「…よぅ」

その日、シロガネ山にやってきたグリーンは見るからに様子が変で。
どんよりとした空気だし元気なさそうだし顔色も悪いし。
たいていのことは気にしないでスルーしちゃうけど、幼なじみのこんな姿見たらさすがに僕でも心配になる。

「…グリーン、忙しいの?」

見るからに疲れていそうな顔で、持ってきたバックから取り出した水筒から温かいお茶をコップに注いでいるグリーンにそう聞いてみた。
ジムが忙しいときは、僕が下りて行ってもグリーンが家にいる時間が短い。
だからジムが忙しそうなときは暇でも下りて行かないようにしている。それかトキワに行かないでジョウトに行くことが多い。

「…別にそこまで忙しくはねーけど」

僕の質問を聞いたグリーンは、僕に温かいお茶の入ったコップを渡してくるとそう答えを返してきた。
だけど見るからに疲れてそうだし元気なさそうだし、何より口数が少ない。
いつもは、僕があまり喋らないからその分グリーンが喋る、という勢いなのに。

「…挑戦者に負けたとか?」
「レッドには申し訳ないけど連勝中」
「……だよね」

忙しいわけじゃないなら、と思って聞いてみたけど最近シロガネ山に挑戦者が少ないから負けてないよね。
そしたら何が原因でこんななんだろう。
いつも働いてない頭を働かせながら、グリーンから貰った温かいお茶をひとくち飲んで、僕はごほごほと噎せた。

「レッド?」
「…っ、グリーン、これ、コーヒー…っ」
「へ?あ、まじだ」

色が黒いなぁとは思っていたけど、お茶と思って飲んでいたから余計にダメージが大きい。
別にコーヒー飲めないわけじゃないけど、飲むならお茶でいい。
ごほごほと噎せる僕を見て、グリーンは自分のコップのをひとくち飲んで納得したように呟く。
やっぱりおかしい。僕があまりコーヒー好きじゃないから、持ってきてくれるのはいつもお茶だし、それを間違えたことなんて一度もない。
だからこれは絶対おかしい。

「わ、悪い、レッド。
大丈夫か?」
「…っ…グリーン、なんかあったんでしょ?
なんか、おかしい」
「…」

たかがお茶とコーヒーを間違えただけで、と思われそうだけど、おかしいものはおかしい。
だから噎せて涙目になりつつ、グリーンにそう聞いてみた。
するとグリーンは僕から顔を逸らすと、苦しそうに顔を歪めた。

「…」

どうしよう。
なにか深刻なことでもあったんだろうか。悩みとか?
グリーンの痛々しそうな顔を見てそう思っていると、グリーンがぽつりと喋り始めた。

「………もしかしたらおれ、病気かもしれない」
「え…っ」

グリーンから告げられた内容に驚くしかない。
病気でこんなに元気なさそうというか暗くなるなんて、深刻な悩みはまさか末期な何かとか…。
いつになく頭の回転が早く、わけのわからない結論に行きかける。
するとグリーンが僕をじっと見てきた。

「…」
「…な、なに?」

真剣な目で見つめられ、それにどきっとする。
どうしよう。あと1ヶ月の命、みたいなことになったら。

「…だめだ!やっぱり可愛い…!」
「え?」

するとグリーンが僕から顔を逸らして俯いてしまう。
髪から覗く耳は赤いけど、いま何て…?1ヶ月どうこうな台詞じゃなかったような。

「…実はさ、ここ最近レッドのことが可愛く見えて仕方ないんだよ」

そしてグリーンが顔をあげるけど、その顔は気まずそうに赤く染められていて、さっき頑張って早く回転した僕の思考回路が一時停止した。

「同じ男だってわかってるし幼なじみだしライバルだし、可愛いとか女の子に当てはまる形容詞だけどなぜかレッドに当てはまって…」
「…わかった、グリーン。
目と頭がおかしいんだ」
「…お前な…。
いや、わかってんだっておかしいことぐらい。おれだって病気なんじゃねーのかとすげー悩んだし…」

つらつらとグリーンから語られる台詞をあまり理解したくなくて皮肉めいた相槌を打ってみるけど、グリーンからは寛容に受け入れられたうえにそう訴えられる。
いや、絶対におかしいって。おかしくなかったら僕を見て可愛いなんて思ったりしないはずだ。
というか、どんよりとした空気に元気なさそうで顔色悪いのはそんなことが原因だったの…?

「…グリーン、今からでも遅くないから病院行っておいでよ」
「…っ…いや、病気だったら大変だっていま気付いたからいい…」

心底心配してそう言ってみたら、グリーンは顔を両手で覆ってまた俯いてしまう。

「病気なら病院行かないとだめでしょ」

僕が言うのもなんだけど。
でもやっぱり絶対、目か頭かどっちもかがおかしいだろうから病院には行ったほうがいいと思う。
というか、病気だったら大変って当たり前な気がするんだけど…。

「…いや、無理」
「なんで?」

だけどグリーンも変な病気にかかるよなぁ。
僕が可愛く見えるって、仮に僕がすごい可愛い女の子だったら言われて嬉しいかもしれないけど、あいにく僕は男で。
そんなの言われて嬉しいわけないし、可愛いなんて要素ひとつも持ち合わせてなんかいないのに。

「……やばい、ごめん、レッド。
気付かなきゃよかった」
「…何の話?」

するとグリーンがはあと大きなため息をつく。
だけど意味がわからない僕は首を傾げるだけだ。
気付かなきゃよかった?何に?僕が可愛く見えることに?
それは気付かなきゃよかったというか、可愛い要素ひとつも持ち合わせてなんかいないのにどうやって気付けた?と逆に問いただしたい。
するとグリーンが顔をあげて、頬を赤くしたまま僕を気まずそうに見てきて。
それになんとなく胸が騒ぐ。

「これ、恋患いだ」

ほら、やっぱり。
絶対グリーンおかし、い?

「…え?」












それは突然、嵐のように



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