天気予報でも見ようと思ってテレビのリモコンを持ったところで部屋のドアがガチャッと開いた。 もちろん部屋から出てきたのはレッドしかいないから、特にそっちのほうを見ずに声をかける。 「いつまで寝てんだ、お前は。 おれ、そろそろジムに行くからな」 そう言いつつ、リモコンでチャンネルを替えて天気予報を見つけるとトキワの天気を待つ。 えーと、トキワは一日を通して晴れ。気温は平年並み、か。 どっちにしろ洗濯物は乾燥機に突っ込んだから問題はないか。 そして天気予報を見終わるとテレビの電源をピッと消し、リモコンをテーブルのうえに置く。 と、そういや持っていくデータがあったんだっけ、と踵を返して部屋に行こうとすると。 「おわっ?!」 振り向いたところにレッドが突っ立っていて、思わず間抜けな声を上げてしまう。 どうやらレッドも一緒になって天気予報を見てたらしい。 「…シロガネ山の天気見てない」 「え?あ、ごめん」 トキワの天気が終わってテレビを消してしまったもんだから、最後に流れるシロガネ山の天気を見れなかったことにレッドが不満そうにぼそっと言ってくる。 つーか、昨日下りてきたばっかでもう帰ることでも考えてんのか? そう思いつつも、一応は謝ってから、あることに気がついた。 そしてそれを指差す。 「それ、どうしたんだよ」 「…え?」 テレビのリモコンに手を伸ばそうとしたレッドが、おれに指差されたところを見ようとするものの、それはレッドにはちょっと無理なところで。 レッドが上目使いで見てみるけど見えてはないと思う。 だって、寝癖のことだから。 「どうやったらそうなるんだよ?」 「…どれ?」 レッドの寝癖をまじまじと見ながらそう言うおれに、レッドが怪訝そうな顔をして聞き返してくる。 「前髪。すげーはねてんぞ」 「…そんなに?」 前髪、と言われてレッドが前髪を手探りで触る。そして見つけた前髪の寝癖をひょこひょこ触っている。 レッドの髪は多少くせっ毛ではあるものの、そんなに自己主張するほどはねてるとこは見たことない。 それに寝癖っていったら普通は横とか後ろであって、前髪がはねたりすることってそうないと思う。よほど寝相が悪いとか髪乾かさずに寝たとかない限り。たぶん。 「鏡で見てくれば?」 「…そうする」 そして寝癖を複雑な表情で触っていたレッドは、こくんと頷くと洗面台のほうへと行ってしまった。 ふだんそういうのあんま気にするタイプじゃねーけど、自分で触ってみてあのはね具合はやばいとでも思ったんだろう。 困ったやつだな、と思いつつ、データの入ったディスクを部屋に取りに行く。 そしてそれを忘れないようカバンに入れると、もうそろそろ出る時間か、と腕時計で時間を確認して玄関へと向かう。 「あ、レッドどうだったんだろ」 寝癖全開なはねた前髪はどうなっただろうか、と洗面台を覗いてみれば、鏡のまえに立っているレッドがいて。 「な、すげーだろ?」 「…うん」 そう聞いてやればレッドが素直にこくんと頷いた。 くしを持って立ち尽くしてるとこを見ると、くしは役に立たなかったらしい。 「…これ、どうしたらいいの?」 「あ〜そうだな…」 完全にお手上げ状態なレッドの横に行くと、洗面台の棚のところでピンを見つけてそれを手にした。 「これが一番妥当かな」 「?」 「じっとしてろよ」 「??」 そう言ってピンをレッドの前髪へと持っていくと、鏡を見てりゃいいのにおれの手を上目使いで見てくる。 だけどそれが可愛くて笑みが零れる。 「ほら、これなら問題ないだろ」 「…」 そしてレッドの肩に手をおいて、鏡のほうを見るように促す。 それで鏡を見たレッドが、鏡のなかの自分を見てきょとんとした顔をした。 「つーか、意外に可愛い」 鏡のなかのレッド。 それは前髪をピンでななめに留めていて。 しかもそのピンにはいちごがついていて。 「……どこが問題ないの?」 いつも目にかかるほど長い前髪のレッドがいまはおでこ全開で。 なんだかそれが新鮮すぎて可愛いけど、当の本人はというと新鮮うんぬんよりもいちごのピンで留められていることのほうが重要らしく、寝癖解消のそれをものすごく怪訝そうに見ている。 まぁいちごのピン留めが似合う男子っつーのもあれだけど。いや、それでも可愛いもんは可愛い。 「問題ないだろ、寝癖はこれでわかんねーし、なにより可愛いし」 「…後者がけっこう問題あると思う」 「ねーよ、可愛いもんは可愛いんだし文句言うな」 「…」 ばかなの?と言いたそうな表情のレッドに正論だとばかりに可愛いをごり推しすると呆れたようにため息をついている。 いや、でもまじで可愛いって。 それにおでこ全開なレッドって初めて見たような気がする。 すると、呆れ顔で鏡のなかの自分を見ているレッドと、鏡越しに目が合う。 「…ばかなの?」 そしてやっぱり告げられたその台詞に苦笑する。 「つーか、おでこ全開なレッド初めて見た。 そういうのも可愛いな」 「!」 くすくす笑って横から人差し指でレッドのおでこをつついてやれば、つつかれたおでこをレッドがぱっと両手で押さえた。頬を赤くして。 「…〜〜っ…可愛くないっ」 むすっと拗ねたように言ってくるそれは可愛い以外の形容詞が当てはまらない。 いい加減、気付けっつーの。 「あっ」 「おれが言うんだから、可愛いんだよ」 「え?」 そして、おでこを隠すレッドの両手を掴んでおでこから引き剥がすと、いちごのピン留めで露になっているおでこにちゅっとキスをした。 それは正義 |