グリーンはエスパータイプなんだと思う。 サイコキネシスが使えるわけでも、テレポートが使えるわけでもないけど。 でも、僕の考えてることがグリーンにはわかるから。 「…レッド、今めんどくさいって思っただろ」 「…」 グリーンが厳しい目でそう言ってきた。 たまたまシロガネ山にやって来たグリーンに、怪我したところをちょうど見られて。 それで散々怒られて、今こうして正座(反省の意味も込めて)して、怪我をした左腕に消毒されて包帯を巻かれている。 …だって、包帯いちいち巻くのめんどくさいから絆創膏でいいのに…。 「絆創膏?絆創膏でもいいけど、いま持ってるサイズが合わないんだよ」 「…」 僕は口に出してないのに、グリーンはまるで僕の心の声が聞こえたかのようにそう言ってくる。 「ったく、今度来るとき薬多めな救急箱がいるな」 「……ありがと」 「どういたしまして」 包帯を巻き終えたグリーンにお礼を述べると、包帯が巻かれた自分の左腕をじっと見る。 別に怪我はたいしたことない。 ちょっと洞窟で足を滑らせて落ちて、ちょっと擦りむいたというか、ちょっと血が出たというか。 「こら、レッド。それ、たいしたことなくないからな。あとでポケセン行くぞ。 おれが来たからいいものの…だから怪我には気を付けろってあれほど…」 「…」 僕のほうをキッと見てきたグリーンが、僕と同様正座に座りなおし、恐い形相をして僕にくどくどと話を始めてきた。説教だ。 というか、どうして僕の心の声がわかるのか。 感情が顔に出やすいほうではないと思うし、わかりやすいことをしてるつもりもない。 それと、僕の考えてることがわかるのはグリーンだけだ。 他のひとが言うには、僕は何考えてるかわからないらしい。 だから、グリーンはエスパータイプなんだと思う。 「…こないだだって危ないっつーのにお前は…」 「…」 …絶対、顔には出ないほうだと思うんだけどなぁ。 ぼんやりそんなことを思いながら、まだくどくどと僕に説教をしているグリーンを見つめる。 思えば、ちいさい頃からそうだった気がする。 なんとなく思ったことをグリーンに当てられて、そして会話になって行動になって。 ちいさい頃は特に気にしてなかったし、それで良かったから。 「レッド、話聞いてないだろ」 「…聞いてます」 話を中断して僕の様子を窺ってきたグリーンに、うわの空でそう答える。 「…ったく、これだからこんなとこにひとり置いておくのは心配なんだよ」 そんな僕を見てグリーンはため息をつくと、正座を崩して胡坐をかくと、リュックのなかから水筒を取り出した。 「…グリーン」 「なんだよ?」 監視にロトムでもつけるか…とかぶつぶつ言いながら、水筒のふたを開けようとしているグリーンを体育座りしてじっと見つめる。 グリーンはちょっとぶっきらぼうなかんじでそう言うと僕を見てきた。 そういえば、グリーンがエスパータイプだとしても、これはいったい何て技なんだろう。 相手の考えてることがわかる技とかあったかなぁ…。 特性のよちむはそれっぽいけどあれは技がわかるやつだし。 「だから、何?」 「…僕がいま何考えてるかわかる?」 「は?」 すると僕の質問にグリーンは、眉間にシワを寄せて怪訝そうな顔になった。 そして水筒のふたを開けていた手が止まる。 「…なんだよ、それは」 「だってグリーンはエスパータイプだから」 「……おれがエスパータイプ…? おれ、人間だぞ…?」 いきなり何言い出してんだ、とグリーンが呆れたように呟く。 グリーンが人間なのはわかってるけど、でも僕の考えてることああもわかるなんてエスパータイプじゃないって言うならなんだって言うわけ? 呆れた表情のグリーンを逆に問い詰めるようにじっと見ていると、グリーンが大きなため息をつく。 「……なに考えてるか当てればいいのかよ?」 「うん」 グリーン的には折れた、そうで。 そして諦めたような声色でそう聞いてきたグリーンにこくんと頷く。 グリーンはエスパータイプなんだし、ちょっと難しいこと考えてもわかりそうだ。 それならものすごい難しいことを考えてやろうと悶々とする。 ………何にしよう…。 「…いま何考えようかって悩んでるだろ…」 「…悩んでません」 そんな僕を見て、グリーンがぼそっと呆れたようにそう言ってくるから、当たっているけど違うと言い張る。今は考え中なんです。 「…」 そして呆れた表情のグリーンをじーっと見つめる。 僕に見つめられたグリーンは、僕と同じように、僕を見つめてくる。ため息まじりに。 「…」 …グリーンって一言多いっていうかなんかひとつ余計なんだよね…。昔から。 それにグリーンはへたれだし、頼りにならないとこあるし、意気地なしだし、怒ると長いしうるさいし、かっこつけたがりだし、めんどくさいし、うざいし。 「……レッド、ろくでもないこと考えてるだろ…」 じっとグリーンを見つめていたせいか、浮かぶのはグリーンのことばかりだ。しかも悪口ばかり。 そしてそんな僕を見てグリーンが、眉間にシワを寄せて暗い表情で呟く。 「…あのな、おれだって全部が全部わかるわけじゃねーぞ…?」 「…」 「…わからないこともあります」 呆れたようにグリーンが言ってきたから、そんなことはないとの思いを込めて見つめてみれば、グリーンは一瞬怯みかけたけど口を結ぶことなくそう告げてきた。 でも、全部が全部わからなくても、わからないことがあっても、大体はわかっちゃうくせに。 なんでグリーンが。 なんで僕だけ。 「…」 「…レッド?」 …グリーンは、僕の考えてることがわかる。 でも他のひとは、僕が考えてることはわからない。 じゃあ、グリーンは? グリーンがわかるのは僕だけ? 他のひとが何考えてるか、僕のときみたくわかるの? 「…あのな、聞きたいことがあるなら言えよ」 「…言わなくても僕が何考えてるかわかるでしょ?」 じっとグリーンの瞳を覗きこむようにして言えば、グリーンは大きなため息をつく。 そして自分の頭をがしがしと掻いたかと思うと、 「〜〜…っ、 ったく、ひとをなんだと思ってんだ」 「!」 グリーンの手が伸びてきて、ぎゅう、とその両腕に掴まえられた。 「万人が考えてることなんかわかるかよ。おれがわかるのはレッドだけ。 レッド限定のエスパータイプなんだよ」 「…」 「嘘じゃねーって。 いいんだよ、レッドのことがわかるのはおれだけで」 「…」 「…わからないこともありますけどね、って、口で言え、口で!」 ぎゅう、と抱きしめられたまま会話が進むなんて、変というか、楽というか。 まあ僕が考えてたことはやっぱりグリーンにはわかってたみたいでちょっとむかつく。 「…」 でも、僕が何考えてるかわかるのはグリーンだけで。 グリーンがわかるのも僕だけっていうのは。 なんか。 なんだか、不思議な優越感。 「…」 「…えっと、なに?」 「…」 …肝心なとこがわからないのはどうかと思うけど。 でも全部が全部わかっちゃうのは嫌だから、肝心なとこがわからないぐらいがへたれなグリーンにはちょうどいいのかもしれない。 「…レッド、今へたれだって思っただろ」 「…思ってない」 きみはエスパー |