今日はオフ。
掃除も洗濯も終わったし、なにしようかなと思いながらカップにコーヒーを注ぐ。
もうひとつのカップはあまめのココア。レッド用だ。

「ほら」

そしてそのカップをソファーに座ってテレビを見ているレッドに渡す。

「ありがと」
「なに見てんの?」

自分はソファーの前にあるテーブルにカップを置き、レッドの隣に座る。
テレビには何かドラマらしきものが流れているけど、レッドがこういうのを見ることは珍しい。
だからそう聞いてみれば、

「…つけたらやってた。でも面白くない」

案の定、見たくて見ていたわけではないことが告げられる。
そしてレッドはリモコンを持つと、ピッピッとチャンネルを変え始めた。
つーか、今日まじでなにしよう。レッドがいるから後でふたりで買い物にでも行くかな。

「あ」
「え?」

そんなことを思っていると隣のレッドから声が上がり、それにテレビを見てみれば映るのは自分の姿。

「最強で最高、トキワジムのイケメンカリスマリーダー、だって」
「?!」

淡々とテロップを読むレッドに、飲んでいたコーヒーを思わず噴き出しそうになる。
はいいいいい?!って、あれか、こないだ取材にきてたやつか?!
慌ててテレビを見てみるとやっぱりこないだ取材にきてたやつのようだ。
というか、抑えきれなかったのか、ぷっと吹き出して笑うレッドに羞恥心が一気にこみあげていく。

「み、見なくていいから!」
「えー、これ面白そうー」

棒読みで言うな、棒読みで!
えーと、あのときなに聞かれたっけ。取材はたしか各地のジムリーダー特集でトキワジムの番だったんだよな。えーと…。
変なことを言ったつもりはないが、あのテロップだと素敵に編集されてる気がしなくもない。悪いイミで。

「イケメンカリスマリーダーに密着」
「だから見なくていいっつーの!チャンネル変えなさい!」

テレビの5分ほどのコーナーだとしても、レッドと見るとなったらおれにとっては一時間ほどの拷問に近い。
隣で、うわーとかへぇーとか感心めいた声(ただし棒読み)を出すレッドにそう言うと、最終手段とばかりにレッドが持っているリモコンを奪うべく手を伸ばす。

「やだ、僕これ見たい」
「おれは見たくねーんだよ!」

ソファーのうえでどたばたとリモコン争奪戦が始まり、レッドに手を伸ばすもののレッドはソファーのうえで後ずさりしておれから逃げていく。
そして端までたどり着いてしまったレッドをチャンスとばかりに押さえ込むようにして圧し掛かると、リモコンに手を伸ばす。

「…見られたら悪いことでもあるの?」
「ないけど恥ずかしいんだよ!」
「イケメンカリスマリーダー」
「うっさい!」

明らかにおれをからかって面白がているレッドに(無表情はやめて)があっと吠えると、そこでハタと止まる。
レッドはいまソファーに仰向けで倒れこんでいて、おれはそんなレッドに圧し掛かっている。というか覆いかぶさってる状態で。
さらには体勢が体勢なので、顔が近い。
おれが明かりを遮っているから明るくて見やすい、というわけではなくて顔が近いから見やすいというかんじで、レッドの長い睫毛もキレイに見える。

「…」
「…」

つーか、同じ男のくせにほんと可愛い顔してるというか。
目だって大きいし睫毛も長いし、肌もキレイだし唇もちいさくぷるんと潤っていて。

「〜〜っ?!」

待て待て待てまてまて!え?なにこの体勢?!
するとレッドも同じように今の状況に気がついたようで、ふたりしてかあああっと顔を赤くする。
リモコン争奪戦をしていただけで、別にやましいこととか一切ないけどこの体勢はちょっとなんていうか。
というかなんでレッドを押し倒してんだ、おれ。つーか、まじで顔近い!キス出来るんじゃね?って、ばか!

「あっ、わ、悪い…っ」
「う、ううん…っ」

ぐるぐる考えるそれをぐしゃぐしゃに丸めて頭の隅に投げて、とりあえず謝る。そしてふたりしていそいそと離れた。

「…」
「…」

平静と冷静を装っているけど、心のなかはパニックだ。たぶんレッドもそうだろう。耳がいつになく赤いし。
つーか、なにこの空気。すげー恥ずかしい。さっきまでの恥ずかしさとは比べものにならないほどに…、って。

『そうですね、理想は大事ですが理想だけでは強くはなれません。それに実際バトルしてみることで…』
「?!!」

うわああああああ!!まだやってたし!!しかもいい笑顔で何か語ってるし!
リモコンはレッドが持ったままだから、急いでテレビの前に行くと本体のボタンを押してテレビの電源を切った。

「…」
「…」
「…」
「…」

そしてテレビが消えたことで、部屋のなかに静寂が広がる。
というかなんだこれ。なんでこんなに気まずい空気になってんだよ。
つーか、付き合ってんだしあそこでキスのひとつやふたつしても問題なかった気もしてきた…。
そんなことを思うと、ちらり、とレッドを見る。
すると微かに頬の赤いレッドと目が合うと、ばか、とちいさく告げられてリモコンがおれめがけて飛んできた。
そのあと、「ばか」がテレビを消したことへなのか、あそこでキスのひとつもしなかったことへなのかちょっと悩んだ。








アマリリスの憂鬱



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