※学生グリーン×アンドロイドなレッド




困った。
何が困ったかって言うと。

「…きみが起動させたの?」

目の前にいる、おれと同じぐらいの年で小綺麗な顔した無表情の男がおれを見て首を傾げる。
実はこいつ、人間じゃなくアンドロイドで。
なんかよくわからないけど、学校から帰ってきたらアパートに知り合いのマサキから大きな荷物が送られてきてて、開けてみればこいつが箱のなかに入っていて。
一緒に入っていた紙には、最新アンドロイドと銘打って長々と説明書が載っていた。
マサキは変なもの開発してたりするけど、まさかアンドロイドなんか作れるわけないと思った。
だからどうせマネキンかなんかでいたずらだろうと思って説明書に載っていた起動ボタン(頭の後ろについてた)を興味本意で押してみれば、そのアンドロイドはウィーンという機械音とともに目を覚ましたわけで。

「…ね、きみなの?」
「は、はい、すみません…」
「…別にいいけど」

で、いまに至る。
まじで本物だったのかよ…。
しかもアンドロイドと言われてもこいつは見た目は完全に人間で、さらには。

「…」
「っ痛!」
「わっ、あっ、ご、ごめんっ」

触っても機械みたく固くない。
手を伸ばしてアンドロイドの頬をちょっとつねってみれば、むにむにと人間の感触そのままだし。
頬をつねられたアンドロイドは少しムッとした表情でおれを見てきたから、両手を合わせて謝る。

「て、ていうか、マサキはなんでこんなのを…、うわっ?!」

するとアンドロイドからピーッピーッと警告音みたいなものがして、それに驚いて説明書が手から落ちる。

『名前をつけてください』
「は、はあ?」
『名前をつけてくれないとあと10秒後に自爆します』
「はあああ?!」

さらっと言われた自爆という単語に頭のなかが真っ白になりかける。
しかもピーッピーッと警告音は続くし、挙げ句のはてには、

『10、9、8…』

とカウントダウンされ始めた。
なんでそんなおっかない機能つけたんだ、とマサキに言ってやりたいけどそれどころじゃない。
ていうか、自爆が本当かどうかはわからないけどもし本当に自爆されたらおれはどうなる?
なんでこの先の人生を揺るがすような選択を10秒でしなきゃいけないんだ。
マサキのやつ、今度会ったらぜってー殴る!

『…5、4…』
「…〜〜っ、レ、レッド!」

アンドロイドのカウントダウンに焦りつつも、なにも浮かんでこなかったから、アンドロイドの目の色を叫んでみる。
紅玉みたいにキレイな赤色。
ほんと言うとこいつが最初に目を開けたときに、その紅玉の赤さに、キレイさに目を奪われたんだ。

『3、2、…』
「っ、お前の名前はレッドだ!」

やけくそ気味にそう叫ぶと、あとは自爆が起こらないよう祈りつつ、頭だけは手で覆ってみる。
ほら、災害あるとき頭は守れって言うし。まあ今回は災害じゃねーけど。

『1、……』
「…っ」

するとピーッピーッと鳴り響いていた警告音がぴたりと止まった。

「…っ……?」

助かったのか?と思いつつ、そろりとアンドロイドを見ると、アンドロイドは宙をみつめていて、ウィーンウィーンと機械音がしている。
紅玉のような赤い目がチカチカっと点滅していて、さしずめ何かをインプットしているところだろうか。
まじで死ぬかと思った…。

「っ、おわっ?!」

するとアンドロイドが完了の電子音みたいなものを発すると、その目を閉じた。
な、なんなんだ、まじで。
はっ、まさか壊れたとかじゃねーよな?!
でも自爆とか言ってたけどしなかったし壊れたわけでは…。

「だ、大丈夫か?って、!!」

すると次の瞬間、アンドロイドがぱちっと目を開けた。
そのキレイな紅玉の目を。

「呼んで」
「へ?」
「僕の名前を呼んで」
「…へ?」

無表情で淡々とそう言われ、名前と言われてさっき自分がつけたものを思い出す。

「レ、レッド?」
「…もう一回」
「…レッド」
「もう一回」
「レッド」
「もう一回」
「〜〜っ、レッド!」

何回ももう一回と催促され、最後はやけくそ気味に叫ぶ。
すると。

「…はいっ」
「!」

無表情だったものがそう返事してにこやかに微笑まれ、それになぜかきゅんと心が弾む。

(…あれ?なんか、かわいい、かも)

「って、ないない!」
「?」

目の前にいるのはアンドロイドで男で、かわいい人間の女の子じゃない。
無表情なのが笑ったからかわいいと思えただけだ。うん、きっとそうだ。
ほら、もう無表情だし。いや、無表情っていうか落ち着きすぎ?

「つーかさ、これからどうすんの…?」

おれがレッドを起動させたとはいえ、興味本意でしたわけでなにか目的あったわけじゃねーし。

「…マスターは、名前をつけてくれたひとと暮らせって僕にそうプログラムしてる」
「はーなるほどねぇ…そのひとと暮らせ…って、待て、それっておれか?」
「うん。僕に触ったらプログラムが起動するようになってたし」

こくん、とレッドに頷かれ、思考回路が停止しそうになる。
えっ、なにその責任重大なプログラム。てか、そんなん知ってたら起動させなかったし触りもしなかったっつーの!

「な、なんでそんな…っ、マサキー!」
「……全部説明書に載ってるのに変なの」

あきれたようにレッドがぼそっと呟いた台詞なんか耳にはいるわけもなく、おれは慌ててマサキに電話をかけた。











再インストールしますか?


「…きみの名前は?」
「グリーンだけど…」
「じゃあグリーン、これからよろしくお願いします」
「!」

そう言ってふわりと笑うレッドはやっぱりかわいい。って、まじで一緒に暮らすわけ…?
こうして、アンドロイドのレッドとのちぐはぐな生活が始まった。



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