昨日、レッドとキスをしてしまった。
と言っても、ほとんど事故だけど。
そのあとレッドはたいして気にした風でもなく、読みかけの雑誌にまた目を移していて。
ポーカーフェイスというか感情があんまり表情にでにくいから、レッドの本心がどうだったかはわからないが、それなりにレッドの表情の色がわかる身としてはシロだった。
まぁいきなりこけてぶつかってきた幼なじみ(男)に押し倒されて、その拍子でキス、とかなってもロマンティックのかけらもねーしな。

「……くそっ」

おれの頭の中が昨日のそのことで一杯なのは、嫌悪感とか罪悪感とかそういうものからきているわけじゃない。
実はレッドのことが好きだから。
事故とはいえ、片想い相手にキスしたなんて、おれのなかでは拷問に近い。いや、かなり嬉しかったですけども。

「…つーか、唇やわらかかったな…って、バカ!
んなこと考えてる場合じゃねーだろ、おれ!」

自分で自分に突っ込みを入れつつも(ただいまジムバトルの真っ最中)、忘れられるわけがない。
想像以上に柔らかかった唇はたとえて言うならマシュマロのようで。
あ、おれ、けっこう気持ち悪いやつだな…。

「〜〜っ、
…タイムマシンがあったら昨日に戻りたい…こける前に…」

ジムの自室にしゃがみこんでめそめそと泣いているおれを、おれを呼びに来たジムトレーナーがすごい目で見ていた。
あれっ、ドア開いてたっけ。

「おわっ?!
な、何の用だ?!」
「いや、あの、レッドさんが来てるんですけど…」
「レッド?
…………………レッド?!!」
「は、はぁ」

ジムトレーナーの姿にハッと我に返って焦って聞いてみるものの、渦中の人物の名前を告げられ、動揺しかできない。
そんなおれをジムトレーナーはやっぱりすごい目で見ている。
(このひと大丈夫だろうか…)

「あの〜、ジム戦終わるまで待っててもらうよう言ってきましょうか?」
「…い、いや、たいした用じゃねーだろうし。
2,3分で戻るから挑戦者勝たせるんじゃねーぞ!」

ジムトレーナーにびしっと決めてそう言ってやるが、ジムトレーナーはさっき同様、すごい目でおれを見てきて「はぁ」と返事するだけだった。
そんなに引くことねーだろうが。おれだってな、悩んだりうじうじしたりすんだよ、ばか!
そしてジムトレーナーの半笑いに心の中でちくしょおおおおおおと全力で叫ぶと、急いでレッドのところへと向かう。
まぁ今までの経験で言うと「今からシロガネ山に帰る」が一番だろう。
それか「ひま」のどっちかだ。
つーか、用あるならポケギア使えっつーの。
昨日のことは高い棚にあげて、いったん忘れてレッドのところへたどり着いた。

「レッド!」
「…あ」

レッドはジムの裏口のところにいて。
前に正面玄関のとこにいたらうちにきた挑戦者たちに囲まれてすげー困ってたから、それからレッドが来るときは裏口からだ。

「なんだよ、用って」

とりあえず用件を聞いてみると、レッドがスタスタとおれに近づいてきた。
その距離、目の前。

「?!!」

それに一気に昨日のことが思い出されそうになって、3日かけて打ち込んだデータが停電で消えたときのことを慌てて思い出して打ち消す。
あれな、そのあとまた3日かけてデータ打ち直した。あ、けっこうへこむわ、これ。

「な、なんだよ?」

しかしへこんだのはちょっとだけで、目の前の無表情なレッドに心のなかはパニック状態だ。
それでもどうにか平静と冷静を装う。

「…昨日からずっと引っ掛かることがあって」
「引っ掛かること?」

昨日という単語にどきっとするものの、引っ掛かることという単語に心当たりはなく眉間にシワを寄せる。なんかレッドが疑問に思うようなことあったか?
しかしレッドはというとまだ無表情なままで、引っ掛かるというかなんか気にしている風ではない。

「…だから確認にきた」
「?
何の確認だよ?」

幼なじみとしてレッドの無表情もなんとなく喜怒哀楽を読み取れるつもりでいたけど、やっぱりわからない。
淡々とそう告げてくるレッドが困っているのかさえもわからない。
そしてレッドの台詞におれがそう返すと、レッドが一歩おれへと近づいてきて。

「…」

ちゅ、とキスをしてきた。

「…」
「……グリーン」
「…えっ?!あっ、はいっ?!!」

それに固まるおれの心中なんて全く気にする様子もなくレッドがおれの名前を呼んできて、それではっと我に返る。
というか、えっ?なにいまの。もしかしなくてもキスだよな?えっ、なに、どういうこと?は?なんで?ええええ?!!
驚きすぎて表情は落ち着いてしまっている。が、心のなかはわけがわからないほどにパニックだ。
だってそうだろ。昨日のは事故でキスしてしまったけど、今のはレッドから普通にキスしてきたんだぞ?
パニックにならないわけがない。
が、当の本人はまだ無表情なままで。

「…どうしよう。
僕、グリーンのこと好きかも」

全然困った風ではなくそんな台詞を淡々とレッドは言ってきて、おれの頭はついに容量オーバーでパンクした(ちなみに卒倒した)








白雪姫はキスで目覚める



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