グリ+レ 「…はー…めんどくせぇ…」 辛気くさくぼそっとそう呟きながら、さっきまで降っていた雨のせいでできた水溜まりを避けて道を歩く。 「…つーか、寒いな」 もうすぐ冬だし、雨が降ると気温が下がって少し肌寒く感じる。 上着これだと寒いかもな…。 そして時間を確認しようと取り出したポケギアを開いたところで、視界に珍しい人物が映った。 「よぉ、何してんだ、こんなとこで」 「…グリーン」 その人物とは、シロガネ山の主でもある幼なじみのレッドで。 レッドは店の軒下に立っていて、誰かを待っているのか今からどこかへ行こうとしているのかそんなかんじだ。 さっきまで降っていた雨のせいで通りにひとはほとんどいないから後者っぽいけど。 そして相変わらず無に近い表情でおれを見てきたレッドの隣に行くと、開いたポケギアの画面を見つめる。 「…サボり?」 するとレッドから、もしかしてというふうに聞かれ、おれはため息まじりにポケギアを閉じた。 「ちげーよ。 今からセキエイ高原に行かないといけなくなったんだよ」 「…ワタルに用事?」 「いや、協会に用事」 おれはそう言うと、面倒くさそうに肩を竦める。 時間はもうちょっとあるから家帰って着替えて、とりあえずこないだの資料等かき集めて…つーか、いつも召集の連絡くるの遅すぎだろ、うちだけ。 他に比べたら多少セキエイ高原に近いとはいえ、たかが多少だし、当日に言ってくるなんてまじでなめてる。 「…ジムリーダーは大変だね」 「…レッド、ジムリーダーやらねーか?」 「…グリーンがデスクワークしてくれるならする」 「無理」 さくっと提案してみればレッドがにこっと条件付きでそう返してきて、拒否の即答をする。 そのデスクワークやらなんやらを免除されたいんだよ、おれは。 つーか、まじでポジション替わろうぜ。仕事多すぎてつらい。なんなの。 あ、でもシロガネ山で半袖で生息はできねーから交渉決裂だな。 「っと、じゃあ行くわ。 今度うち来いよ、泊めてやるし」 「、っくしゅん!」 「へ?」 のんびりレッドと話してる場合じゃなかった、とレッドに片手を上げてそう言うとその場から立ち去ろうとした。が。 レッドがくしゃみなんてしたもんだから足が止まる。 だってあのレッドだぞ?深々と雪が積もるシロガネ山で半袖なレッドだぞ? 誰かが噂をしてるとかのくしゃみならまだしも、寒さでくしゃみなんてあり得ないだろ。まだそうだと確定したわけじゃねーけど。 「ん?」 と、隣のレッドをよく見てみれば、なんだか濡れてるような気がする。 もしかしてここにいるのは、誰かを待っているわけでもどこかへ行こうとしているわけでもなく、単に雨宿りしてたってことか…? あれ?てことは、さっきのくしゃみはやっぱり寒くて…? 「…なに?」 「…お前、傘持ってないよな」 「? 持ってないよ?」 「てことは、雨に降られたってことか?」 まじまじと自分を見てくるおれに、レッドはきょとんとした顔を見せる。 「!」 そして、なにが?と言いたそうなレッドの唇が紫色なのに今さら気がつく。って、唇なんてそう観察するもんじゃないし、おれは悪くない。 で、それって寒くて変色してるってこと、だよな…? 「ちょっ、何なんだよ、お前は!」 「…な、なにが?」 今更ながらに慌てて上着を脱ぐとそれを、いきなり大きな声を出したおれにびっくりしているレッドの肩にかけてやった。 それからレッドの頬に手を伸ばす。 「…グリーン…?」 「おわっ、冷たっ! 雨に濡れてそのままでいたら風邪引くぞ?!」 「う、うん?」 案の定、頬は冷えていて赤みを差すこともなく肌は青白い。もともと色は白いほうだったけどこれはない。 こいつ、こういうの無頓着なとこけっこうあるんだよなぁ、小さい頃から。 そしてレッドはお説教モードなおれに戸惑ったような顔になる。 「マサラはちょっと遠いとしてもポケセンにでも行けばどうにかなるだろ!ほら!」 「ちょ、グリーン…っ?」 驚いてぱちぱちと瞬きをするレッドの手を掴むと、ポケセン目指して歩き出す。 つーか、手も冷たいな、まじで! 雨けっこう長く降ってたけど、まさかトキワシティにくるまでずっと濡れてたとかいうわけじゃないよな? と、レッドが足を踏ん張って急ブレーキをかけた。 「っ、なんだよ、レッド」 「…っ、ポケセンぐらいひとりで行けるし…。 それにグリーン、今からセキエイ高原に行くんじゃないの…?」 「あ」 レッドから言われて、おれは思い出したように声をあげる。 そうだった…今からセキエイ高原に行くんだった。 「?」 だが、おれには気掛かりが。 そしてちらりとレッドを見れば、レッドはなに?と首を傾げている。 こういうとき幼なじみというのは面倒だ。 小さい頃からの性格やらなんやら知ってるしわかってるから、この後レッドが大体どんな行動をするのか予測できるというかなんというか。 そして更には、なぜか特にレッドの世話を焼いてしまうおれの性格はそれを放っておけない。 「あ」 どうしようと思っていると名案が思いつき、これだとばかりにもう一度声をあげる。 「!」 それからレッドの手を放さずに、逆に引っ張って反対方向へとおれは歩き出す。 「っ、グ、グリーン?」 「じゃあ、うちに来いよ。 そしたら手間省ける」 「え?」 戸惑うレッドにおれはそう言うと、レッドの手を掴んだまま帰路につく。 「で、でも…、っ、くしゅん!」 「ばーか、レッドに風邪なんか引かれたらおれが気味悪いだけだろ?」 「……うん?」 遠慮気味なレッドに、正論とばかりにそう言ってやるとレッドは首を捻って眉間にシワを寄せている。 そんなレッドの冷たい手をぎゅっと強く握ると、おれは協会に欠席の理由を何て言おうかとあらゆる言い訳を頭に浮かべていた。 幼なじみとおれ ちなみにレッドは案の定熱を出してしまい、珍しく弱っておれのベッドを占領した。 「…グリーン、お母さんみたい…」 「誰がお母さんだ!」 |