「そう言えば、レッドさんってグリーンさんのどこが好きなんですかね?」

シロガネ山に登っている途中でコトネと会ったから一緒にレッドのところへと向かっていると、コトネがふとそんなことを聞いてきた。

「なんだよ、いきなり」
「だって気になるじゃないですか」
「ならねーよ、別に」

目をきらきらとさせながらおれに食いつくようにして言ってくるコトネを、手でしっしっと追い払うようにしてため息をついた。
するとコトネはそれが不服だったのか、頬をぷくっと膨らませるとおれを見てくる。

「じゃあ逆に聞きますけど、どこが好かれてると思います?」
「お前な…そりゃあ、付き合ってるんだし語りつくせねーほどあるって」
「例えば?」
「例えば…」

なんで女子ってこういう話が好きなんだろうか。別にどこが好きとか、そいつ自身を好きならどこでもいい気がするけど。
そして具体例を聞いてきたコトネにため息まじりに答えようとしたところで、ふとおれも思った。

(確かに、レッドっておれのどこが好きなんだろう)

おれがレッドの好きなところなら到底24時間じゃ語りつくせないほどあるけども。
すると具体例を即答できないおれに、コトネがここぞとばかりに攻めてきた。

「例えばなんですか?」
「そうだなー」
「付き合ってるんですよね」
「ああ」
「じゃあ、どこが好かれてるのかすぐわかりますよね?」
「…お前、なんか怖いぞ…」

間髪入れずに質問をしてくるコトネに後退りしながらそう言うと、眉間にシワを寄せたコトネがふふんと鼻を鳴らした。

「ほら、答えられないじゃないですか」
「お前…おれになんか恨みでもあるのか?」

おれが即答できないことを勝ち誇ったかのように言うコトネに、おれはジムリーダーとしても先輩としても見られてないのかと少なからずショックなんか受けてみる。最近の子って怖い…。

「ていうか、レッドさんに好きって言われたことあるんですか?」
「お前、それぐらい…」
「…」
「…」
「ないんですね」

走馬灯のようにして過去の記憶を追っていったものの、付き合おうと言ったときもレッドはおれに好きだと言うことはなかったし、それからも言われたことはなく、残念ながらレッドから好きだと言われたシーンがひとつもなく、おれは固まったまま動けなくなってしまった。そしてそんなおれを見て事の次第を把握したコトネがひとことそう呟いた。

「じゃあ、そもそも好きかどうかもわからないってことですね」
「…」

さらにはそんなことを言われ、固まったおれにピキっとヒビが入っていく。なんかもうそのままヒビが入って粉々に砕けていきそうな気分なんですが。
が、そこで付き合っているということを思い出し、少なからずとも嫌いじゃないだろう、という結論を導き出し、粉々になるのはどうにか踏みとどまった。
だって好きでもない相手と付き合ったりしないだろ。するのか?

「それはないだろ、仮にも付き合ってんだから。それとコトネ、おれとレッドが何年一緒にいると思ってんだ?」
「少なくとも3年は離れてましたよね」
「…」

こいつは先輩に対する労わりの心とかないのか。確かに3年離れて再会してから付き合い始めましたけども。
しれっとそう言ってくるコトネにイライラするものの、先輩なので怒鳴ることはせず大人として対処することにしてみた。

「たかが3年離れたぐらいでおれたちの絆は消えないんだよ」
「居場所教えてもらえなかったのに?」
「……コトネー!!そんなにおれとレッドを引き裂きたいのか?!」
「引き裂きたいも何もそもそもくっついてないじゃないですか。付き合ってるって思ってるのグリーンさんだけじゃないんですか?」
「おま…っ、今日発覚した致命傷をそんなに抉るか?!付き合ってる雰囲気がないのは薄々感じてはいたけど!」
「じゃあだめじゃないですか。というか落ち着いてください、グリーンさん」
「これが落ち着いていられるか!」

最終的には大人な対処は出来なくて。というか、これは完全におれをからかうというかバカにしてるだけだろ。
そして失笑しながらおれを宥めようとしてくるコトネに食ってかかろうとすると、おれの頭に何かがとんで来た。

「痛っ!」

なんだろう、と思って見てみれば、おれの頭にとんできてヒットしたのは雪玉で、そしてそれがとんできたほうを見てみると、そこにはおれたちの話の中心にいるレッドが立っていた。

「レッド、てめー何すんだよ!」
「女の子いじめたらダメだよ」
「いじめてねーよ!そもそもコトネがだなぁ…」

なんでおれがコトネをいじめてるとか思われなきゃいけねーんだ。どっちかというと、おれのが今いじめられてたっつーの。
そう思いながらレッドに否定の言葉を言おうとすると、横にいたコトネがおれの肩をぽんと叩いてきた。

「あ?」
「レッドさんにちゃんとどこが好きなのか聞いといてくださいね。
私、帰ります」
「は?お前何しに登ってきて…」
「急用思い出したので帰ります。
レッドさん、また来ますねー!」

すらすらとおれにそう言うと、コトネはレッドに手を振ると「そらをとぶ」で本当にあっさりと帰って行ってしまった。
つーか、マジで何しに来たんだ?というか、あのコトネがレッドを前にして急用ごときで帰るとか何なんだ?レッドだいすきでいつも用もないのに会いに行くくせに。
すでに空にちいさくなっているコトネたちを見送ると、首を傾げてからレッドのほうへと視線を戻した。

「グリーンは急用はないの?」
「なんだよ、せっかく食糧持ってきてやったのに帰れってか?」

しれっとした顔でそう言ってくるレッドにイラッとしつつも、食糧の入ったバッグを背負ったままレッドへと近づいていく。
そしてレッドの目の前でそのバッグをどさっと下ろしてやった。

「…あと、コトネになに言われてたの?」
「は?」
「さっき。僕がどうとか言ってなかった?」
「…あ〜〜…」

バッグのなかからコートを取り出すと、クソ寒いシロガネ山で半袖なレッドにそれを羽織らせ、さっきコトネが言っていたことを思い出しておれはバツが悪そうに言葉を濁らせた。
だって今日発覚したばかりの致命傷なるものを、本人を目の前にして自分で抉れと?
どんだけ自虐心あるんだよ。ねーよ、おれには。

「なに?」

おれからコートを羽織らせてもらうのを素直にさせると、レッドがおれを見て首を傾げてくる。
その姿はおれにとって世界一かわいい。レッドのどこが好きかと聞かれたら、これを一番に挙げよう。でもってあとは24時間じゃ語りつくせねーけど。
だけどこういうことを普通にさせてるあたりで付き合ってるっていう自覚あってもいいと思うんだけどなぁ。そもそも付き合うの意味がおれと違うんだろうか(どこか行くのに付き合って的な解釈かもしれない)
そこで仕方ない、と腹をくくるとおれはレッドに聞いてみることにした。
おれのどこが好きなのか。そしておれたち、付き合ってるんだよな?

(幼なじみってこういうの難しいよな。
長く一緒にいた分、あんまり深く考えてもらえねーと言うか、一緒にいるのが当たり前って感覚だし付き合うもなにも…)

はぁ、とため息をつくと、おれは目の前のきょとんとしたレッドに質問をぶつけてみる。

「レッド、おれのどこが好きだ?」

するとレッドは驚いたように目を見開いておれを見つめてくると何回か瞬きをして、なにそれという表情をしてみせた。
ああ、やっぱりそんなの「ない」っていう答えなんだろう。
そしてレッドが唇を動かした。

「どこが、じゃなくて、グリーンだから好き」
「…え、」
「グリーンじゃないと好きにはならないよ?」
「…」
「…それがどうかしたの?」

なんなの?と言いたそうな顔のレッドがまた首を傾げる。
そしてその答えになっていない答えに、今度はおれが驚いたように目を見開いて数回瞬きをした。まさかそんなことレッドから聞けるとは思っていなかったから。

(だけどやっぱりそうだろ。そいつ自身を好きならどこが好きかなんて関係ないんだよ)

「…おれたち、付き合ってるんだよ、な?」

そしてグレーゾーンにいるであろう項目を再確認するかのようにレッドに聞いてみる。好かれていてもこれがノーだとおれは振り出しに戻るはめになる。
だけどレッドはおれの質問に再び首を傾げると、

「付き合ってるよ?」

なんでそんなこと聞いてくるの?と怪訝そうな顔をした。

「だよな!あーもうっ、コトネのやつ余計な心配かけさせやがって!」
「?」

嬉しくなってレッドをぎゅっと抱きしめると、レッドはなんのことだろうというかんじで不思議そうにしている。
そして今日発覚した致命傷は、今日発覚した特効薬ですぐ治ってしまった。









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(なーんだ、レッドさんはグリーンさんのことちゃんと好きなんだ。つまんない)
(だけどグリーンさんと話してる私にやきもち焼くとか…かわいいなぁ)



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