「…グリーン」

いま僕はリビングで座りこんでゲームをしているんだけど、そんな僕をグリーンが後ろからがっちりと抱きしめてきていて。
おかげで寄りかかることができるから体勢としては楽は楽なんだけど、この状況は。

「鬱陶しい」

グリーンは僕を後ろ抱きして、僕の肩に頭を乗せて項垂れているから。

「…お前な…傷心中なおれに言う台詞か…?」

そして僕の一言を聞いて、グリーンがよりいっそうどんよりとした空気を漂わせつつ呟く。
うん、かなり鬱陶しい。

「…だって、負けたものは仕方ないでしょ」

グリーンがどんよりと落ち込んでいる理由。
それはジム戦で挑戦者に負けたから。
でも負けたぐらいでこうもウジウジされると、この先このひとはジムリーダーやっていけるんだろうかと些か疑問に思ってしまう。
というか、今まで負けてもどうもなかったのになんで今回は。

「…それはいいんだよ」

すると、グリーンからは負けたことは気にしてないという主旨の台詞が返ってきた。
…じゃあ、いったい何なの?

「だけどおれに勝ったってことは、シロガネ山に行けるってことだろ?」
「あ、うん」
「…っ、
あんなチャラ男がレッドのとこに行くかと思うと、なんであのときあの技を出したんだ、とかもっと強くならねーとだめだ、とかいろいろ考えたの通し越して心配なんだよ…!」
「…え?」

そしてグリーンから返ってきた台詞に思わずゲームをしていた手が止まる。
どんなひとが挑戦者だったのかは知らないけど、チャラ…チャラオ?なんだろう…名前…?
逆にどんなひとか気になってきた。グリーンがそんなに言うぐらいだから。

「心配って…僕が負ける心配?
てことは、そのひと強いんだ?」

そういえば最近グリーンが頑張ってくれるせいで、シロガネ山にくる挑戦者は少ない。
だから挑戦者が来てくれることは単純に嬉しいし、強いならなお言うことはない。
それにグリーンが僕のこと心配するほど強いんだろうか、とちょっとわくわくしながらグリーンに聞くと、グリーンがぎゅうと抱きついてきている腕に力を込めてきた。

「…グリーン?」
「ばか、そっちの心配じゃねーよ。
それはレッドが勝つだろうから問題ない」
「…つまんない。
じゃあ、どっちの心配?」

なんだ、そういう心配じゃないのか、と思ったのと同時に強いひとじゃあないんだ、とがっかりしてしまう。

「あのな、チャラ男だぞ?絶対レッドに手ぇ出そうとするに決まってんだろ!」
「…は?」

そしてグリーンから告げられた台詞にまぬけな声を返した。
え、それってどういう…?手?なに?

「おれが一緒にいればなんとかできるだろうけど…いいか、レッド。
何があっても気ぃ抜くなよ」
「…う、うん?」

バトル、の話じゃないよね…?
なんとなくわかるようなわからないような内容に、とりあえず頷いておく。
というか、強くないのかぁ。でもグリーンに勝ったんだからそれなりに強いのは強いだろうし、実際にバトルしてみないとわからないし。
後ろでまだなにかウジウジ言っているグリーンを無視して、ポジティブにそう考えてみることにした。

「…グリーン、いい加減はなれてくれる?」

そして、はぁ、とため息をついて後ろのグリーンにそう言ってみる。
寄りかかることができて楽は楽だけど、ぎゅうと強く抱きつかれているからあまり身動きがとれない。
ゲームをするにあたってはそんなに問題ないけど、さすがにウジウジどんよりして抱きつかれているのに嫌気がさしてきた。

「いま癒されてんだよ。
もうちょっといいだろ」
「…僕、そういう機能ないよ…?
ほら、ふざけてないで離れてってば」

いやしのはどうとか出ないし。
寄りかかっていたのを体を起こそうとするけど、グリーンに抱きつかれていて体勢が固定されてしまったのか動けない。
するとグリーンが少しむっとしたように、

「ふざけてねーよ。
ふざけてるっていうのはこういうの」
「…え?」

そう言ったかと思うと、抱きついてきていた腕を解くと、僕の頭を後ろからがしっと掴んだ。かと思うと。

「?!」

ちゅっと音がする、ハートつきなキスを僕の髪にしてきて。
それに体がびくっと大げさに震える。だってびっくりしたから。

「なっ、何して…っ」
「だから癒されてるって言っただろ」
「ち、違うと思う…!」
「つーか、レッド、髪すげーいい匂いする。
シャンプー何使ってんだ?って、昨日泊まったからおれと一緒だよな」
「…っ、こ、らっ」

感心したように言うと、グリーンがまた僕の髪にハートマークが飛んでそうなキスを落とす。
だから癒し機能なんてないって何度言えばわかるんだろう。
そして、それから逃げようとするものの、後ろから頭をがっしり掴まれていたら逃げるに逃げられない。

「ふ、ふざけすぎだろ、グリーン…っ」

仕方なくゲームのコントローラを床に置くと、グリーンの手を頭から引き離すべく奮闘してみる。
それでも僕にとってはそれが後ろ向きというのが難易度が高くなっていて。しかも見えないし。
しばらくじたばたしていると、グリーンがくすっと笑う声が聞こえた。

「!」

そしてさっき同様、ぎゅうと後ろ抱きされる。

「ふざけてるけど、ふざけてねーよ」
「え?」

耳元でそう囁かれたかと思うと、顎をくいっと掴まれて後ろを向かされた。
それから。

「………、
〜〜っ?!」

目の前が暗くなったかと思うと、唇に何かが触れて。
それがグリーンのだとわかった瞬間、グリーンに唇をぺろっと舐められて体がびくっと震えた。

「…レッド、すげーかわいい」
「…っ」

後ろを向かされたまま、また耳元でそう囁かれる。
今度はあまく低く響く声で。

「というわけで、」
「?!」

すると、ひょい、と抱え上げられ、それに同じ男としてのプライドがカタカタ震えだすよりも早く、向かいあわせに座らされた。
そして見つめられて頬をするりと撫でられ、それに体がぞわぞわと粟立つ。

「傷心中なジムリーダーを癒してくれよ、最強のトレーナーさん?」
「…んっ」
「好きだよ、レッド」

最初のウジウジどんよりしていたグリーンはどこへやら。
不敵な笑みを浮かべると、そう言って僕の髪にもう一度キスをしてきた。













鬱陶しいぐらいがちょうどいい



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