「こら、動くなって」

ソファーのうえでイーブイをブラッシングしていると、イーブイはおれの隣に座っているレッドが気になるのかじっとしてくれない。
まあレッドに会うのかなり久しぶりだしな。

「こらっ」

どうやらイーブイはレッドに頭を撫でてもらいたいらしい。
その頭をおれがいまブラッシングしているから不服そうだ。鳴き声も表情も嫌なのがすごい出てる。
つーか、ご主人さまはおれだろ、イーブイ。

「…イーブイ、動いたらだめ」

するとレッドがそんなイーブイを見て、たしなめるようにそう優しく告げる。
そうしたらイーブイは「待て」のような体勢になると、じっと動かずおりこうになった。

「…」
「えらいえらい」
「…」

ブラッシングはしやすくなったけども。
いや、待て待て。ご主人さまの言うことは無視でそれはねーだろ。
しかも念願のレッドに頭を撫でてもらうということを達成すると、さっきの不服そうな鳴き声と表情はどこへやら。
あまえるような鳴き声に嬉しそうな表情を浮かべている。

「…」

泣かねーよ?別に悲しくなんかないんだからな。
変な敗北感を噛み締めていると、レッドがそんなおれを見て、イーブイ同様におれの頭を撫でてきた。よしよし、というかんじで。

「…なにしてるんですか、レッドさん」
「え?
グリーンもえらいえらい」
「…」

呆れて聞いてみたものの、レッドがきょとんとした顔をしたかと思うとふんわりと笑ってそんなことを言ってきたもんだから。

「…っ、天然って怖い…」
「なに?」

かーっと顔が熱くなったから、その顔を手で隠しつつぽつりと漏らす。
ばか、素でそういうのはなしだろ。なんだよ、可愛すぎるだろ、ちくしょー。

「ん?あ、ああ悪い。
もういいぞ」

するとイーブイがブラッシングが止まってしまったことに、もう終わりだと思ったようで離せと催促してきた。
だからイーブイから手を離すと、イーブイはソファーからひょいっと下りると日当たりのいいところに行ってしまった。

「…あれされたらブラッシングした意味ねーんだけどな…」

体をぶるぶると震わせたかと思うと、体を床にこすりつけるようにしたり床でごろごろと転がったり。しまいには寝転がって昼寝を始めた。
それなら、と思ってイーブイをボールに戻す。寝てるならまあいいよな。
しみじみそう思っていると、視線に気がついて振り向く。

「どうした?」

振り向いた先にいたのはもちろんレッドで。
その大きな赤い目でおれをじーっと見ている。

「…もう終わった?」
「ん?ああ、ブラッシング終了。
部屋のなかじゃ限度あるしな」

それに今日はイーブイだけをブラッシングするつもりだったし。
だからそう答えてやると、レッドは変わらずおれをじーっと見ていて。

「…ど、どうしたんだよ」

あまりにじーっと見つめられるため、照れくさいとかよりもなぜか挙動不審になってしまう。
つーか、レッドの大きなルビーみたいな目に見つめられたら、考えてることを見透かされそうでどきどきする。
まあいまは大したこと考えてませんけど。

「…グリーン、知ってる?」
「は?」

するとおれを見つめたままレッドが口を開く。

「愛情かけたらその分、なつくんだよ」
「え?ああ、なつき具合?
知ってるよ、当然だろ」

なにを言い出すかと思えば。
愛情かけた分なつくし、それで進化するのもいるしな。
ジムリーダー以前にトレーナーなんだから知ってるの当たり前だろ、とレッドにそう言い返してやると、レッドはまだおれを見つめたままで。

「愛情かけたらその分、なつくの」

ずいっと体をおれのほうに乗り出してまたそう言ってくる。

「二回言わなくても知ってるっつーの。
なつき具合が信頼関係にも左右するし」
「だから」
「へ?」

基本中の基本をなんで今更言ってんだか。
そう思っていると、レッドの手がおれの首へと伸びてきて。
しなやかなその手がするりとおれの首へと回される。

「レ、レッド?」

かなりの至近距離になったことと、そのルビーのような目を見てどぎまぎしていると。

「気付いてないの?」
「え?」

首をちょこんと傾げられて、その形のいいちいさな唇が動く。
少し拗ねたような表情から繰り出されるその台詞は。

「愛情かけた分、なつくの」










遠回しなあまえんぼ



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