「おかえり、グリーン」 「…」 いつものように疲れて定時じゃなく20時すぎに家に帰ってみれば、泊まりに来ているレッドがそう言って出迎えてくれた。 出迎えてくれるなんて珍しい。と思ったのは一瞬で、おれはレッドのいまの格好に目が釘付けになっていた。 「…グリーン?」 するとおれが玄関先で固まってるもんだから、それを不思議に思ったレッドが首を傾げながらおれの名前を呼んでくる。 (待て待てまてまて! その格好でそんな可愛い仕草とかしたらいけません!悪いひとに何されるかわかんねーだろうが!!) と、心の中で叫ぶと理性を振り絞って目の前のレッドに聞いてみる。 「あの、レッドさん、それは一体…?」 どうにかして笑顔を浮かべてそう聞いてみると、レッドは今の自分の格好を再確認するかのようにして見ると、それからまたおれのほうを見てきた。そしてその唇を開く。 「セーラー服」 ぼそっと告げられたそれにおれは頭を抱える。 そんなの見りゃわかる。 白地に紺色のセーラーで、スカートはご丁寧に膝上10センチでミニ。 すらりとミニスカートから伸びた足には紺のハイソックスというこだわりさ。 「そうじゃなくて、なんでそんな格好してんだ…」 疲れて家に帰ってきたら、泊まりにきている恋人がセーラー服で出てくるとか、なんだこのイメクラというか安いえろいビデオのような演出は。 もともと女顔でキレイな顔していて細いレッドがセーラー服を着ているのはなんだか違和感がない。だからこそ余計に理性が持たないというか、背徳な気分になるというか。 「グリーンが疲れてるだろうから、こういう格好しておかえりって言ってあげたら喜ぶって」 「…誰が」 「コトネが」 それを聞いて肩からがっくりと力が抜けていくのがわかる。 (コトネ…お前はおれを一体どうしたいんだ。据え膳よろしく襲えとでも? つーか、セーラー服で喜ぶってそういう趣味はおれにはねーぞ。ついさっきまでは) 「…グリーン」 「…なんだよ」 直視するのもだんだんと慣れてきたというか、見ないと勿体ないというか、ムラムラきたというか。 というか、レッドはこれをどういうつもりで引き受けたんだろう。 単純にそれ着ておかえりって言えばいいとでも?それ以上のことは何も考えずに? 「喜んだ?」 「…そうですね」 「じゃあ、着替えてくる」 「はあ?!」 どうやらおれの想像が当たったようで、レッドはそれでおかえりと言って終了するつもりらしい。 あっさりと着替えてくると言い出したレッドに、最初の直視できないとか思ってたおれの純粋などきどきはどこかへ飛んでいったようだ。 だってそうだろ。このときを逃したら、こんなことなんて二度とない。 「待った! な、なんでもう着替えんの?」 「…着替えたらだめなの?」 レッドとしては、おかえりを言ったところで任務は完了なんだろう。 おれを怪訝そうな顔で見てくる。 「なんつーか、えーと、その」 「?」 しどろもどろになってしまったおれをレッドが首を傾げて見ている。 (くそっ、だからそういう可愛いことはすんなって!) 「〜〜っ、こっち来い!」 そしてどう言ってもレッドには伝わりそうにはないので、レッドの腕を掴むとそのままリビングへと進むとレッドをソファーに座らせた。それからその隣りにおれも座る。 「グリーン?」 「お前さ、コトネに言われたとき何の疑問も持たなかったのかよ?」 「…何の?」 「セーラー服着ることとか、それでおかえりとか言うとか」 「……。 …別に?」 だって普通おかえりって言うならメイドとか、着物きて三つ指ついて出迎えとかそういうのじゃねーの?(それもどうかとは思うが) なぜにセーラー服でおかえりって出迎えてくれるんだか。 ましてそのセーラー服を着ることに抵抗はなかったのか、こいつは。膝上なミニスカートだぞ? だけどレッドはどれも不思議には思ってなかったようで、おれが質問していることのほうが不思議だと言わんばかりの顔をしている。 (…まぁこいつはそういうやつだよな…。 よく考えないというかなんというか) それを聞いて、はぁと大きなため息をつくと、隣りに座っているレッドのミニスカートをぺらっと捲ってみた。 「?!」 するとそれには即座に反応してレッドが捲れないようにスカートを押さえる。 (なるほど。やっぱりこういうことに発展する、とかそういう考えはなかったんだな…。 まぁある意味純粋におかえりって言ってくれたってことは嬉しいんだけど…) 「な、何して…」 「あのさ、レッドがこんなミニスカなセーラー服着てるのをおれが見て何もしないって確証あると思うか?」 「え?」 「こういうプレイはあんま興味ねーけど、レッドなら話は別」 「プレイ?」 そしておれがため息まじりに言う台詞が理解できないのか、首を捻りながら反芻するレッド。 そんなレッドを見てもう一度大きなため息をつくと、きょとんとした顔のレッドに手を伸ばした。 「グリーン?」 いまおれが何を考えてるかとかいまから何をされるのかとか、そんなことはまったく考えてないようにレッドがきょとんとした顔でおれの名前を呼ぶ。 「…そんなに簡単にひとを信じてたらいつか騙されるぞ」 「? 何の話?」 「こっちの話」 頬を擦りながらそう言ってやっても、レッドは目を細めるだけで特に抵抗やらはない。 さっきスカートを捲られかけたときの危機感はもうどこかへ行ったのだろうか。 「つーかさ、これおれのために着てくれたんだよな?」 「え?あ、うん」 それなら危機感というか、襲われている、ということを存分に思い知らせてやろう。 そう思いながらセーラー服のスカーフを掴むと、それにも特に抵抗はないレッドに心の中でため息をつくのとガッツポーズを同時にすると、そのスカーフをしゅるり、と布擦れの音をさせて解いてやった。 「グリーン?」 それでもレッドはまだ警戒心がないようで。 スカートを捲られるのは警戒心あるのに、こういうのはいいってどうなんだ。 「おれが脱がすから、レッドは自分で脱いだらダメ」 「え?」 そう言ってレッドをソファーへと押し倒し、さっき解いたスカーフで両手首を拘束してやる。 するとやっと危機感というか警戒心が今更やってきたようで、レッドがそれに慌てて身を捩る。 「な…っ、グリーン…!」 「…お前さ、マジで簡単にひとを信じすぎ。 まぁこの場合は警戒心がなさすぎだ」 「け、警戒心?」 「そうだろ?おれはちゃんと警告はしたはずだけど」 「?!」 する、と太腿に手を這わせてやると、レッドの体がびくっと震えた。 それを見ながら苦笑すると、顔をずいっとレッドへと近づける。 「だから、おれが何もしないっていう確証はないって言っただろ?」 「〜〜…っ、でも…っ」 「んー?」 ため息まじりにそう言ってやると、レッドは顔を赤くさせて口をもごもごとさせた。 そして接続語を紡ぎ出し、おれがその先を促すように相槌を打つと、とんでもないことを言ってのけた。 「……グリーンになら、警戒とか…しなくていい、よね?」 耳まで真っ赤にして同意を求めるかのように首を傾げて。 ぼそぼそっとちいさな声で、レッドが最大級の爆弾を落としていってくれた。 それ以上は言わせないで、ダーリン |