「…」

行き場を失った、あげた右手がむなしすぎる。
告白された次の日に、告白してきた子にばったり出会ってちょっと気まずいみたいなことはあると思うんだ。OKした、しない抜きでも。
だけど、あからさまに無視されるってことあるんだろうか。

「…やっぱあいつよくわかんねぇ…」

昨日レッドに好きだと言われた。恋愛対象として。
あのレッドが恋愛だなんていつの間にそんな人間らしくなったんだとしみじみしていたけど(おれのなかでレッドはシロガネ山の仙人で手のかかる幼なじみだ)、その恋愛対象はおれで。それに呆気にとられているとレッドはいなくなってしまっていた。
おかげで夜眠れなくて今日すげー寝不足でジム戦の途中で居眠りしかけてジムトレーナーに怒られたりもした。
そんなときにレッドにばったり会ったから、昨日のうんぬんを思い出すよりも先に習慣が出てしまって「よぉ!」と手をあげて挨拶なんかしてみれば、レッドはおれを見るとその無表情を変えることなくおれから視線をすっと逸らすと、曲がって行ってしまった。

「…いや、でもあれがもしかしたらレッドなりに気まずかったときの行動とか………、ないか」

ちいさい頃から一緒だったから、他人よりかはレッドのことをわかってるつもりだった。
だけどあいつはいつもおれのナナメ上ぐらいをいくもんだから。

「…つーか、昨日からレッドのことばっか考えてんな、おれ…」

はぁ、とため息をつくと仕方ないと思って、脱走したトキワジムへと戻ることにした。





「グリーンさん、死相が出てますよ」
「…出てねーよ」

なんとか今日のジム戦を終え、帰路についたとこでコトネと出くわした。
心配というよりは興味ありげな顔でコトネからそう言われ反論の声をあげる。
確かに寝不足とかもろもろでげっそりしてるかもしれねーけど、死相はねーだろ、疲労と言え。
するとそこでコトネのポケギアが鳴った。

「誰だろ…あ、レッドさんだ!」
「?!」

嬉々として話し出したコトネを、おれは驚愕した目で見る。
だってレッドから連絡って…おれ、今までで片手で足りるほどしかねーってのに…まじかよ…。

「え?いまトキワにいるんですか?
あ、じゃあご飯一緒に食べましょうよ!
グリーンさんいるから、グリーンさんの奢りで!」
「…って、待て待て待て!なんでおれの奢り?!」

呆気にとられているとコトネからそんな内容の台詞がとんできて、慌てて我に返るとコトネにつっこみをいれる。
だけどコトネはお構いなしに話をどんどん進めている。

「場所はポケセンの近くの…はい、そうです。
じゃあ、待ってますね〜」

そして挙句の果てには場所まで決めてしまったようで、満面の笑みでポケギアを切っておれを見てくる。

「というわけで、ご飯行きましょう、ご飯!」
「…お前な…」

拒否権のない笑みにおれは頷くほかない。
つーか、昨日の今日というか、今日すでに会ってはいるけど無視されたんだぞ、おれは。
レッドが気まずくなくても、なんかおれのが気まずいかんじになるのはなんでだ。
でも待てよ。一緒にご飯食べれるってことは、やっぱりあれは気まずいときの行動とかじゃなくただ単に無視したってことなのか。

「…」
「グリーンさん?なに落ち込んでるんですか?」

それはそれでへこむだろ…。
がっくり項垂れたおれを見て、コトネが怪訝そうな声をあげてくる。
おれたちの状況を知らないから、お前はのんきにご飯だのなんだの言えるんだよ。まぁ言うつもりはねーけどな。絶対に面白がられるだけだろうし。
つーか、レッドのやつあれからずっとトキワにいたのか…。いや、トキワの森に行っててその帰りとか考えたほうが妥当か。

「グリーンさん、行きますよー」
「…おう」

というわけで、おれとレッドとコトネの三人で食事をすることになってファミレスに来てるんですが。

「…」

席順はおれがひとりで座ってる向い側にコトネとレッドが並んで座っている。
まぁおれとレッドが並んで座ったら変だろうし、だからっておれとコトネが並んで座るってなったらコトネにすごい拒否られそうだし、別にいいんだけども。

「レッドさん、これ美味しいんですよ」
「…どれ?」
「これです、チーズハンバーグ!」

ふたりで仲良くメニューを見ている光景はとても微笑ましい。
メニューがふたつあったからおれはひとりで見てますけどね。
なんだろう。なんか、疎外感がねーか…?いや、別に一緒にひとつのメニュー見たいわけじゃねーけど。

「…僕、これにしよう」
「レッドさんがそれ頼むなら、私はこれにしますっ」

レッドがコトネおすすめのチーズハンバーグを指さすと、コトネは隣の照り焼きハンバーグを指さして、ふたりで顔を見合わせるとえへへと笑っている。

「…」

うん、なんだこの付き合いたてのカップルのデートに付き合わされてる友人みたいな構図は。
コトネはレッドのことすげー好きだし(聞いたら恋愛っていうよりも尊敬の意味らしいけど好きなのに変わりはない)、レッドもコトネのことは可愛がってるように思える。
だからそんなふたりが並んで座って一緒に仲良くメニュー見てたら、付き合いたてのカップルみたいなオーラが出ててもおかしくない、気がする。
つーか、コトネはあれとしてもレッドはコトネに対して優しすぎる気がする。でもまあヒビキも似たようなものか。
だけど、好きなやつが目の前にいるってのに、そいつ無視で女の子と仲良くしてるってのどうなんだ?

「……っ」

というか、レッドのこと考えすぎだろ、おれ…!
メニューを開いて立てるとその間に顔を隠すようにつっこむ。
くそっ、すげー調子狂う…。

「グリーンさん、何してるんですか。
決まりました?」
「………ふつうのハンバーグ」
「みんなハンバーグじゃないですか」
「おれの奢りなんだから好きなもん食っていいだろ!」
「仕方ないなぁ…すみませーん」

おれのチョイスに不服そうな声を上げたコトネに、むっとしてそう言い返す。
そうだった、ここおれの奢りなんだった。
そしてがあっと吠えるように言うおれを見てコトネはため息をつくと、注文をしている。
くそ…ステーキぐらい食うべきだったか…。
自棄を起こしそうな脳内を落ち着かせつつ水をひとくち飲む。
するとレッドと目が合った。

「!」

だけどレッドはすぐにふいっと視線を逸らすと、コトネと何か話し始めた。
その顔は無表情というよりは、ほのかに笑みを浮かべている。

「…」

昨日ひとに好きって告白してきて、今日のこの態度は何なんだ。
つーか、おれの返事は聞かなくてもいいんだろうか。
それに、好きとは言われたけど付き合ってとかそういうことは言われなかった。
レッドは一体どうしたいんだ?
するとコトネのポケギアが鳴り始めた。

「あっヒビキくんからだ。
ちょっとすみません」

そしてコトネはポケギアを持ってわざわざ店の外に出て話し始めた。
はっ、もしかしてヒビキまで飯食いに来るつもりじゃねーだろうな?!
疑心暗鬼にかられて、どきどきしながら外にいるコトネを見つめる。

「…」

するとまた視線を感じて、外にいるコトネから視線を外してみれば、

「……な、なんだよ?」

さっきとは違って、今度は目があってもレッドは視線を逸らさない。
その赤い目が何を考えているかわからなくてどきどきしてしまう。

「…別に」

だけどレッドからは無表情で素っ気なく一言が発されただけで、レッドはそう言うと閉じたメニューをまた開いて見始めた。

「………お前さ、おれのこと好きなんだよな?」

そんなこと聞くつもりなんかなかったけど、昨日あんなにつらつらとひとの好きなとこを挙げて告白してきたくせに、今日のこの素っ気なさを目の当たりにしたら誰でも疑問に思うだろう。
するとレッドはメニューから顔をあげると、また無表情でおれを見てくる。

「…僕は、」
「レッドさん、グリーンさん、ヒビキくん来ましたー!」
「こ、こんばんは…」

レッドが何かを言いかけたところで、コトネがヒビキを連れて戻ってきた。案の定。
それにレッドが何かを言いかけたのを忘れて、ふたりにつっこみを入れるはめになった。

「来ました、じゃねーよ!なんで当然のように座ってんだ、ヒビキぃ!」
「えっ、だってコトネちゃんが一緒にご飯食べようって…」
「大丈夫、ヒビキくん、グリーンさんの奢りだから。なに食べる?」
「えーっと…」
「おっ、お前ら…!」

おれの隣に座ってきた、悪気なんてまったくないヒビキが照れたように言うと、コトネがレッドから受け取ったメニューを広げた。
なんでよりによって今日トキワに集まってきてんだ、お前らは。

「………もう好きにしろよ…」

ため息をつくと、メニューを見て楽しそうにしている三人を眺める。
父親ってこういうかんじなんだろうか…いや、わかりたくはねーけど。
そしてコトネとヒビキのおかげで、レッドのことで一杯だったおれの頭のなかは多少ガス抜きされた、気がした。




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