※グリーンが女ったらし ガチャ、と音がして部屋に入ってきたのはこの家の主、グリーンで。 いつもみたく泊めてもらうことにしてて先に風呂に入ってたらその間に出掛けていたようだ。 まあどこに行こうがグリーンの勝手だし、僕は泊めてもらう側だし詮索するようなことはしないし出来ない。 するとグリーンがソファーに座っている僕をじーっと見てきた。 「…なに?」 見ていた雑誌から顔を上げてグリーンを見てみれば、グリーンはなにやら不服そうな顔色だ。 「どこ行ってたの、とか聞かねーの?」 聞かれたそれにちょっと驚く。 いつもだったらどこかから帰ってきても僕を気にする風もないし、それに関して話かけてくることもないのに。 だけど聞いたって返答はわかってる。 「…どうせ女の子のとこでしょ」 グリーンはすごくモテる。 トキワジムのジムリーダーをしているのもあるけど、かっこいいし優しいから女の子たちに人気がある。 そしてそんなグリーンは大抵いつも違う女の子といる。 特定の彼女は作らないのがポリシーとかなんとか言ってたけど。 「……」 そして最悪なことに、僕はそんなグリーンのことが好きだ。たとえ女の子をとっかえひっかえで遊びまくっていても、好きなものは仕方ない。 なんでこんなやつ好きになったんだろう、と思ったこともあるけどよくわからない。 「…レッドってさ、おれのこと独り占めしたいって思わねーの?」 「え…?」 するとグリーンからそんなことを言われ、驚いてグリーンを見る。 「好きなやつが他の子のとこにいったりしてんの嫌じゃねーの?」 「……僕はグリーンのこと好きだけど、グリーンは違うだろ。 だから、グリーンが他の子のとこに行こうが気にしない」 そう、グリーンは僕がグリーンのことを好きだっていうことは知っている。 でもグリーンからの返答は、好きでも嫌いでもなかった。 レッドはレッド、そう言われて幼なじみという前と変わらない関係でいる。 好きでもないけど嫌いでもない。 そんな曖昧な答えだったけど、今までの関係が崩れるわけじゃなかったからそれで納得した。はずだ。 「…気にしない?それまじで言ってんの?」 だけど今日のグリーンは何か変だ。 僕の台詞を聞き返すように言うと、眉を寄せて怪訝そうな顔をしている。 でも気にしないとか、本気で言ってるわけがない。そう自分に言い聞かせてるだけだ。 「…友達が何しようが気にしないよ」 「友達っつっても、えっちしてんじゃん、おれたち」 「!」 幼なじみの関係。 だけどそれは無邪気な子どものそれとは違って。 遊びの延長でえっちをする関係になってる今は、幼なじみとは言えないんだろうか。 (……これ以上、この話はしたくない) そう思って雑誌を閉じるとソファーから立ち上がろうとした。でもそれはグリーンの手によって阻まれてしまう。 「レッド」 「…でも、友達、だよ。グリーンがそう言ったくせに…」 グリーンに掴まれたところが熱い。 そして唇を噛みながらぽつりと言い返す。 僕がグリーンのことすきだって知ってて、それでも手を出してきたのはグリーンだ。 僕はすきだけど僕のことすきでも何でもないグリーンから抱かれる僕の気持ちなんて、グリーンはわからないだろう。 どんなに嬉しくて、どんなに悲しいかなんて。 そう、全然わかってない。 「なんでそんなにあっさり割りきれるんだよ?」 「…」 「なあ、なんで?」 「………なんで? …っ、僕がグリーンのこと好きだって知ってるのに…友達だって言ってえっちなことしてくるグリーンのがなんでなの…っ」 グリーンに触られたらますますグリーンのことしか考えられなくなるのに。 グリーンは僕のこと、好きでも嫌いでもない。 ただ、遊ばれてるだけ。グリーンに触られると、そう痛感してしまう。 でも、触られると嬉しい。好きなひとから触られて嫌なわけがないでしょ? こんな矛盾、受け入れてしまった僕のほうが悪いんだろうけど。 だからってわかってなさすぎだ。 「だってレッドがおれのこと好きだって言うから、」 「〜〜…っ、言ったからって何してもいいわけないだろ、ばかっ」 「な、泣くなって」 「…っ…泣いてない…っ」 いつになく大声を出して、しまいには泣く僕を見て慌てるグリーンをぎろりと睨む。 最悪だ。ほんとなんでこんなやつ好きになったんだろう。 いつか諦めようって思ってたけど、いまがそのときなのかもしれない。 もう疲れた。肉体的にも精神的にも。 諦めよう。 嫌いにはなれそうにないから、すきになるのを止めよう。 グリーンのように、嫌いでもすきでもなくグリーンはグリーンだ、とそう思おう。 惨めな片想いはもう終わりだ。 もう、諦める。 そう思っていたら、グリーンが僕をぎゅうっと抱きしめてきた。 「っ?!」 「……。 …もう他の子のとこに行かねーから」 「っ…、え…?」 ぽつりとそう言われたけど、グリーンの台詞が上手く頭のなかに入ってこない。 いま、何て…? 「レッドとしかえっちしないし、レッドに独り占めされたいんだよ」 「……なに、言ってるの?」 幻聴が聞こえてるんだろうか。 だって有り得ない、そんなこと。 「〜〜っ、だから…っ…おれも好きになったんだよ、レッドのことが!」 「………嘘だ」 ムキになったようにそう言ってきたグリーンの台詞が今度は頭にちゃんと届いた。 だけど脳内がそれを理解したがらない。 だって今更、そんなこと。 「はあっ?!ひとが勇気振り絞って告白したのに嘘はねーだろ!」 「…リップサービスでしょ?」 「お前、おれといたせいか疑り深くなったな?」 がばっと体を離してそう言ってくるグリーンの顔が呆れている。 でも今までのことを思うと、すんなりと納得できるわけもない。 (ばか、こっちが呆れたいのに) 「…他の子のとこに行きたかったら行けばいいだろ。 僕は気にしないか、…っ?!」 すると後ろ頭に手を添えられたかと思うと、グリーンの顔が近づいてきてキスをされた。それに世界が止まりそうになる。 だってえっちは何回もしていたけど、キスは一回もされたことなかったから。 (〜〜…っ、なんでこんなときにキスなんか…っ) 「んっ…ふ、あっ」 「…だから違うっつってんだろうが! レッドが好きなんだよ!他の子なんかどうでもいい!」 「えっ、ちょ、待っ…ひゃあっ?!」 なぜか逆切れしたようにグリーンはそう言い放つと、僕の服のなかにその手を侵入させてきた。 その手が熱いのは、気のせいだろうか。 そしてするすると慣れた手つきで僕の腰からわき腹を撫で上げていって、それに慣れてしまっている僕の体はびくびくと震えてしまう。 「や、やだ!触らな…っ」 「レッドが好きなんだよ!」 「〜〜…っ! いやだ!!」 「!」 ドンっ、と精一杯の力でグリーンを押し返す。 視界は歪みまくっていて、自分が泣きすぎるほどに泣いてることがわかる。 でも涙は止まらないし、涙を拭うような余裕はない。 (っ、なんでこの男は本当に…っ) 心が押し潰されそうなほどに痛い。 その言葉をどんなに聞きたかったことか。でも聞きたくなんかなかった。 なんで今そんなこと言うの? ひとが諦めたときに。そう決めたときに。 そしてふたりの関係がどこのボーダーラインにあるのかわからなくなったいまに。 「…〜〜っ」 すべては遅すぎたんだ。 なにもかもが取り返しのつかないぐらいぐちゃぐちゃで、きっともとに戻してもどこかイビツでキレイに元通りにはならないだろう。 それならいっそ。 「………………っ……グリーンなんか…きらい、だ!」 子どもみたいに泣いて喚いて、大人みたいにすべてのことをなかったことにするんだ。 溺愛カタルシス |