グリーンの家で最新だと言う図鑑を見せてもらっていたら、不意にグリーンがこんなことを聞いてきた。 「レッドってさ、好きなひととかいんの?」 「…」 図鑑に真剣に見入っていたためか質問がよく聞こえず、言葉にはせずに不思議そうな顔をしてグリーンを見てみればグリーンはため息まじりにもう一度言ってくれた。 「だから、好きなひととかいんの?」 「…好きなひと?」 やっと頭に入ってきた質問は、簡単に「はい」と「いいえ」で答えられるようなものじゃなかったため、僕の頭のなかでグリーンの質問がぐるぐると渦巻いていく。 だってそんなこと、考えたことがなかったから。 「…」 「あ、友達とか家族は無しな」 するとすかさずグリーンからそう言われ、ますます頭のなかがぐるぐるする。 友達でも家族でもないのに、好きなひと? ……そんなひといるの? 「…って、レッドに聞いたのが間違いだったか」 「…え?」 すると僕が疑問に満ちた目をしていたんだろうか、グリーンが諦めたみたいに落胆したような声色でそう呟く。 「いや、おれが悪かった。 さっきコトネから恋愛相談されたからレッドにも聞いてみたんだけど…」 「…?」 「あーもう無し無し。忘れていいから。 ほら、図鑑図鑑」 そして図鑑を見るよう急かされ、それに促されるように僕は図鑑にまた視線を戻した。 それでも消化不良な頭のなかは今度は図鑑が見てても入ってこなくなる。 コトネが恋愛相談してきたから僕にも聞いてきたってことは好きなひとは恋愛対象ってことなんだ。尊敬してて好きなひと、とかそういうのじゃないんだ。 だけど恋愛対象でも、家族はともかくとして、友達じゃないひとで好きなひと。 ……だめだ、ますますわからなくなった。 やっぱり自分はこういうのには向いてないと思う。そういう感情がないってわけじゃないと思うけど、それがどういうのかわからない。だって恋をしたことがないから。 「…グリーンは好きなひといるの?」 「は?おれ?」 恋をするってどんなのなんだろう。 グリーンならきっと知ってるだろうし、グリーンは好きなひといるだろうし。 そう思ってなんとなく聞き返してみれば、グリーンはなぜか大きなため息をついた。 「…好きなひとはいるけど報われてねーからな」 「?」 「どんなに好きってアピールしても気付いてくんないし」 「…グリーンに?」 「そ、おれに」 女の子に優しくて人気があるグリーンなのに? まさかの台詞に思わず驚いてしまう。だってグリーンに好きになって貰えるのに。 幼なじみだからグリーンがどんなひとかって言うのはよく知ってる。優しくてたまに頼りないとこもあるけど一緒にいたら楽しいし、ちょっとしたことでも気が付いて心配してくれるし世話好きだし、それにバトル強いし。なにより僕なんかと一緒にいてくれる。 「まあ鈍感すぎるぐらい鈍感だから仕方ねーんだけどな…」 「…告白しないの?」 「してもきょとんとした顔で首傾げられそうだから」 「…そうなんだ?」 諦めた口調でグリーンがすらすらと言ってくる。 それなら告白すればいいのに。あ、でもしても伝わらないんだっけ…? 「…でもすげー好きなんだよな。たまにしか会えないけど」 「…なんで?」 「なんつーか、遠いとこに住んでるからなかなか会いに行けないし、たまにしか会いに来てくれないし。 まあ会えたときはすげー嬉しいけどな」 「…」 グリーンの好きなひとって外国のひとなんだろうか。 告白しても伝わらないって言うから言葉が違うのかもしれないし、遠くに住んでるって言うから。 だけどそのひとのことを話すグリーンの顔はなんだか生き生きとしてるし嬉しそうだ。そのひとのこと本当に好きなんだなっていうのがわかる。 そういうのが恋をするってことなんだろうか。 「…そのひとに伝わればいいね」 「ん?」 「グリーンがこんなに好きだよって言うのが」 「…」 なんか恋をするのって羨ましいかもしれない。バトルをするあの子たちのことを好きだと思う気持ちと似てる気もするけど、それとはちょっと違う気もする。そんな感情を持ってるグリーンがなんだか羨ましく思えた。僕にははっきりとはないものだから。 するとグリーンが僕の台詞を聞くと明らかに表情を曇らせた。 そして大きなため息をつく。 「…だから伝わらないって言ったんだよ」 「え?」 ぼそっとそう言って頭を掻くと、グリーンが僕の手を取った。その手はグリーンの左胸、心臓のあたりに導かれる。 「あとバトル強くてあいつら大好きでおれよりあいつらなとこあるし、3年間行方不明ですげー心配した」 「…?」 そして、グリーンが好きだというひとのことをさらにそう言われる。 バトルが強いってことはトレーナーなんだ。というかそのひと行方不明だったの? 「で、猫舌で甘党でおれが作る料理をすげー美味そうに食べてくれて、口下手だけど表情見たらなに言いたいか大体わかるし、笑うと可愛いけど言ったら怒るし、あと住んでた町が一緒で家が隣だった」 「…?」 「…ここまで言ってもわかんねーの?」 さらに言われるけどそれがグリーンの好きなひと? なんだか知ってるひとのような気がする。 そして気付いたけど、僕の手に伝わるグリーンの鼓動が心なしか早い気がする。 どうしたんだろう。 なにか緊張してるとか?でも何に? そう思っていると。 「…あのさ、おれが好きなの、レッドなんだけど」 頬を少し赤くしながらぽつりとそう告白され、僕はグリーンの言うとおり、きょとんとした顔で首を傾げた。 アンドロイドは歌わない |