行動を変えるのって難しい。
だっていつも無意識でしてるようなことを、意識して別のことにしないといけないから。
そして僕はたいていそれを忘れている。

「あ」
「どうした?買い忘れか?」

買い物帰りに、グリーンがふたつ袋を提げているのを見て声を上げる。
買い忘れなんてない。だってそれ僕の買い物じゃないし。

「…なんでもない」

もごもごと口をまごらせながらそう言う僕をグリーンは、そうか?とあまり気にすることもなくまた歩き出した。
グリーンがふたつも袋を提げているのは、僕の分を持っていてくれてるから。でも僕の買い物じゃないから、グリーンの荷物を僕が持っていただけなんだけど。

(…グリーン、普通に「貸せよ」って言って持ってくれたもんなぁ…まぁ自分の荷物だから当たり前なのかもしれないけど)

こういうときは「持って」とか「重い」とか言うべきだった、はず。

(…難しすぎる…)

悶々としていると歩くスピードが遅くなっていたようで、顔を上げるとグリーンと少し離れていた。
それに早足でグリーンの隣に行く、と。

「…!」

しまった、と思った。
ここでも何かすべきだったんじゃ、と思ってはみるけどもう到着してしまっているし。

(待って、とか、服掴むとかすればよかったのかな…)

肩を落として、はぁと小さくため息をつくと、

「…なんか元気ねーな」

隣なら心配するような声がかかってきた。
それにグリーンを見てみると、グリーンは両手に提げていた袋を片手にまとめて持つと、空いた手で僕の頭を帽子のうえから軽く叩くように撫でてきた。

「どうせ腹でも減ったんだろ?
何か食べるか?」
「……いらない」

明るく言ってくるグリーンに、顔を逸らしてぼそっと返す。

「それならいいけど…。
なんかあるなら言えよ」

僕の態度にたいして気にする風でもなく、グリーンはそう言うとまた歩き出した。
そして僕はグリーンの背中を見てまたハッと気づく。

(…今のもそうだったのかな…。
だけど、なんかこれってただの我儘みたい…)

そう思うと、昨日の出来事を思い出す。
昨日はグリーンの家に泊まった。
夜にふたりでテレビを見ていて、バラエティかなんかで『こういうあまえる仕草がかわいい!』とかなんとかそういう趣向のやつをやっていて。
僕は見てもいまいちピンとこなくて、隣にいるグリーンに聞いてみた。

「…こういうのって、いいなって思うんだ?」
「まぁ、なかにはそれはねーだろってのもあるけど、ちょっとグッとくるのもある」
「…ふーん…」

なるほど、そういうものなんだ。
と、そのときは大して気にも留めてなかったけど、グリーンがぼそっと言った、

「たまにはレッドに甘えられてみてーな」

という台詞が今日、頭のなかをぐるぐるしていて。
それでテレビで見た知識だけど、何かしてみようと思った。なんとなく。
でも、そもそも甘え方なんてよくわからない僕がそんなのしてみようと思った時点で結果は見えていたのかもしれないけど。
それにこれをこういう場面でしようって意識してするのってすごく計算高いというか、女の子すごい。

「…」

そんなことを思っているとグリーンの家についてしまった。
結局、半日、何もできないでいる。

(…甘えるのって意識してするようなもんじゃないってことだよね…)

そんなことをしみじみと思うと、グリーンには悪いけどもうここでリタイアしようと心に誓う。
だって、無理。
甘えるなんて、したことないし。
それにテレビでやってたの、けっこうハードル高い(僕のなかで)だし、そもそも出来ない。

「レッド、お茶」

そしてリビングのソファーにすとんと座った僕の前のテーブルに、グリーンがお茶の注がれたコップを置いた。
と、そのままグリーンは僕の隣に座ってきて、そして僕は抱きしめられた。

「??」

状況のわからない僕は抵抗することもなく、ただグリーンに抱きしめられていて。

「…グ、グリーン?」

戸惑ったような声をやっと出してみれば、抱きしめられたまま、よしよしと頭を撫でられた。
今度は帽子のうえからじゃなく、直接。

「なに悩んでるのか知らねーけど、ほどほどにしとけよ。
お前、けっこう繊細なんだし」
「…もう止めたから大丈夫」
「なんだそれ」

心配するような声色にさくっと台詞を返すと、グリーンがあきれたように呟く。
甘えられなくてごめん、と謝る方向が違うような気もするけど、そう心の中で僕は呟くと、抱きしめてくるグリーンにぎゅうと抱きつき返した。感覚的には大きなクッションに抱きつくみたいなかんじで。

「?!」

それにグリーンがびくっと体を震わせたけど、昨日のテレビの内容を思い出して、心の中でぐちぐち愚痴っていた僕は気付くわけもなく。

「…っ」

グリーンの背中に手を回して抱きつき、グリーンの肩口に額をつけてぶつぶつと続ける。

(というか、あれは女の子がする甘え方であって、男の僕がしても意味がないよね…今さらだけど。
………最初からだめだったんじゃないか…)

「〜〜〜っ」
「?!」

僕ってだめだなぁと自己嫌悪になりつつ、グリーンの肩口につけている額をぐりぐりとグリーンの肩口に擦り付ける。僕のばか!と自分を叱咤しながら。他意はない。

(あっ、それかヒビキとかに聞いてみたらわかるかな?
あとコトネにも。
…うん、そうしよう。あとでふたりに甘え方聞いてみよう)

そして自分のなかで新しく方法を考えついて一段落すると、グリーンがふるふると震えていのに気がつく。

「…グリーン?」

それに、どうしたんだろうと思って顔を上げてグリーンを見てみると、グリーンはそんな僕を見て顔をかあっと赤くさせて。

「…っ、おま…っ、心臓に悪すぎだろ…っ」
「?
なにが?」

顔を赤くして口をぱくぱくとさせているグリーンに、首を傾げて聞いてみる。
するとグリーンは手で顔を押さえると悶絶するようにまたぷるぷると震えると、がばっと僕を抱きしめ直してきた。

(…一体なにが起こったんだろうか?)

「グ、グリーン?」
「どこでそんなの覚えてきたんだよ…!」
「…だから、なにが?」

ぎゅうう、と痛いぐらいに抱きしめてくるグリーンにまた首を傾げると、あとでヒビキたちに連絡しよう、と思う僕だった。







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