「しらばっくれてんじゃねーぞ! おれはお前に好きだって言われてからむかつくぐらいお前のこと考えてんのに、お前はなんだよ、女の子とデート?ふざけんなよ」 このおれがどれだけレッドのこと考えたかわかってるんだろうか。 たぶん人生で始まって以来だぞ。 すると戸惑いと怯えが混じっていたレッドの顔が、一瞬、ん?と疑問めいたような顔になった。 そして頭のなかでおれの台詞を反芻しているっぽいレッドが反芻が終わったのか、眉をひそめて困惑した目でおれを見てくる。 なんだよ、その顔は。 「…ちょ、ちょっと待って、グリーン。 女の子とデートって誰が…?」 頭のうえに疑問符をたくさん飛ばしているレッドが、首を傾げながらそう聞いてくる。 つーか、自分がしてたことなのに忘れてたってことか? それにますますイライラする。 「はあ?レッド以外だれがいるんだよ。 つーか、今更言い訳とか聞かねーぞ。キスされてただろ」 「…あれはデートなんかじゃないよ。それにキスはさっきグリーンにされたのが初めてで女の子とはしたことな、あ」 「…」 レッドはため息まじりに否定したかと思うと、何かに気付いたようで言葉を止めて顔を真っ赤にした。 つーか、こいつがこんなに表情ころころ変えるなんて、やっぱりこいつも人間だったんだなぁ。 とかのんきに思ってる場合じゃない。 レッドが落としてきた爆弾に、イライラしていた心がすっぽりと穴をあけられた。 「え…?い、いや、その…キスって、あの、女の子と頬にキスの話で…」 「〜〜…っ」 さっきまでの緊迫した空気はどこへやら。 一瞬にして気まずい空気がおれたちの周りに漂う。 あれ、こういうかんじ前にもあったような。 そして爆弾を落としてしまったレッドはというと、いや、キスが初めてとか別に隠すことでもないし、いや、言うことでもねーけど、んん? とにかくレッドは顔を赤くしておれから顔を逸らしている。 待て待て。ここはおれがお前を問い詰める場面であって、つられて顔を赤くしてる場合じゃねーだろ、おれ…! でもレッドがキスが初めてだったってことは、レッドの初キスの相手はおれってことになるんだよな…。 「ちょっ、ちょっと待て! あ、あれは不可抗力っつーか、いや、そもそもレッドがひとに好きだって言っておいて女の子とデートなんかしてるのが悪いんだろ?!」 なんだかものすごく恥ずかしくなって、赤い顔と早くなる鼓動を誤魔化すように早口で捲し立てる。 我に返ってみて、とんでもないことをしたと気付くけどしてしまったものは仕方ない。 そして心の中は盛大におろおろしているものの、それを見せられるわけもなく、虚勢を張っておろおろしてみる。 あれ、結局おろおろしてんじゃねーか、おれ。 「っ…あれは…、…グリーンに渡すプレゼント選びに付き合っただけ」 「へ?」 「…あの子、グリーンのことが好きなんだって…」 「お、おれ?レッドじゃなくて?」 レッドがむすっと拗ねたようにそう言ってきた台詞に思考回路がこんがらがる。 え?おれのことが好きなのにレッドとデート? 「…それで、告白するときにプレゼントを一緒に渡したいけど何にしたらいいかわからないって…」 「…プレゼント…。で、でもなんでレッドと?」 「…グリーンさんと仲良いんですよね、っていきなり声かけられて腕引っ張られて連れていかれた」 「…」 なんとなく話はわかったようなわからないような。だからレッドが普段行かないような店の前にいたのか。 そして、なぜかむすっと機嫌が悪くなってしまったレッドに、おろおろしていたおれはますますおろおろしてしまう。 え、なんでレッド怒ってんの?ここはおれが怒るとこだろ? でもいまの話が本当ならそれって…。 「って、待て!つーか、お前おれのこと好きなんだろ?!それなのにライバル助けるようなことしてどーすんだよ! それで、もしもおれとその子がくっついたらお前どうするつもりなんだよ?!」 「…だ、だけど困ってたし…」 「はあ?困ってたって、お前な…」 がしっとレッドの両肩を掴んで真剣な表情で説教するおれの迫力に押されがちなレッドは、驚いて少し引き気味でなんとかそう答えてくる。 だけど本当にそんなことになったらどうするつもりなんだ。 おれだったらわざわざライバルに塩を送るようなマネはしねーぞ。 「…」 なるほど、そういうわけか。 レッドの話を聞いて、おれは大きなため息をついた。 裏を取ったわけじゃねーけど、話しているレッドの表情を見ていたらわかる。 レッドは嘘を言っていない。 冷静と平静を取り戻したら、話は意外とすんなりと繋がった。 「……おれが悪かった」 「…え?」 だから、今更とは思うけどレッドを見つめてそう謝ってみる。 するとレッドの瞳が大きくおれを捉えた。 「よくよく考えれば、お前が恋愛うんぬんで難しいことなんか出来るわけねーし。 あんな大胆な告白を面と向かってしてくるし、キスしたの初めてとかつられて言ってくるし」 「…つ、つられてな…っ」 「慣れてないのバレバレだったからいいんだよ」 「よくなっ…、あ」 ため息まじりに思いだしてそう言ってみれば、レッドもおれの台詞でキスされたのを思い出したようで、顔からぼっと火が出たかのようにそれを真っ赤にした。 そして恥ずかしそうに唇を噛むと俯く。 「………じゃあ、もう怒ってない?」 「は?」 すると俯いたレッドがちらりとおれを見てくる。少し不安そうな顔で。 それは母親に怒られたちいさな子どもみたいなかんじだ。 「…でも頬にキスはされたんだよな?」 「っ、あれは…なんかお礼だって言って…あんな不意打ち避けれない…」 忘れるとこだったが、頬にキスの件を再確認するように聞いてみれば、レッドは不服そうな声色でぼそぼそっと答えてきた。 あの子、純情そうに見えてけっこう大胆なんだな…。 まあいま冷静に思い出してみれば、レッドの女の子への不慣れさが照れてるみたく見えたんだろうな。その不慣れさが逆に紳士っぽく見えるときもあるから困るんだけど。 つーか、どっちにしろ不慣れだ。 「…心配すんな」 「え?」 「好きなやつへのプレゼント選びに付き合ってくれた男に、お礼とはいえ頬にキスするような子と付き合ったりなんかしねーよ」 外国での暮らしが長かったのか、とか考えてみても、状況が状況なだけにそれはないだろうし。 こいつもなんだかんだで有名だし、レッドに憧れてる女の子がいるのも知ってる。 おれと仲が良いって言うんならレッドじゃなくてもいいはずだし。 そしてちいさく息を吐き出すと、心配そうな顔をしているレッドの頭をよしよしと撫でてやる。 「…そうじゃなくて、…もう怒ってない?」 「…。 怒ってねーよ。大声出して悪かったな」 頭を撫でられたことに少しむっとしているレッドに笑みが溢れる。 つーか、心配する論点違うくないか?まあレッドだからいいか。 「…」 「…」 「〜〜っ、と、とりあえず上がれよ!」 「…え?今日泊めてもらうつもりはないけど…」 そしてやってきた沈黙に居たたまれなくなると、いまふたりがいるのが玄関先だと気付いてそう言ってみれば、レッドはきょとんとした顔でそう言ってきた。 それにおれは深いため息をつく。 「…レッド、本当にお前おれのこと好きなんだよな?」 「……う、うん」 おれだったら、好きな子と一秒でも長く一緒にいたい。 おれだったら、好きな子の隣にいたい。 おれだったら、好きな子を独り占めしたい。 「だったら、おれの返事聞けよ。答えてやるから」 「…返事?」 「レッドがおれに言ってくれたように、おれも言うから」 きょとんと首を傾げるレッドにそう促してやれば、レッドは大きなその赤い目でおれを見つめてくる。 そしておれは、その赤い目におれだけが映っていることに満足げに口元を緩めた。 気がついたら答えはもう出てたし、いまは言ってやりたくて仕方ない。 「………言って?」 だから、促すように首を傾げて大きな赤い目を揺らすレッドに柔らかく笑いかけると、 「鈍感で天然だけど、意外と言うときは言うし度胸はあるとことか」 「笑うとけっこう可愛いとことか」 「バトルは手加減しないし、半端なく強いとことか」 「ポーカーフェイスだけど、おれのことが好きすぎるとことか」 「…つーか、言い出したらきりがないからまとめるわ」 つらつらと並べていった言葉を遮って、照れくさくて頬を掻く。 言っておくけど、告白されたことは星の数ほどあっても告白したことなんか一度もないんだからな。 心のなかで嬉しい悪態をつくと、まだいい足りない言葉を星のように空に飛ばす。 そして、なに?と首を傾げてきたレッドに、レッドもこういう気持ちだったんだな、と微笑む。 「好きだ。 おれと、付き合ってください」 最初で最後の告白をした。 ハロー、恋愛初心者 そして次の日、あのときレッドと一緒にいた子に告白されたけどもちろん断った。 プレゼントもごめん、と受け取らなかった。 「ごめん、付き合ってるやついるから」 そう言ったおれはきっと、その子には悪いけど、嬉しそうに笑っていたと思う。 |