何回かトランプをシャッフルしたところで、ポケットのなかのものを思い出し、それを取り出してレッドに渡す。

「…なにこれ」

渡したそれは、可愛らしいピンク色でいちご柄の封筒。
いわゆる、ラブレターってやつだ。

「レッドに渡してくれって頼まれた」
「…ふぅん?」

だけどレッドはこういうことに疎いため、渡されたそれがラブレターだとは思っていないようで。
なんだろう、と首を傾げると丁寧にそれの封を切った。

「けっこう可愛い子だったぞ」

そしてまたトランプを何度かシャッフルすると、自分のとレッドのとトランプを配り始める。

「…ごめんって言っといて」
「は?また?」

すると内容に全部目を通したレッドがぽつりとそう言ってきた。
おれはそれを聞いてかるくため息をつく。
実はこういうの、これが初めてじゃない。だけどレッドは全部断ってしまっていて。

「可愛かったのに勿体ねー」
「…だったらグリーンが付き合えばいいじゃない」
「ばーか、おれはいまジムリーダーでくそ忙しいんだよ」

おれの台詞になぜかむっとしたようにレッドが言ってくるからそう答えてやる。
いや、彼女はほしいけど、前の彼女に「私とジムリーダーとどっちが大事なの」みたいなこと言われて、しばらく彼女というか特定の子は作らないと決めたんだ。まぁその分、遊んでるけどな。
つーか、レッドもレッドだよな。このおれにわざわざレッドにラブレター渡してくれって頼んでくるような子を振るなんて。

「それともなんだよ、好きな子でもいんの?」

トランプをすべて配り終わって、同じペアを探してどんどん整理していく。
同じくレッドもペアのトランプを次々とテーブルのうえに置いていく。

「…うん。だから、ごめんって言っといて」
「それは自分で言えって。つーか、好きな子いんの?まじで?」

残った手札のトランプに同じものがないか確認する。
お、今回おれのとこにジョーカーない。てことは、レッドのとこにあるんだな。よし、引かないよう全力で気をつけよう。
そんなことを思いつつ、準備万端、とレッドを見る。

「なに、おれも知ってる子?」

そんなことを言いながら、グーを出してじゃんけんしようぜとジェスチャーする。
それにレッドもグーを出してきてじゃんけんしてみれば、おれがチョキでレッドがパー。

「どうなんだよ。
あっ、もしかしてコトネとか?」
「…ちがう」

レッドの手札から1枚引きながら聞いてみると、レッドからはぼそりと否定の台詞が返ってくる。

「…コトネは可愛い後輩」
「可愛い後輩ねぇ…あいつ、お前のことすげー好き好きオーラ出してんのに」
「あれはそういうのじゃないと思う」

淡々とトランプを引きながらレッドから回答が返ってくるけど、まあ確かにそうだよな。
コトネが言うレッドへの好きは、恋愛っつーより尊敬とかそっち系だ。って、コトネはいいんだって。レッドだよ、レッド。

「で、レッドの好きな子って誰だよ」
「…別に誰でもいいでしょ」

レッドの手札から1枚とり、ペアを見つけて捨て札の山に置いていく。
おれがジョーカーを引かない限り、さくさくっと終わりそうだ。前回、前々回とおれが負けたように。

「気になるだろ、レッドの好きな子って」
「…気にしなくていいよ」
「気になるんだよ。だってレッドが好きになった子だぞ?」

そういやレッドと恋愛絡みの話とかしたことない。
でも、するという選択肢がいっさいなかったからなぁ。
つーか、レッドが好きな子…やっぱバトルが強い子か?シロガネ山に挑戦に来て、とかそういう。

「……知ってるよ」
「は?」
「…グリーンも、知ってるひと」

するとちいさくため息まじりにそう言われた。
そしておれの手札から1枚引かれていく。残りは、おれは3枚。レッドは4枚だ。

「おれも知ってる子?
コトネは違ったし…あとは誰だ?」

うーん、と考えつつ、レッドから1枚引く。これで残りは、おれは2枚。レッドは3枚。
そして、うーん、と考えて、意外とレッドと共通で知ってる子が限られることに気がついた。

「カスミ?」
「…ちがう」
「じゃあ、エリカ?」
「…ちがう」
「うーん、じゃあ、ナツメ?」
「…ちがう。ていうか、みんなジムリーダーばっかだね…」
「お前とおれが知ってるってなったらこれぐらいだろ」

考えつく子を挙げていってみるものの、レッドは全部に首を振る。
他にいるか?つーか、トレーナーはよく覚えてないんだよな。
そう思っていると、レッドが1枚引いていく。
これでおれが1枚。レッドが2枚。
次におれがジョーカーを引かなかったら、ストレートでおれの勝ちだ。

「本当におれが知ってる子かよ?」
「…よく知ってると思うよ」
「ええ〜…あっ、まさかナナミ姉さんとか?!」
「…ちがうけど、すごく惜しい」
「惜しい?!」

ないだろう、と思って挙げてみたナナミ姉さんがけっこういい線いってたらしい。
惜しい、と言われてそれじゃあ年上か?とか思ってみるけど、おれも知ってる子で年上って……いるか?

「いやいや、レッド。
まったく浮かばねーんだけど」
「…別に浮かばなくていいよ」
「なんだよ、すげー気になるだろ」

そしておれはレッドの持つ、右と左のトランプを透視するかのような勢いで見つめる。
どっちだ?
どっちがジョーカーじゃなく、当たりなんだ?

「…気にしなくていいって」
「つーか、そこまで言うなら教えてくれたっていいだろ。
別に誰かに言ったりとかしねーし」
「…だめ」

レッドの好きな子がまったく見当がつかない。お手上げとばかりにレッドにそう言ってみるけど、レッドは静かに首を横に振った。

「…あ、それともさ」

ふと思い付いたことがあって、それを容易に口に出してしまう。
だって誰もそうだとは思わないだろ。
そしておれはこっちのが当たりだと意を決して、1枚引く。

「おれ、とか?」

引いたそれは、ハートのエースだった。









ジョーカーを引くのは誰だ




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