「ほら」

ソファーに座っているレッドにそう言ってカップアイスを手渡すと、おれも隣に座る。
そしてカップアイスのふたを開けて、現れたチョコアイスをスプーンでひとさじすくって口へと運ぶ。と、なんだか視線を感じてレッドのほうを見てみれば、レッドはおれをじーっと見ていて。いや、正確にはおれの頭、か?

「…どした?」
「…」
「…なんかついてるか?」

反応のないレッドに、もしかして頭にゴミでもついてたか?と思って頭に手を伸ばしてみるけれど、レッドから返ってきた台詞はというと。

「…グリーンの髪って美味しそうだよね」

質問の答えとはまったく違う回答が。
しかもそんな台詞を真顔で言ってくるもんだから、冗談に聞こえない。

「…はい?」

一字一句間違えずにちゃんと聞こえたけれど、確認の意味をこめて聞き返すようにレッドを見る。

「グリーンの髪。美味しそう」
「…」

だけど返ってきたのはさっきと同じ内容で。
しかもカップアイス片手に美味しそうとか言われると、例え話とかじゃなくて本当に食われそうな気がする。レッドだけに。

「う、美味くねーよ!」

とりあえずそれが冗談でも本気でも否定はしておくに越したことはない。

「ほ、ほら、アイス食えよ。溶けるだろ」

話を逸らすべく、促すようにそう言ってみるけどレッドの手は止まったままだ。
え、なにそれ。アイスよりおれの髪が食いたいのか?
レッドの目は何を考えているかわからない色で光る。

「〜〜っ」

いくらなんでも髪を食われるとかないだろうけども(そもそも食い物じゃない)、こいつ本当に時々何考えてるかわかんねーんだよな。もともと仏頂面というか喜怒哀楽うすいし。天然だし。マイペースだし。鈍いし。
さらには、おれの本能が危険をそれとなく感じ始めたので、おれは自分のチョコアイスをすくってそれをレッドの口に押し当てた。危険回避のために。

「?」
「ほらっ、あーん」

なに?と言いたげな目のレッドにそう言ってやれば、レッドは素直に口をちいさく開いた。
なので、そのなかにスプーンを突っ込んでやる。

「おれの髪なんかより、アイスのが美味いだろ?」
「…グリーンの髪、食べたことないから比べられない」
「いやいやいや、絶対アイスのが美味いって!!」

やだ、なにこの子。まじでおれの髪を狙ってんのか?!
きょとんとした顔でそんなことを言ってきたレッドに首を横に振るとそう豪語する。

「ほ、ほら、もうひとくち!」

それはねーだろ、と思いつつ、またアイスをすくうとそのスプーンをレッドの口まで運ぶ。
もぐもぐ、と食べる様子はちいさい子どもみたいだ。

「…つーか、普段ろくなもの食ってねーからそんなこと言い出すんだよ」
「…たいていグリーンが持ってきたものを食べてるけど」
「……。
よ、よし、今度は少しいいもの持って行ってやる!」

確かにおれが持って行った食糧が主かもしれねーけど、おれが長く行けないときとか適当にきのみ食ってたりするだろ。絶対それだ。
理由をそれに決めつけると、またもうひとくちレッドにアイスを運ぶ。

「…あー…おれ、チョコよりバニラのがよかったわ」

レッドに自分のチョコアイスを食べさせつつ、レッドが手にしているバニラアイスを見る。
あまいものはそこまで得意じゃねーけど、アイスってたまに食いたくなるんだよな。夏とか特に。冬も食べたくなるけど。

「…換えっこする?」
「って、ほとんどこっち空だけどな」

アイスはちいさいカップのだったからもうほとんどなくなってしまっていて。
ああ、でも結局おれのをレッドが食べたんだし、レッドのをおれがもらっても問題ないよな。って、なんかもうひとくちあればそれでいいんだけど。
もぐもぐ、とレッドがおれのチョコアイスを食べ終えると、持っていたスプーンをレッドのバニラアイスへと伸ばしてひとくち分すくった。

「これだけでいい。
あとはレッドが食えよ」

そしてすくったバニラアイスをぱくっと食べる。
口の中に広がるのはバニラの香りと、あまい味。
レッドはというとおれに、もういらないの?と聞いてきつつもバニラアイスを食べ始めている。

「…じゃあ、あとひとくち」

そしてそう言うとバニラアイスは無視して、レッドの髪を唇で食むようにして食べるまねをしてやった。

「え…?」
「…っ…レッドの髪、バニラの味がする…!」
「…さっきバニラアイス食べたからでしょ?」

驚愕したような表情で言ってやれば、レッドが呆れたようにそう言い返してきた。
ノリが悪いというか、こういうときは天然は発揮されないんだな。

「だったら、レッドがいまおれの髪食べたらチョコ味だな」
「…食べていいの?」
「いいわけあるか!
おれの髪とチョコアイスとどっちが美味いかどうかって、結局チョコ味になるんだからこれでいいだろ」

おれの台詞にキラキラした目で聞いてきたレッドに即答すると、最後のチョコアイスをスプーンにのせる。
そしてそれをレッドの口の前へと運ぶ。

「ほら、あーん」
「…」
「レッド?」

するとレッドはさっきまで素直に口を開いていたのに、いまはなぜかきょとんとした顔でおれを見てきている。
え、アイスよりやっぱおれの髪がいいとかそういう屁理屈言い出すんじゃないだろうな…。
だけど次の瞬間に、レッドの顔がかあああっと赤くなっていって。

「え?」

レッドのそんな顔見たことなかったし、その顔がいつもの無表情と違ってなんかこう人間っぽいって言ったら失礼だけど年相応っていうか、ええと、つまりは可愛くてびっくりした。レッドだけど。男だけど。
レッドもこういう表情できるんだ、と思うと同時になんでそうなったのか気になる。
するとレッドが真っ赤な顔で唇をきゅっと噛むと、恥ずかしそうに視線をおれから逸らす。

「……そ、それ、なんかおかしくない…?」
「それ?」

口をもごもごさせてレッドがそんなことを言ってきた。
それってなんだ?と思ったけど、すぐにそれの意味がわかった。

「…あーんって…」
「……!!」

恥ずかしそうな顔で、ちら、とおれを見てきたレッドがそれを教えてくれたから。
そして今更ながら、おれはレッドに負けないぐらい顔を赤くするはめになった。













無意識メルト

スプーンのうえのチョコアイスは、とろり、とあまく溶けていた。


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