最近のおれはおかしい。

「…グリーン?」

ソファーの隣に座っていて目の前で首を傾げているレッドの、その首をじっと見つめてしまっている。
首、というか首筋、項、ととにかく首だ。
今も話の途中で黙り込んでしまってレッドの首をじっと見てしまっているおれを、そんなことは知らないレッドが不思議そうな顔をしておれを見てくる。

「えっ、あ、な、何だよ?」
「…それで、シンオウのどこに行ったの?」
「あ、ああ、その話な」

レッドに促されて話を思い出すと、途中だったそれを話し出す。
いつからこうなったのかはわからないが、ここ最近は自分でも自覚がある。
ただし、見ているときは無意識だからだめだと思っていても意味がない。
つーか、なんで首なんだよ…。大丈夫か?おれ…。
フェチで手とか足とか見てしまう、とかならともかく首って…。
しかもこれは他のひとには発揮されることなく、対象はレッドに限定される。
確かに色は白いし細いし、噛みつきたくなるよな…。な…?

「…」
「…グリーン?」

自分で自分を追い詰めるようなことを思ってしまい、おれはがっくりと肩を落とす。
待て待て待てまて!!
噛みつくってなんだよ、やっぱり吸血鬼か?!前世が吸血鬼?!なんで吸血鬼?!
心のなかでツッコミと否定を繰り返すと、そんなおれを不思議そうに見てくるレッドに申し訳なさそうに両手を合わせて謝る。

「わ、悪りぃ、ちょっと疲れてるっぽいわ。
少し休んでくる」
「…わかった」

頭のうえに疑問符を大量に飛ばして首を傾げるレッドがなんとなく納得してそう頷く。
そしておれはソファーから立ちあがると、ため息まじりに自分の部屋に戻り、ベッドに突っ伏した。

「……何なんだよ、まじで…」

ぼそりとそう呟くと、本当に疲れてるのかもしれない、と思う。
だって有り得ないだろ。
無意識とはいえ、レッドの首ばっか見て、挙句の果てには噛みつきたいって。
いや、無意識なのが一番タチ悪い気がする…。
それに例えばおれが吸血鬼だったとしても、狙うならかわいい女の子とかキレイなお姉さんの首であって、男で幼なじみのレッドじゃないはずだ。

「…有り得ねー…」

もわもわとした頭のなかを払拭することが出来ないので、せめて閉じ込めてしまおうと目をぎゅっと瞑る。
そうだよ、今日は飯食ったら風呂入ってすぐ寝よう。そうしよう。
とか思っていると、そのまま寝てしまったらしく。

「……ン、……」

それからどれぐらい経っただろうか。
遠くで呼ばれる声がして、それにぼんやりと目を開けた。

「…ン、グリーン、あ、起きた。
お風呂入らないの?」
「……レッド…」

目を開けるとそこにいたのはレッドで。
ベッドの前でしゃがみこんでおれをじっと見ている。
よく見ると髪が濡れていたから風呂上がりだろう。
つーか、飯まだだよな。昨日の残りのカレーがあるからいいけど支度しないと…。
そんなことを思っていると、リビングのほうからポケギアが鳴る音がして。
それにレッドがリビングのほうを振り向いて、おれの目にはレッドの白い項が飛び込んできた。

「…」

相変わらず色白いな、と思ったと同時に体が動いて。

「――ッ?!」

レッドの肩に手を伸ばして掴むと、それに驚いておれのほうを振り向いてきたレッドの首、首筋を。

「っ、痛…ッ」

ガリっと歯形がつくほどにそれに噛みつくと、噛みついた痕をべろりと舐めた。
それにレッドが体をびくっと震わせる。
そしておれは構うことなく、今度はレッドのその首筋に唇を押し当ててきつく吸い上げた。

「っ?!んぅ…ッ」
「!!」

するとそれにまた体をびくびくっと震わせたレッドが聞いたことないような声を漏らしてきてそれで我に返る。
慌ててレッドから離れると、レッドもそんな声が出たのにびっくりしたのか、自分の口を手で押さえている。真っ赤な顔で。

「〜〜っ、あ、その、ご、ごめん!!」

ついにやってしまった。
その言葉だけが頭のなかをぐるぐると舞う。
そして見なければいいのに見てしまったレッドの首には、おれが噛みついた痕と、キスした後の鬱血した痕が白い肌に赤く残っていて。
それがものすごく扇情的で心臓の音が速くなる。

「まじでごめん!!寝ぼけてたっつーか、その、ごめん!!」

居てもたってもいれなくなって、ベッドから飛び下りると洗面台へと早足に向かう。
事の発端になったポケギアはもう鳴り止んでいるようだ。
そして水で顔を何度も洗うと、ぐるぐるしている頭で鏡を見た。

「!」

するとそこに映っていたのは、やってしまった、と青ざめるというよりも、耳まで顔を真っ赤にしている自分で。
いや、やったことがやったことなんで青くても赤くてもどっちでもこの際いいけど。

「…くそっ…何なんだよ、まじで…!」

こんな状況で一晩レッドと過ごすとか、どういう拷問だ。無理。今すぐにも忘れたいし忘れてほしい。
しかも、晩飯はまだだ。
どうする…用意だけして即行部屋に篭るとか。いや、でも明日もあるし…。

「…グリーン」
「はっ、はい?!」

不意に入り口のところから声をかけられ、持っていたタオルが宙を舞う。
そしてそのタオルはぱさっとおれの頭へと落ちてきた。
それから入り口のところを見てみれば、首を擦っているレッドがいて、こういうときどういう顔をしていいかわからず強張ってしまう。
というか、冷や汗がすごいんですけど。

「レ、レッド、あのな、」
「…グリーン、お腹すいてるんでしょ?」
「へ?」

しどろもどろでどうにかして突破口を開こうと思っていると、レッドがそんなことを言ってきて。
おれはそれに間抜けな声を出した。

「…だからあんなことしてきたんでしょ?」
「えっ、いや、あの、その」
「大丈夫、カレーあたためておいたから」
「…あ、えっと…あ、ありがとう…?」

なぜかどや顔で言ってくるレッド。
いや、そうじゃないと思うけどレッドがそれならそれでいい…のか?
なんかすでに勝手にひとりで納得しているレッドは、ご飯食べよう、とさっきのことをまるで何もなかったかのように言ってくる。

「…」

それからと言うもの、またおれが無意識にレッドの首を見ていて、その首に噛みついたりキスしたりしてしまうと、レッドはおれがお腹がすいているんだと理解するようになり、拒否ったり嫌がったりなんてことはなく。

「わ、グリーンっ、んんっ」
「っ、ご、ごめん!」
「…いいよ、慣れたし。ていうか、さっきご飯食べたのにもうお腹すいたの?」
「…〜〜っ…こういうのに慣れるなよ…」
「?」

今日もなぜかレッドの首筋にキスマークをつけてしまったおれでした。












ヴァンパイアなんて怖くない


(まじでレッドのこと食べたいとか思ってんのかな、おれ…)
(…やっぱり前世は吸血鬼か…?)



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