「…っ」

なんだ。一体何なんだ、この状況は。
ただいま、レッドにリビングの床に押し倒されています。

「…レ、レッドさん?」

いきなり抱きつかれたかと思えば、ふたりで床になだれ込んでいまに至る。
おれの顔を挟むようにしてレッドの手が床につかれていて、見下ろしてくるその赤い目は逆光だというのにキラキラと紅玉みたく光っている。

「…グリーン」
「はっ、はいっ?!」

するとレッドから名前を呼ばれ、いつにない雰囲気にのまれてしまったのかおれは間抜けな声を上げた。
そして緊張の面持ちでレッドを見上げる。

「…いままで秘密にしてたんだけど」
「…ひ、秘密?な、なんだよ?」

レッドがゆっくりと口を開いてきて、それに動じないようにと虚勢を張りながら答える。
が、内心はわけのわからない冷や汗が流れっぱなしだ。
だって秘密って…!レッドが秘密とか、すげー重大発表っていうか、おれがそれを聞いてもいいのか?!この星に関わる秘密とかじゃねーだろうな?!つーか、この体勢でおれはそんな秘密事項聞かされないといけないのかよ?!
0.5秒ほどでぐるぐるとそんなことを思うと、レッドがまた口を開いた。

「…実は僕、アンドロイドなんだ」
「…っ」

レッドの台詞に衝撃を受けて目を見開く。
そんな秘密おれになんかしゃべらなくても…………って、え?

「え?アン…?」

一回頭のなかでレッドの台詞を反芻すると、なにやらおかしな単語しか聞こえていなかったことに気付き、眉間にシワを寄せてレッドを見上げる。

「…アンドロイド。僕、人間じゃないんだ」
「…」

そしてもう一回頭に届いた単語をよく飲み込むと、いつもの無表情なレッドにため息をつく。

「…なにを言い出すかと思えば…エイプリルフールは今日じゃねーぞ…?」

いきなりひとのこと押し倒してきて言う台詞がそれか。
仮に今日がエイプリルフールだとしたら、レッドとしては頑張ったほうだと思う。
だってアンドロイドってお前な…。
そして呆れていると、レッドは無表情を変えることなく、

「…嘘だと思ったの?
僕、グリーンのおじいさんに作られたんだよ?」
「は?」
「グリーンの友だちに、って」
「え、いやいや、なに言って…」

そんなことを言ってきて、そこまで考えてきたのかと変な感心をしつつ、そんなレッドにないないと首を横に振る。

「だから、エイプリルフールは今日じゃないって言ってんだろ」
「…どうしても信じない?」
「お前な…信じるわけないだろ。
しかもじいちゃんが作ったって……なんかありそうだけど。
つーか、誰からの入れ知恵だよ?コトネか?」

ちゃんとした設定みたいなの、レッドだけじゃ考えつかなさそうだしな。
というか、おれはまだ押し倒されたままなのか…?

「レッド、とりあえず退い、」
「…嘘じゃないし、コトネの入れ知恵でもないよ」
「…は?」

起き上がるからうえから退け、と言おうとしてレッドの台詞に阻まれた。
そしてレッドがそんなことを言ってきて、レッドを見上げてみればレッドはやっぱり無表情なままで。
だけど、どこか寂しそうな顔をしている。

「……レッド?」
「…最近、オーバーヒートすることが多くて、そのせいで回路がショートしたりメモリに異常を来したりしてて、このままだと壊れるって…」
「え…?」

するとレッドからつらつらとそんなことを言われ、一瞬なんのことかわからなくなる。
だってあるわけないのに、それじゃあまるでレッドがアンドロイドみたいじゃないか。

「!」

おれが困惑していると、何かがぽたりとおれの頬に落ちてきて、なんだろうと思っていると、見上げた先のレッドの赤い目から涙が零れていた。

「レ、レッド?!」

それに慌てておろおろすると、とりあえず、と手を伸ばしてレッドの涙を拭う。

「な、泣くなよ、わかったから」

そういえば今までレッドの泣き顔なんて滅多に見たことなかった気がする。
一回見たことがある記憶があるけど、それはおれと道が別れたあのバトルのときだ。
それ以来、再会してからもレッドが泣くのなんて見たことなかった。

「…っ…泣いたらだめなのに」
「え?」
「…泣くのにエネルギーたくさん使うから、オーバーヒートしてしまう…だから泣いたらだめ…っ」

レッドはそう言うけど、レッドからはポロポロと宝石みたいな涙が降ってくる。
ああ、だからレッドはあまり泣かなかったんだ。悲しいときも嬉しいときも。
ただ一度だけ、あのときだけは。
でもそれはレッドがアンドロイドだったときの話で、そんなこと。

「……グリーン、すきだよ」

すると涙を浮かべてレッドがそう言った。わずかに微笑みながら。

「…え?」
「…ごめんね。
、ーーーっ」
「っ?!」

それに驚いたのもつかの間、レッドはぷつんと糸が切れたようにおれに倒れ込んできた。

「レッド、うわっ、熱…っ!」

その体は見た目でわからないほどに熱い。
おれはレッドを抱えてとりあえずソファーに寝かせると、氷枕やら扇ぐものを取りに向かった。

「…っ」

赤い目は閉じられ、体は火傷するほどに熱い。
だけどレッドは安静にただ寝ているようなそんな状態で。

「……何なんだよ…秘密すぎるだろ…!」

レッドから告げられた台詞はまだ審議中だ。
だってあり得ないだろ、そんなの。
レッドがアンドロイドだとか。
レッドがおれのこと好きだとか。

「………今日はエイプリルフールじゃねーってのに…」



















トロイメライが聞こえる



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