腑に落ちないことがある。

「…さむい」
「…」
「…さむい」
「…」
「…さむ、」
「何回も言うな」

イラッとして、おれの少し後ろを歩いているレッドのほうを振り向いてそう注意してみる。
確かに今日のトキワは北風強いし、明日の天気予報は雪になってるぐらいだけど。
だけど。

「ったく、あのくそ寒い雪山に生息してるくせになんで地上界が寒いんだよ」

しかもあのくそ寒い雪山でこいつは半袖でいる。
それなのに下山してきてからは、寒いさむい言うし、今だってコートにマフラーという防寒済みだ。
腑に落ちないにも程がある。

「…だってさむい」
「おれはあっちのが寒いけどな」

当たり前だと言わんばかりの顔でそう言われ、それに呆れを通り越してしみじみと呟くほかない。
ぜってーあっちのが寒いって、氷点下だし吹雪くし。
まぁ今日もここもそれなりに寒いけどな。

「…さむい」
「まだ言うか、お前は。
帰ったらココア作ってやるから今は我慢しろ」

懲りずに寒いと言うレッドを少しでも黙らせようと、物でつるようにして言ってみると、レッドはそれにこくんと頷いた。

「…さむい」
「…」

わかってねーだろ、てめー。
寒いのは十分にわかってんのに、それにさらに寒い寒い言われると暗示をかけられるようで尚更寒い気がしてならない。
それか遠回りに防寒に対する文句か?
コートにマフラーで十分だろ。
コートの下は長袖だし。

「なんでこっちのが寒いかねぇ…」

体温調節機能があきらかにおかしいとしか思えない。
そしてため息まじりに呟きながら、そのおかしい人物のほうを振り返る。

「…つーか、遅ぇ…」

レッドはもともと歩くのは早いほうじゃないけど、今日はいつもに増して歩くのが遅い。
持ってる荷物のせいか?
レッドが寒い寒い言うから、今夜は鍋にしようと思って二人で買出しにでたわけなんですが。
レッドに持たせたほうにはそんな重たいの入ってねーと思うんだけどな。
おれのほうに野菜がぎっしり入ってるし。
それかあれか、寒いから行動がゆっくりになったとか?
ともかくは、寒いから早く歩いて早く帰ったほうがいいよな。
なので、ふぅ、と息を吐き出すと、立ち止まってレッドに手を差し出す。

「ほら」
「…え?」

そんなに重たくはねーと思うけど、荷物を持ってやったほうが早く歩くような気がする。
ったく、買出しに来てこれだとおれの苦労が増えるだけじゃねーか。
切なくそう思いつつも、だから荷物をかせと手を差し出してみれば。

「…」

レッドはきょとんとした顔でおれとおれの手を交互に見ている。

「なんだよ、早くしろよ」

おれが親切心でしてやってんのに、珍しいこともあるなとか思ってんのか?
おれはいつも優しいだろうが。
そんなことを思いつつ、レッドが荷物を渡してくれるのを待つ。
すると。

「…」

おれが差し出した手にやってきたのは、荷物ではなく、レッドの手で。
あまりのことにおれの思考回路が止まりかける。
え?なんで手を出してきた?てか、レッドの手、冷てぇ。

「…グリーンの手、あったかい」
「っ!」

ぼそり、と呟かれたそれではっと我に返ると、差し出したおれの手をレッドがぎゅっと握っていて。
その光景にかあっと顔が赤くなってしまう。

「ば、ばか!手じゃなくて荷物出せっつったんだよ!」
「…え?荷物?」

恥ずかしいのがばれないよう逆切れのようにして言い返す。
だけどレッドは手を離すことなく、おれの手をぎゅっと握ったままで。
そしておれはそれに動揺していて、その手を振り払うとかそういうことまで考えられないでいる。

「〜〜っ」

なにこれ。なぜにこうなった?
レッドが寒いって言ってたから、手を繋いでやろうと思っておれが手を差し出した、とレッドは思ってんのか?
生憎そこまで紳士じゃねーし、それに恋人同士でもねーのにそこまで気が利くわけない。
レッドのことは好きだけど。
つーか、そう思ったうえでおれの手を握ってきたってこと、だよな?
つまりは手を繋ぐ、と。

「大丈夫、荷物重くないし」

そしてレッドからはそう平然とした様子で返される。
つーか、おれが荷物のために手を差し出したってわかったのにまだお前は手を握ってんのか。
なに、まじでおれと手を繋いで帰るつもりなわけ?
ちいさい頃じゃあるまいし、手を繋いで一緒に帰るなんて抵抗ないんだろうか。
つーか、おれもおれだろ。手を離すなら今のうち、手を離すなら。

「!」

ぐるぐるとそんなことを思っていると、レッドがくすくすとちいさく笑うのが聞こえて、

「…グリーンと久しぶりに、手、繋いだ」
「…!」

ちょっとはにかんでそう言ってるレッドがあまりに可愛くて。
なんか手を離さないといけない理由なんて、特にない気がしてきた。










仕方なくしてやってるだけで誰も嬉しいわけじゃ、



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