「危ねぇ…」

バタン、と玄関のドアを閉めたと同時ぐらいにザーザーと轟くような雨音がして、それにおれはほっと胸を撫で下ろした。
傘とか持ってなかったから降られたら濡れるのは必至だから走って帰ってきてみた。
そして運良くおれが家に着いたと同時に雨が降り出して、ゴロゴロと遠くのほうで雷鳴で聞こえた。

「ん?そういやレッドどこ行ったんだ?」

今日はおれの家に泊まるって言ってて、ジムでおれの仕事が終わるのを待っていたけど遅くなるだろうからと先に帰らせたのに。
玄関のドアは開いてたから帰ってるんだろうけど、一体どこにいるんだろうか。なにせどこもかしこも真っ暗だ。電気ぐらい点けりゃいいのに。

「レッドー」

薄暗いリビングに足を踏み入れてみるもののレッドの姿はなく、ピカッと窓一面が明るくなったかと思うとドンという鈍い音が外に響く。

「うっわ…どっか落ちたんじゃねーだろうな」

さっきからゴロゴロ音はハンパねーし、電気がついてない薄暗い部屋が明るくなるほど光るし。
どうかここには落ちませんように。
そう祈りながら荷物をリビングに置いて自室へと行ってみると、薄暗い部屋のなかにレッドがいた。それも部屋の隅っこに体育座りをして。

「……なにしてんの、お前」
「…遅い」
「会話になってねーだろ」

膝を抱えて座り込んでいるレッドの前まで行って、呆れたようにそう呟いてやればレッドからぼそっと回答がくるものの、回答になってない回答だ。
それにさらに呆れてため息まじりに言うと、時計を見ていまが19時を過ぎていることに気がついた。
今日は確か半日だったはずなのにな、ジムでの仕事。

「あ、そうそう。
晩飯なんだけどさ、姉さんがカレー持ってきてくれてさ、それ食おうぜ」

さっきリビングに置いてきた荷物を思い出してそう言うが、レッドはぴくりとも動かない。
姉さんの飯好きなくせに食べたくないんだろうか?

「何してんだよ、飯食わねーの?
てか、何で隅っこにいるんだよ」
「…」

隅っこで膝抱えて座ってるとか、なにかおれ機嫌悪くなるようなことしたっけ?
あ、遅かったから拗ねてるとか?
確かにレッドが先に帰ったのは15時ぐらいだったから、それから遅くなるって言って4時間も遅くなるとか有り得ないし。
そうか、拗ねてんだな。

「遅くなったのは悪かったって。
けどほら、飯食おうぜ」

そう言って膝を抱えて座り込んでいるレッドの腕を掴んで引っ張ってみると、そのタイミングで雷がすごい音を立ててどこかに落ちたようだった。

「うわー、落ちたな、あれ完全に」

と、そこでレッドの体がちいさく震えているのに気がついた。

「レッド、寒い?」
「…」

もしかして雨に濡れてそのままとか。いや、レッドのが先に帰ったんだし雨が降り出したのだってさっきおれが帰り着いてからだから雨に濡れてるわけはねーか。
と、またそこで雷が轟音を立てる。

「っ!」
「…え?」

ゴロゴロと鈍い音を立てている雷の音を遮るかのように、レッドがおれが掴んでないほうの空いたほうの手で耳を押さえているのが目に入った。

(……まさか、そんな。
いやいや、あの黄色いのがいんのにそれはねーよな)

「っ!」
「!」

それでも雷が鳴ればレッドの体がそれに反応するようにビクッと震えている。
まさか。ないない。いや、でもこれはある、のか?
レッドの様子をみてあるひとつの結論に辿りつくものの、それはおれにとって不可解なものでしかない。

「…っ」
「…レッド、もしかして雷怖いとか?」
「…」

まさかと思ってそう聞いてみるとレッドからの回答は無言で。それでも雷が鳴ればその体がビクッと震えていて肯定だと言ってるようなものだった。

「嘘だろ…。
あれといるくせに雷だめってどうなんだよ…」

一番の相棒がでんきタイプだろ、お前。
今はポケセンでのんびりしてるであろう黄色い悪魔のことを思いながらそう言ってみると、やっとレッドがぽつりと言葉を発した。

「…違う」
「違うってなにが。
雷が怖いってことがか?」
「でんきと雷は違う」
「…そうか?
つーか、否定するのそっちってことは雷怖いのはほんとなんだな…」

ぼそぼそっと言ってくるレッドの言葉にいまいち納得は出来ないが、ひとつわかったのはレッドが雷が嫌いだということだ。
ちいさい頃、雷で怯えてた記憶はないんだけどなぁ。
と思っていると、また雷が鳴った。
しかもすぐ近くに落ちたのか、窓一面がピカッと明るく光ると地響きのような音が辺りに響いた。

「やべぇ、近っ。どこに落ちた…、うわぁ?!」

あまりに近いとこに落ちたっぽいのでそれに焦ってみると、膝を抱えて座り込んでいたレッドがその大きな雷鳴に驚いたのかがばっとおれに抱きついてきた。
そして突然すぎるそれに身構えなんて出来てなかったおれは尻もちをついた。

「痛って〜…レッド、お前な、」
「〜〜…ッ」
「…」

頭とか打たなかっただけ良かったのかもしれねーけど、それでも尻もちついた尻は痛い。
なのでレッドに抗議をしてやろうと思ったものの、おれの胸にぎゅっと抱きついてきているレッドの肩がちいさく震えているのに気がつくとおれは抗議の言葉を飲み込んだ。
そしてそっとその震える肩を抱きしめ返してやった。

「…マジでだめなの?」
「…っ」

腑に落ちないレッドの行動に再確認するかのように聞いてみると、レッドがちいさく首を縦に振ったのがわかった。
マジで意味わからん。いつも雷鳴っつーか、電撃聞いてるだろうに。ボルテッカーとか10万ボルトとかどうなんだよ。
まぁ確かに落ちてくる雷とは違うのかもしれねーけど。でもでんきってのはタイプってだけであの電気は雷だろ。
今日判明した、雷が嫌いというレッドの特性に呆れつつも、あのレッドがこんなになるんだからよっぽど怖いんだろうなとも思う。ただ腑に落ちないだけで。

「…つーか、飯…」

一応腹は減ってんだけどな。
それでもゴロゴロと雷が鳴ればレッドがおれにしがみつくようにして抱きついてくる。

(身動きがとれねぇ…)

これじゃあ飯どころじゃなさそうだ。それでもさっきこそ降り始めた雨があっさりと止むとも思えない。

(雨も雷もしばらく止まねーぞ、これ…)

轟々とスコールのように降っている大雨と空を切り裂くような雷鳴を聞きながら、どうしたもんかと考えてみる。
それでも考えてみても何も浮かばないし、刻々と時間だけが過ぎていくし、かといって雨は止まねーし。

「…っ」

こんな風に怖がるレッドとか初めて見た気がする。
いつも無表情で何考えてるかわかんないとこあるけど、こういう一面見せられたら可愛い以外の言葉が出てこない。

(…仕方ない)

「レッド、いいこと教えてやろうか?」
「…」

震える背中を擦ってやりながらそう言うと、うんともすんとも言わないレッドの耳元へと唇を持っていく。
そして、いいこと、ということを囁いてやる。

「えっちなことしてたらさ、雷とか怖くねーぞ?」










クレッシェンドが鳴り響く



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