「…ん〜〜〜」

カーテンの隙間から差し込んでくる光りが眩しくて目を覚ますと、ベッドヘッドに置いてある時計を見た。
午前8時。ジムは9時までに行けばいいけど、そろそろ起きないとなぁと思って寝返りをうってみたところで、隣りに寝ているはずの人物がいないことに気がついた。

「え…」

それに驚いて飛び起き、ベッドをぐるっと見渡してみるものの誰もいない。
今までおれよりも早く起きていたことがないその人物がいないことに、多少なりとも不安というものを感じてしまう。
もしかしてもうシロガネ山に帰ったとか?
いつでも会えると言えば会えるものの、会えないと言えば会えない関係だからこそ、少しでも長く一緒にいたいとか思うおれは女々しいだけだろうか。

(…くそっ…抱きしめて寝ればよかった)

そう思うとおれはベッドに倒れるように仰向けに寝転がった。
すると部屋のドアのほうからゴトンという音がして、なんだろうとそっちのほうを見てみると、おれの一喜一憂な渦中にあるその人物がのんきに突っ立っていた。

「レッド!」
「…なに?」

そしてがばっと起き上がったおれを見て不思議そうな顔を浮かべているレッドが、おれのほうへと近づいてくる。

「お前どこに行って…」
「顔洗ってきた」

そう言うとレッドは自分の頬をつついてみせる。
それに安心と同時になんつーかわいい仕草してんだと朝からきゅんとくる。やっぱ女々しいのか、おれ。

「あー…なるほど」
「あと歯みがきも」
「…寝起きによく歯みがきできるな…」

ベッドの端に座ってきたレッドはそう言うと、歯をいーっと噛んで閉じて見せてくる。いや、見せてきても歯を磨いたかどうかとかわかんねーから。ほんと朝から何回可愛いことしてくれてんだ。
そして飯の後も歯みがきはするものの、レッドはなぜか寝起きにも歯みがきをする習慣がある。そういう習慣のないおれにとってはなんで寝起きに歯みがきまでするんだろうかと疑問でならない(レッドが言うにはそれで目が覚めるとかどうとか)まぁ医学的には朝いちの歯磨きはいいらしいけど。

「おれも顔洗いに行くかな」

とりあえずはレッドが何も言わずにシロガネ山に帰ったとかどこか行ったわけじゃなかったことに安堵しつつ、おれはもそもそとベッドから抜け出した。そしてベッドに腰掛けているレッドの隣りに腰掛けると背伸びをしてみた。

「…そう言えば、歯みがき粉もうなかった」
「え?買い置きなかった?」
「あったけど、普通のだった」
「は?……あー、コトネから貰ったやつがもうなくなってたってことか」

レッドの言葉をよくかみ砕いて理解してからそう聞いてみれば、レッドがちいさく頷いた。
なんか通販で買い物したら試供品みたいなかんじでなぜか歯みがき粉が入っていたらしく、それをコトネがくれたわけで。
くれた理由というのは歯みがき粉の匂いというか味というか。なぜか「バニラアイス」と「抹茶」というセレクトだったらしい。なので、使うのがなんとなく嫌だから、とものすごい笑顔で渡された気がする。

(絶対おれのことジムリーダーとか先輩とかそういう目で見てねーよな)

そしてそれを興味本位で置いていたらレッドが見つけて、バニラアイスの匂いと味いう歯みがき粉を気に入ってしまって、おれの家に泊まるときはそれを使うようになっていた。

「あれ美味しかったのに」
「あれ歯みがき粉だから、レッド。
つーか、お子さま用のいちご味とかメロン味とかじゃねーんだから」
「バニラアイスの味した」
「ええー…って、もうひとつ残ってただろ、抹茶が。それ使えよ」

おれは一回も試したことはなかったものの、レッドがそこまで味オンチとは思えないからきっとバニラアイスの味が本当にしたんだろう、お子さま用と似たかんじで香料でごまかしたほんのり的な。
そしてその歯みがき粉がなくなったことに不服を申し立ててくるレッドにコトネからもうひとつ貰っていたことを思い出した。

「…抹茶っていうか、グリーンティーって書かれてる時点でやだ」
「それはおれに対する拒否か?」

どういう意味だ、それは。
渋くていいじゃねーか、抹茶。むしろグリーンティー。

「だけどな、子どもじゃねーんだから普通のでいいだろ、歯みがき粉ぐらい」

たかが歯みがき粉で朝からなに文句言ってんだか。
そしてそれに呆れたようにして言ってみれば、レッドはむっとしたように顔を歪めた。

「…だってスースーする」
「歯みがき粉はスースーするの」

お前はバニラアイスの味の歯みがき粉と出会う前にどんな歯みがき粉を使っていたんだ。お子さま用のいちご味か?それともメロン味?
ああ言えばこう言ってくるレッドにほんと呆れてしまう。子どもか、お前は。

「だってミント味こんなだよ?」

まだ食い下がろうとするレッドにため息が出そうになったところで、レッドがおれの膝に手を置いて顔を近づけてきたかと思うと。
ちゅ。
まさにそういう音がしそうなキスをレッドがしてきて、それにおれの思考回路が止まる。

(…はい?)

「よし、いちご味買いに行こう」
「…」

レッドはおれから離れてぼそっとそう呟くとベッドから立ち上がった。そしておれはというと、レッドがドアのほうへと歩いていくのをただ見つめていたものの、レッドが出て行く、というところではっと我に返った。

「ま、待った!」
「?
…なに?」

慌てて声をかけると、廊下に足を進めてしまったレッドが立ち止まっておれのほうを振り向いてきた。

(なんでこいつはこういうことをこうもあっさりと)

「その、」
「?」
「えーと…」
「…だから、なに?」
「……〜〜っ…おれも行く…」

あんなキスじゃミントの味なんてわからないから、もう一回。
その言葉はとりあえず飲み込んだ。







あまいだけのキスならいらない


そしてさすがにその年でいちご味はないだろ、とどうにか説得して果物つながりでグリーンアップルミント味のにした。

「…グリーンアップルミント…」
「いいだろ、青りんごなんだから!あ・お!」

このとき泣かなかったのを褒めてやりたい。



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