※グリーン×にょたれ





「グリーンっ」

ジムから帰っていると不意に後ろから呼ばれ、それに振り向こうとすると、

「?!」

ズドン、という音とともに何かがおれにタックルをしてきやがった。
前のめりに倒れずによく受け止められたなぁと心のどこかで思いつつ、腰への衝撃と突然のことで心拍数が上がっていく。つーか、誰だ。
だけど振り向いて誰なのかを確認する前にそいつの正体がわかった。

「…レッド、なんのつもりだ」

香る匂いと長い髪、そして何よりこのくそ寒い時期に半袖なのはひとりしかない。
幼なじみのレッド。一応、女の子なんだけども。
ため息をこぼしつつ、おれにひっついている(激突したままとも言う)レッドをべりっと引き剥がして向かい合う。
残念なことに、突然なことと相手がレッドだったということで、タックルしてきたときにレッドの胸がおれに押し当てられてたなんてことは華麗にスルーしていた。
けっこう胸でかいんだよな、こいつ。

「…」

やっぱりレッドだ。
背中まである長い黒い髪に雪のように白い肌。
そして冬がやってきたというのに半袖+ミニスカート+ニーハイという出で立ち。
首に巻かれたマフラーが違和感を覚えるのはなんでだろう。
つーか、お前の体温調節機能は万年夏に設定されてんのか?

「つーか、話はあとな」
「え?」

大きく揺らぐ赤い目にそう告げると、おれはコートを脱いでレッドの肩にかけてやるとそのレッドの白くて細い腕を掴んで歩きだす。

「…っ」

ぐあああああああコート脱いだらくそ寒いんですけど!!
今日はそんなに風が強いわけでもないけど気温が低いから寒いに決まってる。
つーか、こいつはほんとなんで半袖で平気なんだよあり得ねー!
てか、手、ちょー冷たいじゃねーかよ!!
と、心のなかで盛大に叫ぶと(何かよくわかんねーけどとりあえずプライドが声に出すことを拒否っている)、特に抵抗もないレッドをおれの家まで連れていくと暖かいリビングに座らせる。

「グ、グリーン?」
「いま風呂沸かしてるからちょっと待ってろ」
「ふろ?」

何でここに連れてこられたのかさっぱりわからないという表情でレッドがおれを見てくる。
だからココアをいれてやるとそれをずいっとレッドに差しだす。
こいつ、コーヒーは飲めないんだよな。

「女の子は体冷やしちゃいけないって姉さんが言ってたんだよ」
「…あ、ありがと」

驚いたように目をぱちぱちと瞬きさせるとレッドがおれからマグカップを受け取る。
それにちいさくため息をつくと、自分用のコーヒーを淹れようとキッチンに立つ。

「で?何か用かよ?」

あいにくコーヒー豆を切らしていて、仕方ないから貰いもののインスタントコーヒーにお湯を注ぐ。
レッドにそう聞いてからレッドを見てみれば、レッドは何のこと?とでも言いたそうな表情だ。

「…ひとにタックルしてきてそれはねーだろ…」

あの殺人級のタックルはただの挨拶だっていうのか?
つーか、いくら幼なじみとはいえ女の子が男に向かってああいうことしてくるか?
する子もいるかもしれねーけど、おれとお前の小さいころからの記憶をたどってもああいう体育会系なことをする間柄だった覚えはねーんだけど。
まぁでもこいつすげー天然だし、小さいころから何考えてるかよくわかんなかったしな。

「…グリーンがいたから、つい」

…なんだそれ。
うん、やっぱり天然はよくわかんねーな。

「…お前なぁ…。
つーか、前に持って行ってやったコート着ろよ」
「コート?」
「こないだおれがシロガネ山に行ったときに持って行っただろ」
「…あー…うん…、あれは、いい」

コーヒーの入ったマグカップを手にレッドの隣に座ると、レッドからは歯切れの悪い返事がもどってくる。
なんやかんやでマフラーはしてくれるようになったけど、コート系は絶対着てないんだよな。
でも下りてくると長袖着るし厚着もしてくれる。
シロガネ山はここより暑いのかと思ったこともあるけど、一回登ればそれはないとわかるしな…。

「いいって何だよ。
まぁ確かにおれの着なくなったやつだからでかいし嫌かもしんねーけど」
「…そうじゃなくて」
「は?」

新しくレッド用のを買いに行く暇なんてねーし、そもそも女物のコートをおれが買いに行くってのもなぁ。つーか、幼なじみとはいえ異性なのにこんなに親身になってくれるのってたぶんおれだけだと思うぞ。
するとレッドは首を横に振ると、もじもじと体を震わせる。
つーか、髪伸びたなぁ。

「…その……、グリーンのにおいがするから…やだ」
「は?ちゃんと洗ったぞ?」

するとレッドからぼそっと返答がもどってきて、それに思わず思春期の娘がいるお父さんの気分になる。
まだ加齢臭なんて年齢じゃねーし、香水ふりまいてるわけでもねーし。
でもこれで前者だと泣く、お父さんは泣くよ。

「と、とにかくグリーンのにおいがするから嫌なのっ」
「…!!」

ぷいっと顔をそらすレッドの態度に、やっぱり前者なのかと心に鋭い何かが突き刺さる。
なんだよ、おれはお前と同じ年齢であって、この年でお父さんな気分なんて味わいたくねーよ!泣くぞ、まじで!
くそっ、こういうとこだけ女の子しやがって…!

「そうなのか…」
「え?」
「いや、自分じゃ気付かないうちに進むって言うし…そうか…」

よくわからないへこみ方をするおれを見て、レッドが頭にハテナを大量に飛ばしておれを見てくる。
ばか、お前のせいでこうなってんだよ、おれは。

「グ、グリーン?」
「今度ボディソープ変えるわ…」
「…何の話?」

ぽつり、とそう言うおれにレッドはやっぱり首を傾げていて、さらり、と長い黒髪が揺れる。
そして何かを考え付くと、レッドがおれの頭に手を伸ばしてきて。

「よしよし」

そんなことをしてきた。

「…は?」
「え?いや、グリーンがなんかへこんでるみたいだったから…」
「ばか!おれはお前のせいでへこんでんだよ!」

なに、このある意味追い打ちをかける行動は。
お父さんの次は子どもか!
レッドによしよしとかされても、萌えないしきゅんともこないんだよ!って基準がおかしいな、おれ。
そしてまったくわかってないレッドにがあっと吠えてそう言ってやるとレッドはまた首を傾げる。
つーか、その首を傾げる癖は相変わらずだな。

「…何かしたっけ…?」
「っ、お前がにおいが臭いっていうから…!」
「え?グリーンのにおいがするって言っただけで、臭いとか言ってない…よ?」
「…え?」

傷を抉る気か!と思いつつもちゃんと答えるおれ。
そしてそんなおれにレッドがなに言ってるのとでも言いたいような表情でそう言ってきた。
ということは。

「…加齢臭じゃねーってことだよな?」
「かれい?なんのこと…?」

またまた首を傾げるレッドに、思わずガッツポーズをとる。
よかった、まじでよかった。幼なじみからこの年齢で加齢臭指摘されたとかあり得ないとは思ってたけど、まじでよかった。
まあおれが早合点しただけなんですが。
つーか、あれだよ。レッドが柄にもなく女の子みたいなこと言ってのけるからだ。

「じゃあ、おれのにおいがするから嫌って何なんだよ。
加齢臭はもちろんねーし、香水とかつけてもねーぞ」
「えっ?い、いや、だからそれは…その…」

するとレッドは一気に顔を赤くすると、俯いてぼそぼそっとしゃべり始めてしまった。

「…」

それになんとなく思い当たることが浮かび、まさかレッドにこれはねーだろ、と思いつつも聞いてみる。

「着たらおれのにおいがするから、おれのこと思い出しちゃうとかそういうことか?」
「!!」

ないだろ、と思って聞いてみた恋する乙女な心理を適当に言ってみると、レッドがさらに耳まで赤くしておれを見てきたから、これはやっかいな地雷を踏んでしまった、と心のどこかで浮かれた。









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