大体いつもこうだ。

「…んっ…」

さらり、と髪を梳くようにして頭を撫でられ、食むようにキスをされる。
キスは嫌いじゃない。
だからグリーンとキスするのは好きだ。
だけど。

「っ…ふ、あっ」

下りてきてグリーンの家に泊めてもらうから、グリーンの家に行ったら大体いつもこう。
するのは、えっちなことだけ。

「…ひゃ、っ…グリーンっ」
「んー?」

する、と服のなかに忍び込んできたグリーンの手が素肌を滑ってそれがくすぐったくて冷たい。
それを咎めるように名前を呼ぶけど、グリーンはお構いなしでさらに事を進めてくる。

「…んんっ」

嫌いじゃない。
グリーンに触られると、温かくて安心できて嬉しくて。
嫌いじゃないけど。

「っ、ま、待った…!」
「待たない」
「ちょっ…やだってば!グリーン!」

ぐぐぐ、とグリーンの体を必死に押し返す。
するとグリーンは僕の異変に気付いたようで、やっと体を少し離して僕を見下ろしてきた。
そう、嫌いじゃないけど、けど。

「なに?するの嫌?」
「い、嫌なわけじゃないけど…」
「じゃあ、いいだろ」
「だっ、だめ!
やっぱりやだ!」

どうしたの、という表情で見下ろしてくるグリーンに、首を横に振ってみせる。
嫌じゃないけど、嫌だ。
手の動きを再開させようとしたグリーンに、思いっきり首を横に振ってみせると、両手でグリーンの口を塞いでやった。

「?」
「だ、だから…その、会ったらいつもこうだから、…なんていうか……しないで過ごしたい…」
「…」

口がもごもごしたからちゃんとグリーンに聞こえたかはわからないけど、それでも言いたかったことをぽつりぽつりと話す。
グリーンとするのは嫌いじゃないけど、けど会ったらいつもえっちなことばかりで。
気がついたらベッドのなかだし、朝だったりもするし、そしたら次の日はグリーンはジムがあるから。
それに家に仕事持って帰ったら、一日グリーンと話せないときもある。
普通の恋人同士にいつも会えるわけじゃないから、たまに会えたときに相手に触りたいって思うのはグリーンだけじゃない。
でも、さすがに毎回こうだとえっちするために下りてきてるみたいで。
それに逆にこれがグリーンに負担かけてるんじゃないかって。

「…」
「…」

そう、思うわけで。

「…わかった」
「え?」
「じゃあ、今日はしない」
「…う、うん」

するとグリーンは意外にもあっさりとそう返事をしてくると、僕のうえから退くとベッドを下りた。
そして、なんか飲み物持ってくる、と言ってキッチンに行ってしまった。
なんだか拍子抜けた気もするけど、これでいい、んだよね?

「…」

ほっとしたのと同時にちょっと寂しいかもって思ったけど、気のせいだってことにしておく。
そしてその日は本当になにもなくて、それからグリーンのジムの話を聞いたりとかして寝た。

「…」

ということが二ヶ月ぐらい続いているわけで。

「…二ヶ月…」

確かにあの日はしないって言ったけど、それから会う日も会う日もなにもなくて。
ただ話してご飯食べて一緒に寝て。
えっちなことはもちろん、キスも抱きしめられることもない。
毎日会えるわけじゃなくて一週間に一回会えたらいいほうだけど、それでも二ヶ月も続くのって。

「…」

もしかして、飽きられたとか?
久しぶりに会うのにえっちなこともさせてくれないからって。
それに考えてみれば、普通の恋人同士がするようなことって僕たちは出来ない。
映画とか買い物とか、興味がないといえばそれでお終いなんだけど実際そうで。グリーンはやりたがりそうだけど。
ふたりでいればそれいいって思ってたはずなのに。

「…だめだなぁ」

こんなときにこんなところでひとりでいるのがとても寂しくなった。
それを望んだのは僕だけど。
そしてぽつりと呟いた台詞は、雪のように地面に落ちて消えていった。








「よぅ、元気にしてたか?」
「…」

前に会ったときから二週間ぶりにグリーンがシロガネ山にやってきた。
本当は一週間前にくるはずだったけど、ちょうど空いてるその日にオーキド博士の学会の手伝いがあったみたいで。
僕が下りればよかったんだろうけど、学会の手伝いがあるとかいうときに下りて行ってもグリーンにさらに負担をかけるだけだから。

「そういや、こないだの学会のときに新種の…」
「グリーン」
「ん?」

いつもと変わらない明るい表情で僕に話しかけてくるグリーンの言葉を遮る。
グリーンは悪くないのに。言い出したのは僕のほうだから。
だけどこの二ヶ月で僕の心はもういっぱいいっぱいだった。

「……僕のこと、飽きた?」

ぽつり、と地面を見ながらそう台詞を零すように発する。
別にいいんだ。
ここで、飽きた、って言われたらそれはそれで仕方ない。
種をまいたのは僕なんだから。
でも聞きたくはない。
なんて、我儘なんだろう。

「なんで?
飽きるもなにもこっちはレッド不足なんですけど」
「え?」

ため息まじりにそう言われ、それにびくっとしながらグリーンを見る。
すると目が合うとグリーンがにこっと笑ってきて。

「なんで飽きたって思ったんだよ?」
「…だっ…て…」

優しく促すようにそう聞かれ、胸をぎゅっと押さえる。

「だって?」
「……だって…グリーン、全然触ってこない…から…っ」

そう言ったところで恥ずかしくなって、また俯いて地面を見つめる。
これじゃあ触ってほしいって言ってるみたいだ。
でも本心はきっとそう。
するとくすくすと笑う声が聞こえてきて、それに顔を上げるとグリーンが苦笑いを浮かべていて。

「…っ?」

なんで笑われてるのか理解が出来なくて戸惑っていると、くすくすと笑うグリーンの手が僕のほうへと伸びてきて。
その手で頬を優しく撫でられ、それに体がびくっと震えて顔が赤くなるのがわかる。

「…っ」

こうやって触られるのも二ヶ月ぶりで、擦られる感触が懐かしく思える。
頬を擦っていた手がするりと下りてきて唇をなぞってきて、それにまた体がびくっと震えて目をぎゅっと瞑った。

「…〜〜っ」
「…かわいい」
「!」

そして、二ヶ月ぶりにぎゅっと抱きしめられた。
待ち焦がれていたそれは思ったよりも冷たかったけど、グリーンの匂いがしてそれに全身が安堵していく。
いまグリーンに抱きしめられてるんだ。
そう思うと、嬉しくなってグリーンの背中に手を回した。
すると、またくすくすと苦笑する声が聞こえてくる。

「触っていいんだ?って、もう触ってるか」
「…うん」

グリーンが僕の帽子をとって、頭をよしよしと撫でてくる。
そして髪にちゅっと音がするようなキスをしてきた。

「…触られなくて飽きたんじゃないかって不安になるほど、おれのこと好き?」
「!」

くす、と笑って言われた台詞にはっとする。
好き。好きに決まってる。
じゃないとこんな風に、触ってほしいなんて思わない。
だからこくこくと何度も首を縦に振る。

「おれもレッドのことすげー好き。
今だって押し倒したいぐらい」
「……じゃあ、」

ぎゅう、と強く抱きしめられて耳元でそう囁かれて体が震える。
いつもだったらそんなこと言われたら「ばか」って返すところだけど。
ふたりじゃないと出来ないこともあるし、結局気付いたことはとても単純なことだったから。

「…して?」

自分でもわかるぐらい赤い顔をしてグリーンの目を見てそう呟くと、自分からグリーンにキスをした。









あいくるしい我儘



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