「こっちか?」

読んでいた本を閉じて本棚に戻すと、分厚い専門書を手に取る。
ただいま仕事中だけど、あの一文どこかで見たことあるような気がするんだよなぁと思いつつ、本棚の前に立っていろんな本を見ていってるわけだ。
すると。

「…えいっ」
「?!」

不意に後ろから腰あたりを指でダイレクトにつつかれ、それに体がびくっとなる。犯人はもちろん、

「こら、レッド!」

振り向くとそこにはレッドがいて、おれと目が合うとレッドがにこっと笑った気がした。だけどこの笑顔はまずい。

「グリーン、こういうの弱いんだ…」
「へ?」

ふむふむ、と納得したように言うとレッドがまたおれの腰あたりを人差し指でつついてくる。今度は両方から。

「ちょっ、こら、やめろって!」

それがくすぐったくておれは身を捩じらせる。
そういうのは弱いんだって。

「…おもしろい…!」
「っ、おもしろがるなよ!」

今更、はっとしたように表情を強張らせてレッドがそんなことを言う。
くすぐったいもんは仕方ねーだろ。鍛えてどうにかなるわけでもねーし。

「つーか、おれ仕事中だっつっただろ!」
「…ゲームクリアしたもん」
「お前な…、んなわけ…」

ぐわっとレッドに怒ってやると、レッドはつまらなさそうに頬を膨らませる。子どもか。
だけどゲームクリアってそんなバカな。仕事中だからゲームでもしてろよ、と言ったのは30分ぐらい前の話のような…。それにあのゲーム、シューティングゲームだけどけっこう難易度高いんだぞ?レベルは簡単じゃなく普通設定だったし。
そして半信半疑でリビングに行ってみると、テレビ画面にはエンディングが流れていて。

「……嘘だろ…」

あまりの出来事に驚愕してレッドを見てみれば、レッドは無表情のままピースなんかしてきた。その顔むかつくわ。いつもと同じだけど、状況が状況なだけに。つーか、ピースするぐらいなら笑え。

「グリーン」
「なんだ、よっ?!」

まじかよ…と思いつつ、流れていくエンディング画面を見ていたおれにレッドがさっきからしてくる腰あたりを人差し指でつつくあの攻撃をまたしてきて。それに体がびくっとなる。こいつめ…。

「他のないの?暇……、何してるの?」
「…え?」

ゲーム機の横に座り込んでソフトの入っているボックスをあさっているレッドに、おれがされたことと同様の攻撃をしてみたけどレッドの反応はこれだ。
腰あたりから脇のほうへとつつく指を上げていっても、レッドは微動だにしない。
そして挙句の果てには、おれを怪訝そうに見てくる。
えっ…お前には痛覚ってもんがないのか…?いや、くすぐったいから痛覚ではないけども。

「…くすぐったくねーの?」
「?
別に?」

今度はつつくのではなく、こちょこちょとわき腹をくすぐってやったけど、レッドはただ首を傾げるだけだ。
嘘だろ…!おれは、こんなんされたらすげー笑いころげるってのに…!

「…くそっ」

こうなったら何が何でもレッドにくすぐったいって言わせてやる!
仕事はどうした、と心のどこかでもうひとりのおれがツッコミを入れてくるが、今は無視だ。

「レッド、手ぇ貸せ」
「?」

座り込んでいるレッドの前にしゃがみこむと、レッドに手を出させてレッドの手のひらをこちょこちょとくすぐってみる。
反応はというと。

「…グリーン、さっきから何してるわけ?」
「…」

おれの目に飛び込んできたのは、きょとんと首を傾げるレッドの姿。
どういうことだ…シロガネ山の仙人は寒さだけじゃなく、くすぐったい感覚もないのか…?
衝撃を受けつつも、これぐらい許容範囲だと虚勢を張って次に移る。
そして今度はレッドの肩に手をのばして、肩を揉んでみた。
他人に肩を触られるの嫌がるひとがいるって聞いたことあったから。ん?嫌がる?まぁいいか。
でもレッドはというと。

「…僕、肩凝ったりしてないと思うけど…」
「…」

遠慮がちにそんな一言が返ってくる。
こいつまじでくすぐったい感覚どこかに忘れてきたんじゃねーか?
これだと全身くすぐっても反応なさそうな気がしてきた。
くそ、なんかすごい負けた気がしてならない。
そしてその悔しさやらなんやらを、レッドの髪を掻きまぜることで発散すべく、癖っ毛だけどサラサラなレッドの髪をわしゃわしゃと掻き撫でる。

「っ、ちょ…っ」

それにレッドがむっとしたようで、おれの手を払いのけようと手を伸ばしてきた。
だけどおれはお構いなしにわしゃわしゃと掻き撫でる。
つーか、しといてなんだけど少し乱暴なシャンプーみたいなかんじだな…。

「…っ、ひゃうっ?!」

するとレッドの体がいきなりびくっと震えた。
それにおれもつられてびくっとなる。
な、なんだ?

「……っ」

びっくりしてレッドを見てみれば、レッドは顔を赤くしていて。
そしてレッドはおれと目が合うと慌てて視線を逸らしたけど、髪を掻き撫でているおれの手がそのままだったのを思い出したようで掴んで引き離してきた。

「…」

なにその新鮮な反応。
ていうか、これはくすぐったいというよりも。
そして髪がボサボサになっておれに横顔を見せているレッドににやりと笑うと、懲りずにまたレッドの髪に手を伸ばした。

「っ?!」
「そうかそうか、そうなんだな」
「…え?」

納得したように呟きながら、レッドのボサボサな髪を撫で付けるように整える。
するとレッドがおれの手をまた払いのけようとしながらおれのほうを見てきた。
その頬は微かに赤い。

「頭、気持ちいいんだろ?」
「!」

にやりと笑いながらそう言うと、髪を撫で付けるように触れていた手を、こめかみあたりから指を差し入れて髪というよりは頭を撫でるように指でなぞっていく。
するとレッドの顔がかあっと赤くなり、おれの手を止めさせようとレッドがおれの手を掴む。

「頭が感じるとか、えろくね?」
「…っ、ちが…っ」

そしてくすくす笑いながら言ってやると、レッドは体をぴくぴく震わせながら首をゆるく横に振る。頭って性感帯なのか?あんま聞いたことねーけど。
…………まあいいか。

「……んっ」

やばい。
レッドにくすぐったいって言わせてやると思ってたけど、断然こっちのが楽しい。おれが。
それにレッドがえろくてかわいくて仕方ない。
頭感じるとかどんだけだよ。
まあ触ってるのがおれだからってのもあるんだろうけど。
にやける頬を引き締めることなくレッドの頭を触っていると、赤い顔でついに涙目になってしまったレッドがおれを睨んでくる。

「それは逆効果だっていつも言ってんだろ」

そして耳の後ろから後頭部に指を這わせると、レッドがえろくてかわいい声で白旗を上げてきた。











スキンシップ過剰警報



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