「…グリーンって、いいお嫁さんになるよね」

レッドとふたりでうちで晩ごはんを食べていると、向かい側に座っているレッドがいきなりそんなことを言い出し、おれは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

「〜〜っ、
は、はあ?」

いきなり何言い出すんだ、と眉間にシワを寄せてレッドを見るとレッドは、なに?と言いたそうにきょとんとしている。
なに?じゃねーよ。
お嫁さんって女の子だろ。男は婿だろ。って、そうじゃなくて。
相変わらず、この幼なじみの考えていることはよくわからない。

「何の話だよ、いきなり…」

突拍子のない話をし出すのはいつものことだが、今回は話がナナメ上すぎた。
それにおれが女の子だったならその台詞はおかしくないけど、おれは男だ。お嫁さんもらうほうだからな。
つーか、何のタイミングでその台詞なんだ。
怪訝そうな顔をしたおれにレッドが、ん?と首を傾げているがそっくりそのまま返してやりたい。

「…だってご飯作るの上手だし、掃除も洗濯も出来るし」
「…一人暮らしなんだから、出来るに決まってんだろ…」

ね?と同調を求めてきたレッドにはぁとため息まじりに答える。
一人暮らしだからやりたくなくてもやらないといけねーし、レッドがうちに泊まるとなれば昔ライバルだったせいか変にプライドが出てきて見栄張ってしまうというか。
あとはレッドの普段を思うと自然と振る舞う料理の腕は上がったわけで。
…嬉しいような悲しいような…。

「…一人暮らしだと出来るんだ…」

するとレッドがおれの答えにふむふむと納得していて、おれは慌てて、

「あ、でも出来ないやつは出来ないからな、女の子でも」

と付け加えておく。
じゃないとこいつは鵜呑みにするっつーか、一人暮らしイコール何でもできると思ってしまいそうだ。

「…そうなの?」
「そうなの。いまは料理出来ない女の子多いぜ?」
「…ふーん」

うちのジムトレーナーの女子もほとんどが料理出来ないし、出来てもすごいもの作るっていうか。
いつだったか、ジムトレーナーの女子たちが振る舞ってくれた料理を、あれは料理じゃない、とジムの男みんなが思ったぐらいに。

「つーか、その話でいくとレッドはいいお嫁さんにはなれねーな」

中断していた食事を再開し、ご飯を口に運びつつそう言ってやる。
前に、泊めてもらってお世話になっているからとか言ってレッドがご飯を作ってくれたことがあったけど、料理が出来る以前に流血沙汰になりそうだったし鍋から火が出て火事になりそうだった。
それ以来レッドをキッチンのなかに入れたことはない。
だって、おれが怖い。いろんな意味で。
まあいつもシロガネ山でサバイバルな生活しているレッドだから仕方ねーのかもしれねーけど。
掃除も洗濯もだめだった(掃除は掃除機が吸えない容量のものを吸い込んで壊れたし、洗濯は洗剤じゃなくて入浴剤入れて回してエライことになった)し、唯一出来た家事は箸を並べる、だったような…。
いや、家事というかちいさい子のお手伝いレベルだな、これ…。

「…別にいいよ、グリーンのお嫁さんにはならないから」
「待て待て、レッドを嫁にもらう気はねーぞ?」

レッドがむすっと頬を膨らませて言うが、なんでそうなる。
もらうなら家事が出来て気配りも出来て美人な嫁さんもらうわ。
レッドの台詞に、ないない、とちょっと呆れて首を横に振る。

「…だから、ならないってば」
「いやいや、もらわないから」

むすっとした顔でレッドが再度拒否ってくるけど、こっちももらう気はねーって言ってんだろ。
おれも手をひらひらと振って、再度拒否る。
というか、レッドはお嫁さんにはなれないだろ。なっても婿だろ、男なんだし。

「…グリーンのお嫁さんになるぐらいならワタルかヒビキのお嫁さんになる」
「は?」

すると、むすっとしたレッドがそんなことを言い出し、それに箸のうえからご飯が落ちる。
いや、レッドは絶対おれの嫁にはならないという比喩でワタルやヒビキの名前を言ってきただけで、本気でそんなこと言ってるわけじゃないとはわかっているけど、なんか。
うん。なんか、引っ掛かる。
…あれ?なぜだ?

「な、なんでそのふたりなんだよ」
「…グリーンより強いし」

はいはい、とか流せばよかったのに真面目に聞き返してしまった自分が恨めしい。
そしてレッドから告げられた台詞に素直にへこむ。
いや、まあ、ワタルはチャンピオンだしヒビキはおれに勝ってシロガネ山に行ったけども。
おれより強い、って断定することないだろ。何回かバトルしたら、おれだってワタルやヒビキに勝つっつーの。

「…っ」

なんかダメージ大きいのなんでだ…。
レッドの台詞が胸に刺さりすぎて撃沈しているおれを気にする風でもなく、レッドはごちそうさまと言うと自分の皿をシンクに運んでいて。

「……あのふたりには負けねーよ」

なんかよくわからないけど、涙目でそうぼそりと決心したおれだった。
あ、決してレッドを嫁にもらいたいからバトル強くなるわけじゃないから。うん、違う。違う。違うって。断じて違う。違うから。うん。うん?

「……違うって言ってんだろー!」
「…グリーン、うるさい」
「ご、ごめん」










無自覚の嫁取り計画




「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -