トキワジムに寄ってみようと、そっち方面に歩いていたら突然。

「?!」

小路から誰か出てきたかと思うと、羽交い締めのように拘束され、さらには口を塞がれて、小路に引き込まれた。

「…」

だけど、あまりの出来事に恐怖とか驚きとか通り越して平然としてしまう。
なにこれ。誘拐?僕を?それはないと思う。
というかどうしよう。さっきポケセンにみんな預けてきちゃったし。
そう言えばグリーンが、街歩くときでも1匹は持っとけって言ってたっけ。
そんなことを状況が状況なのにのんきに思っていると、

「…チッ、あいつら、しつこいなー」
「!!」

とりあえず体勢を立て直そうとしていた僕に犯人の肉声が届いてきた。
そして犯人がぼそりと喋ったそれに、こんなことする犯人が誰だかわかった。
それからいろいろ考えてたのがばからしくなってきたけど、犯人がわかったことでちょっとイライラもしてきた。

「…ふぁひひへんひょ」

そういうわけで、犯人にそう言ってやるけど、口を固く塞がれているから正しい発音というかちゃんと話せるわけもなく。
ちなみに、なにしてるの、って言ってみたんだけど。
すると犯人は僕を羽交い締めから後ろ抱きへと変えた。
だけど、口を塞ぐ手は外さない。

「悪いな、レッド。
ちょっとでいいから静かにしててくれよ」
「…」

犯人、グリーンは申し訳なさそうにそう言うと大通りの様子を小路から伺っている。
このパターンは、ジムから逃げ出したパターンだろうか。
というか、なんで僕が巻き込まれないといけないわけ…?

「…ふぇはふひへ」

手を外してと言ってみても言葉にならない。
グリーンは静かに、とかしか言わないし。
いきなりこんなことしてきて理由のひとつも言わないってどうなの。
それとも相手が僕だからちょっと手荒にこういうことしても平気だと思ってるんだろうか。
……うん、むかつく。
ぐるぐる考えるとこうなったら実力行使だと、僕の口を塞いでいるグリーンの手を引き剥がそうとした。けど。

「っ、危ねっ!」
「?!」

ぐいっと体をさらに引き寄せられると、後ろ抱きされたまま、さらに小路へと引き込まれた。
おかげで作戦失敗だ。

「…」

あまりに理不尽な待遇にイライラが募る。けど、後ろ抱きで口を塞がれていてはグリーンには力で敵わないからどうすることも出来ない。
それに後ろ抱きされてるからグリーンの表情が見えない。だから目で訴えることも出来ない。
つまりはやっぱり実力行使じゃないと改善の余地がなさそうだ。
……これからは誰か連れて歩こう。
ポケセンでいま寛いでいるであろう彼らのことを思う。

「…いま帰ったらアウトだよな」
「…」

そして僕のことはお構いなしでそんなことを呟くグリーンにますますイラッとする。
やっぱりジムからの脱走っぽい。というか、最近はちゃんとジムリーダーしてるってコトネたちから聞いてたのに。
というか、どうしたらグリーンが手を外してくれるだろうか。
喋ることは出来るけど通じないし、足を踏みつけるとか。
それか。

「しばらく隠れていればいいか…、っ?!」

とりあえず手っとり早くグリーンの手のひらをぺろりと舐めてみた。
前にグリーンにされてすごいくすぐったかったから。
するとグリーンは体をびくっと震わせて驚いていたけど、手を外してくれる風ではない。

「なっ、何してんだ、レッドっ」
「…」

あくまで小声で、グリーンが非難めいた声色をあげる。まあ非難というより困惑してそうだけど。
それでも手が外されることがないから、もう一回グリーンの手のひらを舐めてみる。

「〜〜っ、
止めろよ、くすぐったいっ」
「…」

それなら手を外せ、と思う。
でもグリーンはそうしない。というか、こんなことしなくても僕は大声出さないし、おしゃべりじゃないし、問題ないと思うのに。
まぁそりゃジムから脱走したジムリーダーを探しているジムトレーナーたちを思えば、ここですよと教えてあげたいけど。

「…」
「っ、
〜〜ッ?!」

そして、トドメとばかりに手のひらに吸い付くようなキスをしてみた。
おかしいなぁ。
前に僕がグリーンにされたとき、すぐ降参したのに。確か。
あれ?違ったかな?他になにかあったような…。

「おま…っ、」
「…手、外して」

グリーンがびっくりしすぎて手が緩んでいたから、今度はちゃんと喋ることが出来た。
するとグリーンは僕の要望どおりに僕の口を塞いでいた手を外してくれると、その手で顔を押さえている。
ちょっと振り向いたからそれは見えた。
だけどグリーンの耳まで赤かったのは、薄暗かったこともあるし気がつかなかった。

「…早くジムに戻ったほうがいいよ」

手は外してくれたけど、後ろ抱きはされたままだ、と思ってそう言ってみる、

「…お前な、手のひらも性感帯って知っててやってんの?」
「は?」

はぁと大きなため息まじりにいきなりそんなことを言われたかと思うと、

「?!」

さっきまで僕の口を塞いでいたグリーンの手がまた伸びてきて、今度は僕の口を塞ぐわけではなく、僕の口の中にその指が侵入してきた。
ぽかん、と口が半開きだったから易々と侵入を許してしまったけど、なんなの、これ。

「グリー…っ、ひゃひひゅ…ッ」

文句を言ってやりたいけど、もちろん言葉が綺麗に出るわけもなく。
グリーンの指は遠慮することなく僕の舌を優しく撫でてきたり、歯列をなぞってきて、それに体がぞわぞわと震える。

「は、っ…ふぁあ…っ」
「仕返し。
つーか、あとちょっとだから我慢、な?」

グリーンが同意を求めてくるけどそもそも僕は関係ないんだし、我慢もなにもないのに。

「ふぁ…あ、っ…」

口のなかを蹂躙されて体がびくびくっと震える。
そうだ、前にグリーンに手のひらを舐められたときも確かこういうかんじになった。
体がぞわぞわして電流が走ったみたくなって、そして。
そして。

「…もう大丈夫か…。
レッド、悪いな、巻き込ん…えっ?」
「…っ」

小路の奥から大通りを伺ってグリーンが警戒を解く。
そして後ろ抱きで拘束していた僕の体を離すと同時に口から指を引き抜いたけど、その場にぺたんと座り込んでしまった僕を見て焦った声色を出す。

「ど、どうした?」
「…っ…、グリーンの、ばか…ッ」
「へ?」

グリーンもきっと薄暗いから僕が耳まで真っ赤だっていうことに気がついてないんだろう。
これが明るいところだったら、グリーンは僕のいまの顔を見ればすぐ気付くだろうし。
…むかつく。グリーンにも腹立つし、自分にも腹が立つ。だって、墓穴掘った。

「あっ、いや、巻き込んだのは悪かった、ごめん!
実は取材依頼が来てて何度も断ったら今度は押しかけてきて……って、レッド?」
「〜〜〜ッ」

最初に聞きたかったであろう理由を焦ったように話し始めたグリーンをキッと睨みつける。
違う。
僕がいま聞きたいのはそういうことじゃない。

「レ、レッド?」

だから僕はじわりと涙の浮かぶ目にグリーンを映すと、グリーンの胸倉を掴んで引き寄せると、グリーンがいつもするみたく、噛みつくみたいにキスしてやった。












今すぐ抱きしめて、キスして、さらっていって


(…責任とって!)



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