「…レッド、いい加減にしろよ」 ため息まじりに呆れて言う先には、クッションを抱えたレッド。 さっきまでソファーに座って一緒にホラー映画を見ていて、映画が終わったから寝ようってことになったんだけど、レッドが。 「………無理」 クッションをぎゅうっと抱えて、険しい顔つきで首を横に振る。 無理。なにが無理かって言うと。 「…ひとりは、無理」 「だからリビングじゃなくここに布団敷いたんだろ」 「いやだ、無理」 ひとりで寝るのが無理ってことらしく。 最初はリビングに敷いていた布団だけど、レッドがあまりに怖がっていたから部屋に敷いたのに。 これならおれも一緒だし大丈夫だろうと思ったのに、レッドからの返答は、 「…無理」 微かに涙を浮かべた赤い目が揺れる。 そんなにさっきのホラー映画怖かったっけ?いつもなら平然とした顔して見て、何事もなかったかのように寝るくせに。 いまのレッドの姿にため息が出るものの、レッドも人間らしいというかかわいいとこあるんだなとも思う。 「…じゃあ、どうすればいいんだよ」 まったく進展のない攻防戦に、ついにおれが折れる。 0時過ぎたし、明日というか今日もジムはあるし早く寝たい。 「…一緒に寝よ?」 「…?!」 するとレッドからは、首をちょこんと傾げて少し上目遣いで、キラキラした効果音がつきそうなそんな台詞がとんできた。 そしてそれがおれにもろに突き刺さる。 「…だめ?」 レッドも自分で言ってることが男として、幼なじみとして多少なりとも恥ずかしいと思っているのか、頬がほんのり赤い。 まあ確かに、ホラー映画見て怖くなったから一緒に寝よう、なんて男の幼なじみに言う台詞じゃない。いや、女の子に言う台詞でもないけど。 これがかわいい女の子からの台詞なら、二つ返事する自信はある。だが言ってきたのは、男で幼なじみのレッドだ。さすがに二つ返事することはなかったが。が。 「〜〜っ?!」 「…グリーン?」 それをかわいいと思ってしまったおれがいて、自己嫌悪に陥る。 ばか、かわいいって…相手はレッドだっつーの!いくらレッドが綺麗な顔してるからって、落ち着け、おれ。 そしてひとりで悶々としていると、カチッと音がしたかと思うと、 「?!」 部屋のなかが急に真っ暗になった。 「え?停電?」 部屋以外に電気は使ってないからブレイカーがとぶことはないだろうし、マンションの一室だけとぶことも考えられないからマンション全部が停電したんだろうか? とか思っていると、リビングのほうからゴトッと何か落ちる音がして。 「なに、」 「〜〜っ!!」 「、おわっ?!」 おれに何かがぶつかってきた。 いや、何かじゃない、レッドだ。 真っ暗だからよくわからないけど、きっといまの物音にびっくりしたんだろう。 「レッド?大丈夫か?」 レッドはおれに抱きつくみたいにくっついてきていて。 とりあえず安否確認というか、聞いてみると、レッドからはおれの服をぎゅうっと掴んでくるという返事がきた。 「…」 まじか。 意外と怖がりなんだな、こいつ。 ほんとさっきのといい、かわいいとこあるじゃねーか。 ………って、待て。 「レ、レッド、大丈夫だから離れろって、なっ?」 またレッドのことをかわいいだなんて思ってしまい、動揺しつつレッドを引き剥がそうとする。 あんまりくっついていたら、おれのいまの心臓の音聞かれそうだ。恥ずかしい。 だけどレッドは引き剥がそうとするおれの手を払って、ますますくっついてくる。というか、完全に抱きついてるだろ、これ…。 「わ、わかった、一緒に寝てやるから離れろって!」 ひとりでテンパって、レッドの提案を丸呑みしてそう宣言してしまう。 でもレッドはいきなり停電で物音がしたのが、ホラー映画の後でよほど怖かったのか、まだ離れない。 「レッド、大丈夫だって、ほら、っ!」 するといきなり電気がパチッと点いた。どうやら復旧したらしい。 それに安堵すると、おれに抱きついてきているレッドが目に飛び込んできた。 うわ、明るいとこで見るとなんつーか生々しいというか、気まずさと恥ずかしさがさらに込み上げてくる。 「レ、レッド、電気ついたからもう離れろって」 慌ててレッドの頭にそう言い、レッドの服を引っ張って引き剥がそうとすると、おれの胸に顔を埋めていたレッドが顔を上げた。 つまりは、かなりの至近距離で上目遣いされることになり。 「!!」 その上目遣いの赤い目は微かに潤んでいて、眉毛は垂れ下がっている。 そして本日、三度目のかわいいをおれは心のなかで絶叫するはめになった。 「…一緒に寝るって、言った…よね…?」 暗闇の先には何がある ちなみにレッドは怖がっていたわけではなく、ホラー映画でひとが消えたシーンをおれと重ねておれがいなくなったら大変だと思って、ああいう行動にでたらしい。 (…かわいいじゃねーか、ちくしょー…) なんかよくわかんねーけど、末期な気がしてきました。 |