※学ぱろです




「…お前まじで数学以外だめなの…?」

試験勉強ということでレッドの家であるマンションに上がりこんでいるものの、試験範囲の復習の問題集で散々すぎる内容をレッドから見せられて思わずため息が出た。
レッドは中学のときに難関と言われている数学検定の1級を最年少で合格したことで、高校で知らない者がいないほど有名だったりする。なので数学はハンパなく得意だし、化学とか物理とか理数系は問題ない。
だけど問題なのは文系科目。赤点まではいかないものの、こうも得点差が開くとか有り得ねーだろ。

「…だって、考えるの苦手…」
「いやいやいや、数学も考えるだろ」
「…数学は答えがひとつだからいいの」

レッドが反論とばかりにぼそっと言ってくるものの、他の教科でも答えはひとつだと思うぞ。
完全に頭が理系なんだな、と少し羨ましく思える。どっちかというとおれは文系寄りだし。

「まぁいいや、とにかく間違えたとこやり直し」
「…」
「じゃないと試験範囲なのに覚えないだろ」

文句を言いたそうな表情のレッドにめっと怒ると、採点した問題集を返した。
そして、問題集を受け取るとまだ不服そうな顔をしているレッドの頬を指でつんつんと突いてみる。

「…なに」
「なんつーか、前に比べると表情が出て可愛いなぁと」
「…可愛い?」
「あ、いや、子どもっぽくて可愛いなぁと」
「…グリーン」

思わず口走ってしまった本音にハッとすると、どうにかからかい口調へと流そうとするものの難しく微妙なかわし方になってしまった。それでも子ども扱いをされたんだと思ったレッドは特に深くは考えなかったようでそれにむっとしている。

(危ねぇ…)

レッドとは幼なじみだ。保育園も小学校も、あと高校が一緒。
家が隣りだったから一緒に保育園に行ったり遊んだりで仲良かったと思う。小学校に入ってからおれは友だちが増えて交友関係広がったけど、レッドは大人しい性格だったからそんなおれの後ろをついてきてたような覚えがある。
中学だけはレッドの親の都合で別々だったけど高校でまたこうして同じだったりする。
そして実を言うと、おれはレッドにずっと片想いしている。それに気付いたのは中学で離れ離れになったときだ。

(たとえおれの後ろをついてきてたようなかんじでもそばにいるのが当たり前だと思ってたから、いなくなってわかったんだよな。
好きだって)

高校で再会したときすげー嬉しかったのを覚えてる。
それでも一年のときもいまもクラスは別々で接点もそこまでないからつるむこととかなかったけど、生徒会の仕事をレッドに頼んでからはだんだん距離も縮まって今じゃこうしてふたりで勉強するほどになっている。
それにもともと幼なじみだから打ち解ければ気は合う、と思う。

(だけど高校で再会したとき、おれのこと完全に忘れてたよな、こいつ…)

おれはひと目見てわかったのに。
まぁおれにしてみればレッドは片想いの相手だからすぐにわかったんだろう。
レッドにしてみればおれは友だちぐらいだろうし。再会してすぐのときは話しかけても無視するし、愛想笑いのひとつもしないし。
って、あれ?これ友だちか…?

「…グリーン、これなんだっけ…?」
「へ?」
「これ」

そして悲しい結論にたどり着きそうになっていたおれをレッドが現実へと引き戻す。
でも今はよく話すし、ポーカーフェイスっていうか無表情が多いけどたまに感情を見せてもくれるし、いいか。
わからないところをおれに聞いてきたレッドにそう思うと、レッドがわからないと言ってきた問題が載っているテキストを見てみる。

「これは仮定法過去だから動詞は過去形」
「…過去形」
「つーかさ、話すのはペラペラなのになんで書けねーの?」
「…話すのと書くのは別」
「…まぁそうだけどさ」

実はレッドは英会話はペラペラだったりする。外国人講師と普通に英語で話してるの見たことあるし。
書けないってとこが文系だめってとこなんだろうか?よくわかんねぇ。
おれがそれに首を捻っていると、

「were?」

レッドがそう言ってきた。

「は?」
「だから、過去形って言ってたから。
be動詞だからwere?」

発音のいいそれはおれのなかにすっと入ってくる。
そして形よく動く唇も。

「…グリーン?違った?」
「えっ、いや、合ってる合ってる」
「…」

思わずレッドの唇に見惚れていると、レッドから怪訝そうな声色が発せられた。
それにはっとして首を縦に振ると、レッドはそんなおれをじーっと見ている。

(やべ、唇見てたの気付かれたとか?変態とか思われたんじゃねーだろうな)

どう考えてもおれが後ろめたいことなのでどきどきしながらレッドの反応を待つしかない。
するとレッドの手がおれの額へと伸びてくる。

「へ?」

そして、ぺた、とレッドの冷たい手がおれの額に当てられた。

「ぼーっとしてるから熱でもあるのかと思ったけど…違うか」
「…っ」

さくさくっと告げられるそれを聞きながらおれの心臓は気が気でない。
熱はねーよ、あるとしたらたったいまレッドに触られたからだ。
3年ぶりに会って押し込めてた片想いが溢れ出しそうになっているいま、よくよく考えなくてもこのふたりっきりというシチュエーションはまずい。今更だけど。

「…ていうか、グリーンも進んでないよ、数学」
「…今からやるんだよ」

ひょい、とおれのノートを覗き込んできたレッドが不機嫌そうな声色で言ってくる。おれが怠けてると思ってるようだ。
だからそれにぼそっと言い返すと、テキストを開く。
レッドは英語、おれは数学を勉強している。互いに苦手なものをいま勉強しているわけで。
そしてレッドから指摘された試験勉強をおれは再開させる。

「…」

それでもおれの目は、テキストを見ながら問題を解いているレッドを追ってしまう。

(…可愛いなぁ。どうしてこんなに可愛いんだろう)

少しくせっ毛のある黒髪。
女の子よりも白くてきめ細かい肌。
長い睫毛に、今は伏せられているガーネットのような目。
シャーペンを握っているキレイな指。

(そこらへんの女の子より全然可愛い)

見ていて飽きることなんて、ない。

「…」

幼なじみだけど、そこまで知ってるわけじゃなくて。
だからこそ余計にレッドのことを知れば知るたびに惹かれていって。

「あ、そう言えばクラスの女子に聞かれたんだけど」
「ん?」

するとシャーペンを走らせながらレッドがテキストから目を離すことなくそのままで呟くように言う。

「グリーンって彼女いないの?」
「…は?なんでレッドがそんなこと聞かれるんだ?」
「うーん…なんでだろ?
ともかく知らなかったからわかんないって答えたけど」

淡々とそう言いながら、レッドが次々に問題を解いていく。
最近一緒にいることが多いからだろうか。でもそれはたぶん生徒会の仕事のせいもあるけど、おれがなにかと一緒にいるようにしているからだろう。
だって普通だろ、好きなやつと一緒にいたいって思うのは。
だけどそれでレッドに女子がそういうこと聞くってのはどうなんだろう。レッドよりもおれと同じクラスのやつに聞けばいいのに。まぁクラスが違うのに一緒にいることが多いからか?うーん?
女子って敏感な生き物だとつくづく思う。

「…彼女はいねーけど」
「へー」
「…好きなやつならいる」
「へー」

ノートにすらすらと問題を解いていくレッドの字は硬筆の手本みたくキレイな字だ。
流れていくようなその字を見ていてなにかの暗示にでもかかったんだろうか。
いつものへたれがどこかに置いていかれたようだ。
目の前にいるレッドと、この雰囲気に飲み込まれてしまって。

「…」

だから言えたと思う。

「そいつさ、おれの目の前にいる」
「え?」
「おれ、レッドが好きなんだ」

そしておれを見てきたレッドの手からシャーペンが零れ落ちた。










ノートに写したのは甘酸っぱいアイラブユー



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