「お前、またそんな恰好で…」

雪がちらつくシロガネ山にやってきたグリーンが僕を見て、怒りと呆れが混じったような顔と声になる。
そして自分が巻いていた緑色のマフラーを外し、僕の首にぐるぐると巻いた。

「ほら、こっち来い!」

緑色のマフラーをぼーっとしたまま巻かれた僕の手を引き、グリーンは洞窟のなかへと連れていく。
洞窟のなかはひんやりとしているものの、風などはないから外より温かい。気がする。

「ったく、毎度毎度なんで外にいるんだよ、お前は!」
「…天気が良かったから」
「ばか!雪降ってんのに天気がいいわけあるか!」

お説教モードになったグリーンが僕の台詞を一蹴する。
でも昨日までは猛吹雪だったから、今日みたく雪がパラパラ降っているのは天気いいほうだと思うのに。

「ほんとわけわかんねーな、お前は。
鼻、赤いし」

グリーンが諦めたように、大きなため息をつく。
そして僕の鼻をぎゅむっと抓んできた。手袋をしたまま。
それに視線だけで、やめてくださいという趣旨の訴えをしてみると、グリーンは僕の鼻から手を離して、今度は頬を抓んできた。両方。
痛くない程度に。

「…グリーン」

手袋は革製なのか、毛糸のチクチクするあれはないけど、だからって頬を抓んでいいというわけじゃない。
再び非難めいた目で見るとグリーンが僕から手を離して、手袋を外した。
そしてそれをコートのポケットに突っ込むと、今度は素手で僕の頬を抓むんじゃなくて包み込むようにして触れてきた。

「…」

手袋外せって言いたかったわけじゃないんだけど。

「…こんなに冷たくなりやがって」
「…」

口調と表情は呆れたような怒ったようなかんじだけど、僕の頬に触れている手は優しい。
頬に添えられるように触れていて、時々頬を何回か擦られてそれにくすぐったくて目を細める。

「…グリーンは、手、温かいね」
「そりゃ手袋してたし、ポケットのなか突っ込んでたし」

それでも僕の頬の冷たさと手が外気の冷たさに晒されたことで、グリーンの手の温かさは急激に冷めていく。
冷えていく温度。

「…手、冷たくなってきた」
「そりゃこの気温だと温かくてもすぐ冷えるだろ」
「…あ、心が温かくなってる?」
「は?」

すりすり、と目の下あたりを指で擦られ、それに目を細めつつ聞いてみる。
グリーンは、何のことだという顔をしていたけど、すぐに、ああ、と何かわかったように頷いた。

「あれか、手が冷たいと心が温かいってやつか」
「…うん、手が温かいと心が冷たいとも言うよね」

思い出したように言うグリーンの台詞にちいさく頷きながら答える。
そのグリーンはまだ僕の頬を両手で包み込んだままだ。
すると、

「心が冷たいやつが、雪の中わざわざ来ると思うか?」

笑顔だけどイラッと怒った声色でグリーンはそう言うと、僕の頬をぎゅむっとまた抓んできた。両方。
そういうことを言いたかったわけじゃないけど、その例えで言うならそうだよね。
それに、ごめん、と目で言ってみればグリーンがはあとため息をつく。
そして抓んでいた僕の頬から手を離すと、また両方の頬を包み込むようにして触れてくる。
少しひんやりとするグリーンの手。

「…まぁ確かに、レッドに会えたから心は温かくなってるかもな」
「え?」

グリーンはそうぼそっと言うと、気まずそうな顔になって僕から視線を外す。
そして視線を逸らしたまま僕から手を離すと、その手を一回ぎゅっと握ってから開いて僕を抱きしめてきた。

「…グリーン?」
「……自分で言ってすげー恥ずかしくなった」
「…何が?」
「って、レッドが聞いてきたんだろ?!」

僕の肩口に顔を埋めるようにして抱きしめてきているグリーンが、首を傾げた僕に顔を上げて非難めいた声を出す。
恥ずかしいようなこと聞いたっけ?
というか、グリーン、言ったっけ?

「…ああもう!帰るぞ!」
「えっ?
で、でも僕、バトルが…」

どれだろう、とのんきに思い出そうとしていると、恥ずかしさでいっぱいになったらしいグリーンが僕を抱きしめていた手を離した。
そして突然の提案に驚く僕の手を掴んで踵を返す。
帰るって、グリーンの家に行くってことだよね?それは急すぎる。
するとグリーンが僕の手を掴んだまま、僕のほうを振り返り、

「こないだからの大雪でシロガネ山は入山禁止になってんだよ。
おれが今日ここにきたのはそれを知らせるためだ」
「入山禁止…」

だから問題ない、と少し赤い頬をして言ってきた。
入山禁止?ああ、だから昨日も今日も誰も来ないんだ…。
静かにそう納得すると、手をぐいっと掴まれて引っ張られると、そのまま洞窟の外へと連れていかれる。

「グ、グリーン…っ」

それならここにいても誰も来ないわけだし、入山禁止がいつ解除されるかわからないから下山する理由はある。
だから捕まえていなくても、下山しないとか拒否ったりなんてしないのに。
前科があるからかなぁ…。
のんきにそう思って、僕の手を掴んだままどんどん歩いていくグリーンの背中に逃げたり拒否ったりしないから大丈夫という意味を込めて声をかけると、

「……手も心も温かいほうがいいだろ」
「え?」
「いいから、黙って帰ります」

僕のほうを振り向くことはなく、少しぶっきらぼうな声色でグリーンにそう言われて。

「…」

手が冷たいと心が温かい。
手が温かいと心が冷たい。
確かにそんなわけないし、手が温かいなら心も温かいほうがいいに決まってる。逆もそう。

「…うん、帰る」

だから、冷えてしまったグリーンの手を、冷えている僕の手で、ぎゅっと握り返した。











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