「なぁ、レッド。
キスするときに目、閉じる?閉じない?」

それは、とあるオフの日の昼下がりのことで。
ふたりでソファーに座って、ヒビキから借りた映画を見ているときにおれはレッドにそう聞いた。
もちろん、答えをわかっていながら。

「…」

そしてレッドはというと、おれのいきなりの質問にきょとんとした顔でおれを見てきた。
わかってる。レッドが恋愛にすげー疎くてそういう経験ないってこと。
だから答えはもちろん、

「…閉じる」
「だよな、閉じるよな。
…って、ええええ?!」

ぼそっとレッドが答えてきたそれにやっぱりと思って頷いていたけど、待て。
思ってたのと違う。

「…な、何?」

おれが大きな声を出したから、レッドがそれに少し驚いている。
が、おれの驚きは比じゃない。
えっ、だってレッドがキスするときは目を閉じるって、えっ?えっ?
おれの予想だと「そんなのしたことないからわからない」とかな答えで、「じゃあ試してみようぜ」な流れでキスできると思っていたのに。なにこの裏切られた感は。
でもまあ別に付き合ってるわけでも何でもないのであれですが。

「…レ、レッド、目、閉じるんだ…」
「?
閉じたらだめなの…?」
「い、いや、そういうわけじゃねーけど…」

冷静と平静を頑張って装ってみるものの、台詞はどもるしなんだかそわそわとかなり挙動不審だ。
そしてそんなおれを見てレッドが、違うの?と不思議そうに聞いてくるけど別に閉じようが閉じまいが正解なんてない。だって個人の好みっつーか自由だろ?

「…っ」
「…?」

まさかレッドが…。こういうのは経験ないだろうから、いろいろ詰めて既成事実作ってから付き合おうとか考えていたのに(コトネ曰く、こういうとこがヘタレというか最低らしい)
一気に落ち込むおれを見て、レッドがいつになく心配なんかしてくれている。

「…グリーンは、目は閉じないんだ?」

気遣うとかそういうキャラじゃないくせに、レッドにそんなことをさせてしまっている自分が情けない。

「…まあ、相手による…」
「…」

そしてありのままの台詞を返してしまうおれはやっぱり最低なんだろう。
それに、言ったあとではっとするけど言ってしまったのでもう後の祭りだ。
心配というか気遣う心をみせてくれたレッドが今はもう真冬のシロガネ山並みの冷たいオーラを漂わせている。

「…そう」

そしてレッドはテレビのほうに向きなおして、中断していた映画を見始めた。
ああ、おれのバカ…!これじゃあおれが遊んでいると思われても仕方ねーじゃねーか。
けど幸いなことに、レッドにとってそんなことはどうでもいいことに分類されるのでもうレッドの頭のなかには残ってないだろう。
それも複雑だけど…。多少は意識してほしいわけだし…。

「…」
「…」

そして傷心したままで映画の続きを見るものの頭のなかはぐちゃぐちゃで、素敵(であろう)映画のストーリーが全く入ってこない。
つーか、レッドがキスするとき目閉じるとか…、それってつまりはキスしたことあるってことだよな?
ぐうう、どこぞの素敵なお姉さんと…!いや、お姉さんかどうかは知らねーけども。

「…グリーン」
「…なんだよ?」

心のなかでさめざめと泣いて、表面はとり繕って冷静さを演出して答える。
ただし、冷静というよりもかなりぶっきらぼうだけど。

「…目、開けてたら難しくない?」
「は?」

するとレッドから傷心した理由の主たる話題をまた蒸し返された。
けど、どういう意味だ?と思ってレッドを見てみれば、

「?!」

レッドの顔が目の前にあってびびる。

「…焦点合わなくなるよ?」
「…そ、そうですね」

遠慮なくどんどん顔を近づけてくるレッドに、おれは心のなかで必死に落ちつけと自分に言い聞かせる。
だって近すぎだろ、この距離は。
誰かがレッドの背中を押したら、それこそキスできそうなぐらいで。

「で、でもレッドだって目閉じるって言ったけど、キスするまでは開けてるだろ?」
「…?」

あれ?まさか目を閉じたまま相手に近づいてキスしようとか?
ある一定の距離までは目は開けてないとある意味無理だと思うんだけど。
おれの問いに首をちょこんと傾げるレッドがすげー可愛くて、いつ目を閉じるとか閉じないとかまじでどうでもいい。
が。

「…だんだんわからなくなってきた…」
「何にだよ?」

困惑した表情で首を捻るとレッドがちいさく「あ」と声を上げたかと思うと。

「??!」

ずいっとレッドが近づいてきて、おれの焦点が合わなくなってレッドの赤い目がぼやけて、おれの唇にすげー柔らかいものが触れて。

「…あ、目閉じなかった」

いつもどおりな表情で淡々とレッドがそう言ってきて、おれはソファーに倒れ込んだ。













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