「グ、グリーン?」

レッドの戸惑った声が後ろから聞こえる。
女の子と歩いていたレッドのところに行って、半ば無理矢理にレッドを連れ出した。
女の子はいきなり現れたおれにびっくりしていたけどレッドをすんなり貸してくれた。まあそのときおれは笑っていたけど、自分でもわかるぐらい殺気立っていたからそのせいなのかもしれねーけど。
そしていま、レッドの細い手首を掴んで引っ張って歩いている。

「…っ、ど、どうかしたの?」

おれのただならぬ様子に、レッドが戸惑いと心配が入り交じった声で聞いてくる。
それにおれはさらにイラッとした。
どうかした?どうかしたのはお前だろ。
女の子と歩いてたとこをおれに見られたとかそういう意識はねーの?
つまりは、おれのこと恋愛対象で好きだって言っても結局。

「…してねーように見えるかよ?」
「え?」

結局、いつもと変わらない。

「…レッド、おれのこと好きって言ったよな?」
「…!」

足早におれの家にたどり着くと、レッドを家のなかへと押し込み玄関のドアを閉める。
そして電気をつけると、玄関のドアにレッドを押し付けて不機嫌丸出しな冷たい声色でそう聞いた。

「恋愛対象で、とも言ったよな?」

レッドはそんなおれをびっくりしたように見ている。
そしておれの気迫に負けたのか何なのか、レッドはこくんと頷く。
びっくりした顔のままで。

「…じゃあ、ヤらせろよ」

レッドの耳元でそう言うと、レッドの体がびくっと震える。
だけどレッドを見てみれば、レッドはびっくりした顔から不思議そうな顔になっていて。
そして、首を傾げる。

「?
…なにを?」

きょとんとした顔で聞かれ、それにおれはますますイラッとする。
恋愛対象って、わかってて言ってたんだろうか。恋愛すべてがそこにたどり着くわけじゃねーけど、思春期で健全なら誰しもたどり着くはずだ。
だけどこのときのおれはとにかくイライラしていて、レッドがドがつくほどの天然と鈍感でシロガネ山の仙人だということを忘れていた。
つまりはこっち系に疎いということを、レッドが言った恋愛対象という言葉で消し去ってしまっていた。
だから、わからないという表情のレッドにキレた。

「…っ、こういうことだよ…っ」
「…っ?!」

そして玄関のドアを背にしていて逃げ場のないレッドの顎を掴んで少し上を向かせると、勢いのままにレッドにキスしてしまった。
つーか、ヤらせろなんて、なんでそんなことを言ってしまったのか、冷静さを欠く今ではわかるわけもなく。

「…〜〜っ、?!
んっ、ん、んんっ?!」

意外とレッドの唇柔らかいなと、男同士なのにとか相手はレッドなのにとか思うより先にそんなことを思う。
そして、唇と唇を合わせるだけじゃもの足らず、隙間から舌をねじ込むとレッドの口腔を貪るように深く口付けた。
もちろんレッドがそれに耐性があるわけがない。

「っ?!
んう…っ、ふ、は…ぁっ」

深いキスに翻弄されて、レッドが体を震わせて声を漏らす。
そして強くおれの胸元を押し返してきたから仕方なく唇を離してやると、レッドはめいっぱい酸素を吸っている。
俯いて肩で息をしてなんとか呼吸を整えようとするけど、上手く出来てはいない。

「っ…は、あ…っ…、いきなり、なに、す…っ」
「……っ。
レッドが悪い」
「え…?」

真っ赤な顔でおれを見てきたレッドに心がざわつく。
そしてそんなレッドにしれっと言ってやると、もう一度レッドにキスをした。
レッドの後ろ頭を掴んで逃げられないようにして。

「グリー…っ、んんっ!
ふ、あ…っ、や…ッ」

レッドはそんなおれから逃げるように身を捩らせたり、おれの体を押し退けようとしたりする。
でも結局レッドが力でおれに勝てるわけもなく。

「んっ、っ、ふ、ぅ…っ」

力が抜けてしまったのか、レッドの体がドアづたいにずるずると落ちていく。
そして玄関にぺたんとレッドが座り込んでしまった。

「………っ…、
…ひどい、よ、グリーン…っ…」

息を整えながらレッドがぼそぼそと言葉を紡ぐ。
座り込んで俯いているから表情はわからないものの、時折鼻をすするような音が聞こえてくる。

「…酷いのはレッドのほうだろ」
「え…?」

レッドを見下ろして冷たく言い放つおれの台詞に顔を上げたレッドは、やっぱり泣いていた。
それが感情からくるものか、キスして酸素不足のせいなのかはわからないが。
だけどそれに、レッドの泣き顔とか何年ぶりだっけとか思ってしまう。

「…っ」

でもすぐにまたイライラが込み上げてきた。
さっきのデート現場を思い出したら。

「お前、おれが好きだって言ったよな?恋愛対象で」
「…っ……うん」
「それなのに女の子と付き合ってるとか、おとなしそうなくせにやることやってんだな」
「え…?」

するとレッドは目尻に涙を浮かべたまま、きょとんと目を丸くした。
そんな顔したってだめだ。
いくらドがつくほどの天然で鈍感でも、こっちは現行犯逮捕なんだよ。言い訳なんざ聞かない。
それにチッとちいさく舌打ちをすると、座り込んでいるレッドの腕を引っ張って立ちあがらせた。

「本命はあっちで、おれは遊びってわけか?」
「…?
…グリーン、何の話をしてるの…?」

睨むようにして言うおれの顔を見て、レッドが戸惑いと怯えが混じったような顔をしてくる。
だけどおれはお構いなしにレッドに顔をずいっと近づけた。



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