「データディスクを忘れるなんてなぁ…」

ため息まじりにぶつぶつと呟きながらマンションのエントランスを抜ける。
昨日寝る間を惜しんで打ち込んだっていうのに、ジムに持っていくのをすっかり忘れるなんて。
まぁ昨日から泊まりに来ていたレッドが今朝「いってらっしゃい」のキスなんかしてきたせいなんだけどな。

(でもあのときのレッド、すげーかわいかった…)

数時間前のことをほくほくした表情で思いだしつつ、玄関のドアに手をかけてみると、

「ん?」

その玄関は鍵がかかっていない。
レッドがいるから開いててもおかしくはないけど、いつもはちゃんと閉めてるのに。
つーか、不用心だな。

「レッドー」

リビングかおれの部屋にいるであろうレッドに声をかけつつ進んでいくと、レッドはリビングにいた。
が。

「?!」

リビングの床には乾いた洗濯物が散らばっていて、その横にレッドが倒れこんでいた。
なんていうか、サスペンスドラマとかでよく見る、事件があった現場そのものだ。そこまで惨劇じゃないけど。

(も、もしかして泥棒か?!)

気を失っているのか、倒れこんでいるレッドのところに急いで駆け寄ると、その体を抱き起こす。

(嘘だろ、こんなの…!
やっぱりコイルをセキュリティで置いておけばよかった…!)

「レッド、しっかりしろ!
レッド!」

見たところ怪我とかはなさそうだけど、頭殴られて気を失ったとかスタンガン食らわされたとかドラマじゃよくあるから状況が状況なだけにおれには不安しかない。
さらに揺すってみてもレッドは動かない。

(こいつそんなにっていうか、ケンカ強いわけじゃねーし、顔は女の子みたく綺麗だし可愛いし細いし……はっ、もしかして襲われたとか…?!)

妄想だけがどんどん膨らんでいって、おれは真っ青になる。
こんなに可愛いんだし、襲わない男がいるわけない。
すると、やっとレッドがもぞっと動いた。

「!
レッド!大丈夫か?!」
「…ん…、…グリーン…?
あれ…?もうそんな時間?」

視界に飛び込んできたおれを見て、レッドがきょとんと首を傾げる。
まだ明るいというか昼間におれがいるのが不思議らしい。って、いまはそんなことどうでもよくてだな。

「レッド、大丈夫か?!
何されたんだ?!相手の顔とか覚えてるか?!」
「…相手?」

心配しすぎて捲し立てて話すおれを、レッドは怪訝そうな顔で見てくる。
そして自分で体を起こすと、その場に座り込んでおおきな欠伸をひとつ。

「泥棒が入ってきたんだろ?!どんなやつだった?!てか、何もされてないか?!」
「…泥棒?」
「鍵開けっ放しだし、こんなに部屋散らかってるし、レッドは倒れてるし…!」

レッドの両肩を掴んでぐわんぐわんと揺らして聞いてみれば、レッドはますます眉をしかめる。
そんなレッドに部屋の有り様を見渡して言ってみると、

「…泥棒が入ってきたらコイルにほうでんされてると思うけど」
「へ?」

ひとりで慌てて焦っているおれに、レッドがいつものように無表情で冷静にそう言い放つ。

(いや、だってコイルはまだボックスのなかにいて、自宅警備の任にはつかせてな、)

「…あれ?」

するとおれの横に、どこにいたのかコイルがふよふよと浮いてくると、どうしました?とでも言いたそうにくるくるとそこで回る。
そんなコイルをおれはじーっと見つめるほかない。

(あれ?コイル…?)

「…グリーンが今朝置いていったんだよ?」

不思議そうにしているおれに、レッドのが不思議そうな顔で、忘れたの?と教えてくれた。

(今朝…そうだったっけ…?
つーか、今朝はもう「いってらっしゃい」のキスで全部記憶が吹き飛んでるから覚えてるわけなんかないしな…。
…やべぇ、なんつー単純っていうか、単細胞な脳みそ…)

今朝の記憶はまったく思い出せないものの、レッドがそう言うんだしコイルも目の前にいるからきっとそうなんだろう。
コイルの件はそう納得することにしても、現場が現場すぎるのは何なんだ。

「っ、だ、だけどこの有り様は…っ」
「…これ?
グリーンが乾燥機にいれてた洗濯物が乾いたから、暇だしたたもうと思ったら眠くなって…、寝た」
「…寝た?」
「うん」
「…」

するとレッドからなぜかドヤ顔でそう言われ、自分がただ早合点していただけだということが即座に理解できた。まあコイルがいる時点で薄々そんな気はしてたけど。
それにたとえ泥棒が来ていたとしてもレッド+コイルがいたら、泥棒の命のが危ない。

(…というか、そんなに易々とサスペンスドラマが現実に起こっても困るよな…)

「…眠くなって、寝た…?」
「…だって昨日寝るの遅かったから」

そう言いながらレッドが欠伸をする。
そういや昨日おれが寝る間を惜しんでデータ作業をしている間、レッドも起きてたっけ。
先に寝ていいって言ったのに、なぜか起きてて、無音でゲームしたり雑誌読んだりしてたよな。
まぁおかげで一緒に寝たけど。

「…泥棒が入って来て、僕が襲われたって思ったの?」
「!」

すると、なんとなくおれの一連の行動の理由を理解したらしいレッドがそう聞いてくる。
おれはそれにイエスと答えるかわりに、レッドをぎゅうと抱きしめた。
レッドが無事でよかったっていうことと(泥棒は入ってねーけど)、早合点して恥ずかしい顔を見られたくないってことで。

「…グリーン?」
「…言うな。今すげー恥ずかしいんだよ」

冷静に考えると、心配はともかく、どんだけネガティブな思考してんだか。
いや、でも鍵開いてたしコイルがいるとは知らなかったし、仕方ないと言えば仕方ないけど。
するとレッドがくすくす笑って。

「なんで?僕は嬉しいよ?」
「は?」

笑いを含んだ声がくすぐったい。

「…でも、そんなに心配ならずっとそばにいなよ。
一緒にいてあげるから」

そしてプロポーズともとれるような男前な台詞をレッドが言ってきて、おれはさらに強くレッドを抱きしめた。















不束者ですがよろしくお願いします



「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -