「…来ちゃった」

語尾にハートマークをつけて(ただし棒読み)、トキワジムにやってきたのはシロガネ山の主であるレッドで。
遠巻きなジムトレーナーたちはレッドを見て、伝説のひとだとか何とか言ってどよめいている。
そっか、レッドがここに来るの初めてか。じゃなくて。

「おま…っ、来るとき連絡しろって言っただろ!」

ズンズンとレッドの前まで歩いていくと、その頭を軽くたたく。教育的指導な。
すると遠巻きに見ているジムトレーナーたちがさらにざわついている。
それを無視して、おれは着ていた上着を脱ぐとレッドの肩にかけてやった。

「それと、おれが持って行ったコート着ろよ!
いくらバカでも風邪引くぞ」
「…あー…あれなら確かリザードンが灰に…」
「するんじゃありません」

なんで燃やしたんだ。着ろよ。
しれっとした顔のレッドに、はあとため息をつく。
感覚が鈍いっつーか、体感温度が狂ってるっつーか。
いま、12月なんですけど。半袖はさすがにねーだろ。つーか、鼻の頭、赤くなってるじゃねーか。
ずり落ちそうになったおれの上着をきちんとレッドの肩にかけると、両手をレッドに伸ばす。

「ったく、すげー冷たいんですけど」
「…グリーン、あったかい」
「手も心もあったかいんだよ、おれは」

レッドの頬を包み込むようにして手を添えてやれば、レッドが感心したようにそう言ってきたのでそう返す。
肌冷たいし、なんか青白いし、大丈夫か、まじで。
するとおれの手のひらが予想以上に温かかったようで(逆に言えば、レッドの頬が氷みたく冷たいだけなんだが)、レッドは添えられているおれの手にすり寄るようにしてきた。

「…イーブイみたいだな」

すりすり、と頬をすり寄せてくるその仕草にぼそっとそう言うと、レッドの大きな赤い目がおれを見てくる。
イーブイみたいと言われて怒った、というわけではなさそうで、ただおれをじっと見ている。

「…」
「なんだよ?」

なのでそう聞いてやれば、レッドがおれから視線を外した。

「…なんか、後ろの視線がすごい」
「は?」

そしてレッドが不思議そうな顔でそう言ってきて、一体何のことだとそれに振り向くと、

「うおっ?!」

そうだった、ここジムの中だった。
少し離れたところで遠巻きにしているジムトレーナーたちがひそひそとざわつきつつも、こっちをすげー見ていてそれにビビる。
つーか、なにその疑わしいものを見るような目は。

「あ、わ、悪い。
ジムバトル途中だったよな」

だけどレッドからぱっと手を放すと、ジムトレーナーたちのほうを向いてそう謝ってみる。
そうだよ、ジムバトルしてた途中で「あのシロガネ山のすごいトレーナーが来てます!」なんて言われてここに来たんだっけ。
挑戦者も待たせるわけにはいかねーし、早く戻らないと。
するとジムトレーナーのひとりが恐る恐る口を開く。

「あ、あの、グリーンさんはその方とどういう関係で…?」
「は?レッドか?
レッドはライバル…だったんだよ。あと幼なじみ」

あれ?レッドのこと話したことなかったっけ?
つーか、なんでそんなに恐る恐るなんだよ?

「えっ?!付き合ってな、ッ」
「は?」

するとおれの返事を聞いたジムトレーナーが驚いたように何か言いかけたところで、違うジムトレーナーが慌てたようにそいつの口を手で塞いだ。
なんて言ったんだ?

「そ、そうなんですね!
あっ、おれたち、先戻っておきます!」
「お、おう」

そして手で塞いでいるほうのジムトレーナーが焦ったようにそう繕うように言うと、ジムトレーナーたちはまたざわざわしたまま踵を返していく。

「…何なんだ?」

変なやつらだな…。
だけど特に気にすることもなく、おれも戻ろうと足を進めるが、忘れてた。

「レッド」

突然の訪問者なレッドのほうを振り向く。

「!」
「それ、うちのカギ」

ズボンのポケットからうちのカギを取り出して、それをシュッとレッドに投げて受け取らせた。
が、カギを受け取ったレッドはなにこれと言いたそうな顔で首を傾げている。

「バカ、うち行ってろよ。
ここにいてもかまってやれねーし、おれの部屋の机のうえにデータディスクあるから見ていいぞ」

そう告げると、レッドはぱあああっと顔を明るくさせた。
と言っても、他のやつが見てもほとんど表情変わってないからわからないだろうけど。

「じゃあ、後でな」

そしてレッドに背を向けて歩きだすと、

「…グリーン」

今度はレッドから呼ばれて足を止めると、またレッドのほうを振り向く。
するとおれの上着を肩にかけたままのレッドがおれを見て、にこ、と笑う。
これは他のやつが見てもなんとなくわかるぐらいの表情で。
そして。

「…早く帰ってきてね」

最後に首をちょこんと傾げてレッドがそう言ってきて、おれはレッドに微笑み返すとジムバトルへと戻っていった。














誰も知らないAとBの境界線


「あのふたり、あれでまじで付き合ってないの?!」
「グリーンさんの行動があまりにも自然で、レッドさんも普通にしてたから違和感なかったよな…」
「なんなの、あのふたり」

なぜか今日一日、ジムトレーナーたちから不審と不憫な目で見られました。
おれ、なんかしたか…?



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