「…グリーン、眼鏡…」 「は?」 パソコン作業が一段落ついて、コーヒーでも飲もうかとリビングに行ってみれば、ソファーに座ってテレビを見ているレッドにそう呟かれた。 「ああ、さっきまでパソコン作業してたからな」 していた眼鏡を外してテーブルのうえに置くと、きゅっと目頭を押さえてから、キッチンに向かう。 「つーか、おれの眼鏡姿見たの初めてじゃないだろ?」 「…じゃないけど珍しい」 「そうか?」 レッドの分も、と思ってカップをふたつ出し、インスタントコーヒーのふたを開けた。 まあ自分じゃ眼鏡かけてる頻度とかわかんないしな。 そしてカップにお湯を注ぎ、スプーンでかき混ぜる。 レッドは砂糖とミルクがないと飲めないよな…というか淹れた後でなんだけど、レッドあんまりコーヒー好きじゃないよな…。 「…ん?」 どうしよう、と思っているとおれの横にレッドがやって来た。 手にはさっきテーブルに置いた、おれの眼鏡を持っている。 「かけてみて」 「は?いや、パソコン作業のときだけで後は大丈夫だぞ?」 「いいから」 そしておれに眼鏡を渡してくる。 どうやらかけないと見えない、とは思っていないようだが一応それとなく告げてみる。でもレッドはおれに眼鏡をかけさせたいらしい。 意図はわからないが、言い出したらけっこう頑固だし眼鏡かけるぐらいなら、と思って眼鏡をかけてみた。 そしてレッドのほうを見る。 「これでいいのかよ?」 「……グリーン、眼鏡ってすごいね」 「は?なんだよ、かっこよすぎるってか?」 「頭良さそうに見える」 「…」 眼鏡をかけたおれを見て感心めいた声をレッドがあげたもんだから、どや顔でそう言ってやればレッドからは真顔でそんな台詞が返ってきた。 待て。それ言うならせめて表情変えろ。真顔でその台詞は痛いわ。 「…っ、つーか、外すぞ」 だからどう返しても切ないので、レッド曰く頭が良さそうに見える眼鏡を外してシンクの端に置いた。 おかしいな。頭は良いほうなんだが。 そして砂糖とミルクを大量にレッドのコーヒーに入れる。 「グリーン」 レッドはまだおれの横にいて、名前を呼ばれたからレッドのほうを見てみれば今度はレッドが眼鏡をかけていた。 あ、まじだ。頭良さそうに見えるわ。 「……グリーンがふたり見える…」 「は?あ、ちゃんと度は入ってんだからな」 すると眉間にシワを寄せてレッドがそう言ってきて、目がいいレッドには度が強すぎるんだろう。 「あ」 案の定、レッドが前に一歩踏み出したそれは不安定で(たぶん床と足との距離感がわからないんだろう)、つまずくようにしておれのほうに倒れてきた。 「っ!」 「っと、レッド、大丈夫か?」 すぐ横にいたから受け止められたけど、一歩でこんなだと眼鏡かけて歩くの無理だろうな。 いや、する必要ないからしなくていいけど。 「…うん」 そしてレッドの体を抱き止めるようにした体勢のまま、顔をあげたレッドから眼鏡をひょいっと取り上げた。 「レッドは目いいんだからしなくていいんだよ」 「…うん」 おれを見上げてくるレッドにそう言うと、いまの体勢がエライことになっているのに気づく。 レッドがおれのほうに倒れこんできたのを受け止めたから仕方ないけど、いまレッドはおれの胸にもたれかかるようにしていて、おれはレッドの腰に手を回している。 付き合ってるんだから、別にこれぐらいどうってことないけど今はまずい。 いろいろ久しぶりすぎて暴走しそうだ。だから自分でブレーキをかける。 「…っと、あ、コーヒー淹れ、」 落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながらレッドの腰からぱっと手を離して、レッドの体も引き離そうとすると。 「…グリーン」 「、!!」 レッドは逆におれの背中に手を回してきて、それに落ち着きかけていた心がぐっと鷲掴みされた気分になる。 「レ、レッド? ほら、コーヒー冷めるだろ…っ」 「…僕、猫舌だからいい」 「というか、えーと…」 レッドの肩をとんとんと叩いて促してみても、レッドはおれに抱きついたまま離れない。 なんでこいつはおれの苦労を毎回無にするんだか。 「…」 「…」 すると沈黙の時間がやってきて、レッドが見ていたテレビの音だけが部屋に響く。 えっと、この状況はまじでどうしよう。 いや、レッドから抱きついてくるとか滅多にないからすげー嬉しいけど(きっかけはつまずいただけだけど)、まじでいま構ってやると手加減出来ない自信がある。会うのは久しぶりだし、昨日はおあずけだったし。 大事にしたいから、それは避けたいわけなんだけど。 「…」 「…」 「…グリーン」 「は、はいっ?」 とか思っていると、レッドがおれを呼ぶ。 「…」 「…」 すると、きゅ、と背中に回されている腕に力が込められたのがわかっておれはちいさくため息をついた。 無理。これはもう無理だ。 「…いいのかよ?」 レッドの腰に手を回してそう聞く。 それは勿論いまからすることへの同意を求める台詞で。 ひとがせっかく耐えてたってのに、まじで手加減できなくても知らないからな。 「レッド?」 するとレッドは顔をあげておれを見てくると、真っ赤な顔で、視線を逸らしながらちいさく口を開く。 「………察しろ、ばか」 さあ、その銃爪を引け |