レッドって、変だと思う。 そんなこと昔からわかってたっていうか、知ってたはずなのに、空白の時間のおかげでさらに磨きがかかったように思う。 幼なじみだから他のやつよりも多少レッドのことが理解できるとはいえ、これは。 「……まだ入れんの…?」 初めておれの家に泊まりにきたレッドにコーヒーを出してみれば、砂糖、と言われて、普段なにも入れないからなにもなくて、普通の砂糖しかないって言ったらそれでいいって言われて。 それで料理用の砂糖を出してみれば、いま一体何杯いれただろうか。 「…あと1杯」 「…」 軽く5杯はいれていた気がする。スプーンちいさいけどそういう問題じゃない。 大丈夫かよ、砂糖溶けてないんじゃないか? 飽和してそうなコーヒーを眺め、コーヒー飲めないなら言えばいいのに、と思う。 え?こんなに砂糖いれて飲む?コーヒーの香りや味が台無しだろ、これ。むしろ飲むな。 そして最後の1杯をいれ終えたレッドがようやくカップに口をつける。 しかし。 「…」 「…えっ?!」 ひとくち飲んで顔をしかめると、砂糖をさらにいれている。 まだだめだったのか?!つーか、まじで大丈夫か、それ。 「ま、待った、レッド! そんなに入れたらあまいだけだろ!」 あまいっつーか、あまったるいっつーか、もはやコーヒーじゃないだろう。 砂糖をいれる手を休めないレッドを慌てて止めさせると、レッドはむっとしたように眉をひそめた。 「…あまくなかったからいれてるんだけど」 「はあっ?!いやいやいや、そんなんじゃ病気になるって!」 そんなにいれるなら、むしろ砂糖を食べたほうが早い気がする。 そしてあまくない宣言をしてきたレッドに呆れると、レッドのカップを手にとり、ひとくち飲んでみた。 「あっ」 レッドがそれに非難的な声を出したと同時ぐらいにおれは噎せた。この世のものとは思えないコーヒーを飲んで。 「っ、あっっっま!! なにこれなにこれ?!コーヒーじゃねーよ、砂糖だよ!!」 あまりのあまさというか、得体の知れない液体になったコーヒーに悶絶する。 これであまさが足りないとか、味覚は大丈夫か、レッド。 「だめだ!こんなん飲ませられるか!」 「あっ」 そして呆れを通り越して怒りが沸いてくると、レッドのカップをシンクに運んだ。 それからコーヒーをシンクに流してみれば、溶けてない砂糖がまるで砂時計のようにカップから落ちていく。いや、砂時計のほうがサラサラ落ちていくか。これはなんかもうどろどろだ。 「ったく、コーヒー飲めないから飲めないって言えよ」 「…飲めるよ」 「砂糖水にしたら、か? ほら、お茶」 コップに麦茶を注いでやるとそれをレッドに差し出す。 でもレッドは膨れてしまって受け取らない。仕方ないからテーブルに置くと、レッドの隣に座った。 「…ココアは飲めるよな?」 「…ココア?飲めるけど…」 「じゃあ今度からそれな。 紅茶はコーヒーの二の舞になりそうだし」 確認するように聞いてみれば、レッドは意外とすんなりと頷いた。 コーヒー、紅茶がだめなら、と消去法で選択肢を消していってたどりついたココアだが、それに砂糖入れられたらどうしよう。そのときはそのときにまた対策を考えよう。つーか、お茶か水でもいい気はするけど。 「……別に飲めるのに」 そしてレッドはコーヒーと紅茶が選択肢から消されたことにまた口を尖らせる。 だから飲めるのは飽和状態な砂糖水と化したコーヒーか紅茶だろ。 そんなレッドにはあとため息をつくと、自分のコーヒーを飲む。 さっき、くそ甘いコーヒーを飲んだせいか(ひとくちだけだけど)ものすごく苦く感じる。 「…あまいもの好きなんだな」 「え?」 「いや、苦いのがだめなのか?」 逆に考えればそうだけど、レッドは苦いからとかよりもただあまいものが好きなだけの気がする。 昔もそうだったっけ? 「…好きだよ」 するとレッドが仕方なさそうに麦茶の入ったコップを手にした。 「は?」 「…だから、あまいもの。好き」 そう言ってレッドは麦茶をひとくち飲む。 麦茶は苦いわけでもあまいわけでもない。だから特にリアクションなんざないけど。 「…聞いといてなんだけど、あまいものはうちにはない」 「…別にいらないよ?」 せめてチョコレートとかでもあればいいけど、お菓子なんてそんな食べないし買い置きなんてない。 レッドは申し訳なさそうなおれの台詞を、なに言ってるの、と言いたそうに返してくる。まあそうなんだけど。 でもさっきレッドから糖分を奪ったわけだし。 「…」 「…」 だからってわけじゃないけど。 「…レッド」 いま思い返してもなんでこんなことしたんだろうって思うけど、きっとこのときおれは自分で気付かないだけでレッドのことを。 「…え?」 そして名前を呼んだおれのほうを見てきたレッドに、あまくキスなんかしてみた。 スプーンから零れ落ちたのは甘い魔法 |