「…なに?」

おれの視線に気付いたのか、レッドがきょとんとした顔でおれを見てくる。
レッドがおれに恋愛対象として好きだと告白してきてから一週間、特になにもない。いや、なにかあったほうがいいとか言うわけじゃねーけど、なんていうかまじで前と変わらない。
今だって、複雑な心境でシロガネ山に来たおれをレッドは前と同じ態度で接している。
好きなやつがわざわざ会いに来たってのに、レッドは照れたり恥ずかしがったりとかそういうことがない。
そういやこないだご飯行ったときもそうだったっけ…。
好きなやつが目の前にいるのに隣のコトネと仲良くしてて。

「グリーン?」
「っ、な、なんだよ?」

レッドが告白してきてからおれの頭の中をレッドが占める割合は前に比べてはるかに大きい。
そもそもレッドがあんな見たことないような顔して好きだなんて言ってくるから。

「ポケギア鳴ってる」

そして目の前のレッドのことを悶々と考えていたおれに、そのレッドがおれにそう告げてくる。

「げっ、もうバレたか…」

ポケギアの着信はトキワジムからだ。
出ないで無視しようと決めているおれに、レッドが怪訝そうな顔をする。

「…出ないの?」
「あー、いいって。出ても文句言われるだけだからな」
「…黙ってここに来たんだ?」
「レッドのとこに行きますって言って、はいどうぞなんて言うやつらじゃねーんだよ」

鳴り続けるポケギアを見てため息をつく。
するとレッドはそんなおれを見て首を傾げた。

「…ジム戦あるならわざわざ来なくていいよ?」
「え?」
「だってグリーンの仕事でしょ?」
「あ、お、おう…」

さも当然という風に言ってくるレッドにおれは頷くほかない。だって当然のことだしな。
だけどそうなると一ヶ月に一回ぐらいしかシロガネ山に来れなくなる。食糧とかくすりとかおれが来る前はレッド自身で調達してたから問題はなさそうだけど。

「…それでいいのかよ?」
「?なにが?」

おれの問いにきょとんとするレッドにため息をつく。
一ヶ月に一回って、織姫と彦星みたいな…いやあれは一年に一回か。…って、例えがだめだろ、おれ!織姫と彦星ってあれだ、恋人っつーか夫婦だからおれたちとは全く違うものであって。それに会いたいわけでも会えなくて寂しいわけでもない。ない。

「…グリーン?」

声にならない声を発して頭を抱え込むおれにレッドが不審の目を向ける。
それにぎろっとレッドを見る。大体こうも頭の中がレッドで埋め尽くされているのはレッドのせいであって、調子狂うというか、こんなのおれじゃない。

「…わかった。今度からはジムが休みのときにだけ来るわ」
「うん」

渋い顔しておれがそう言うと、レッドはこくんと頷く。その顔はいつもの表情だ。

「…お前さ、本当におれのこと好きなのか?」
「え…?」

レッドに告白されたのは紛れもなく本当のことだけど、その後のレッドの態度を見ていると疑問に思えてくる。
おれだったら、好きな子と一秒でも長く一緒にいたい。
おれだったら、好きな子の隣にいたい。
おれだったら、好きな子を独り占めしたい。
だけどレッドは。

「…」

なんでおれがこんな気持ちにならなくちゃいけねーんだよ。
じっとレッドを見つめてみれば、レッドは瞬きを何度かするとぼっと火が出るかのように顔を赤くした。

「?!」

それに驚きつつも、心の中はどこかで安堵している気がした。だけどこのときのおれはそれに気付くはずもなく。

「…っ、好き、だよ……」
「!」

そして赤くなったまま、レッドがぼそりとそう言ってくる。
おれから少し視線を逸らして恥ずかしそうに。
それにおれの中の何かがぞくぞくとした。

「?!」

するとおれのポケギアがまた鳴った。その音に二人してビクッと驚いてしまう。つーか、タイミング良すぎというか悪すぎというか。
見てみると着信は案の定ジムからで。
それにため息をつくとレッドのほうを見る。

「…じゃ、じゃあな」

どう声をかけていいかわからない雰囲気が漂っていて、ギクシャクしながらそう告げると踵を返す。
あのままいてもあの雰囲気に耐えきれずにいただろうし丁度良かったのかもしれない。
そしておれは一度も振り返ることなくシロガネ山を下りた。




それから、おれを殺す気なのかと言いたいぐらい詰め込まれたジム戦をこなす日々が続いた。
あれから三週間ぐらい経ってるけどレッドから連絡なんてあるわけもないし、会いに来ることもない。

「…つーか、疲れた…」

体力も精神力も磨耗した体を引きずりつつ帰路に着く。
三週間休みなしってさすがにしんどい…。

「ん?」

今日の晩飯なににしよう、とか考えていたらある人物の姿が目に飛び込んできた。
それは三週間ほど会っていない、シロガネ山の主。
そしてレッドはおれに気付いていないようで、店の前で誰か待っているような素振りだ。

「?!」

コトネかヒビキと待ち合わせだろうかと思っていたおれの予想は外れ、見たことない可愛い女の子がレッドの前へとやって来た。
そしてその子は嬉しそうにレッドの腕にくっつくと、レッドも満更でもなさそうな笑みを浮かべてその子を見ると、おれに背を向けて二人は歩き出した。

「…誰だよ、あの子…」

見たかんじからして可愛いふわんとした女の子で。
レッドのやつ、ああいうかんじの子が好きだったのか。と思ったところで、あれ?と思い直す。
だってレッドが好きだと言ったのはおれで、可愛い女の子じゃない。

「…」

じゃあなんで今レッドは可愛い女の子に腕組まれて一緒に歩いているんだ?
おれに好きだとは告げてきたけど、それだけで何もなかった。
もしかして告白したらそれで気が済んであとはどうでもいいとか?

「…」

なんでレッドはおれに返事を求めないんだろう。
そしておれはなんでいまこんなにもイライラしているんだろう。

「!」

すると信号で止まったときに、女の子がレッドを呼んでレッドがそれに振り向こうとすると。
女の子がレッドの頬にキスをしていて。
女の子はますますレッドにべったりくっついて、レッドは後ろから微かに見える耳が赤い。

「…」

なんだよ、それ。
おれのこと好きだって言ったくせに、女の子と付き合ってんの?

「…」

得体の知れない感情がおれを取り囲んでいく。
おれの返事は一体どこへいけばいいんだよ?あれから頭のなかはレッドで一杯で、柄にもなく悩んでみたりもしたっていうのに。

「……ふざけんなよ…」

そしておれは早足で歩き出すと、レッドのところへと向かった。




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