それはとても天気のいい日のことだった。
雲ひとつない快晴で、空の青が冴えわたるような。

「…グリーンのことが、好き、なんだ」

そんな日にトキワジムを訪ねてきたレッドに、話があると裏口に呼び出された。
かと思えば、レッドからそんなことを言われて面食らった。
いや、だってそういうことわざわざ言うもんか?それに嫌いで幼なじみやライバルをやってのけるほどおれはお人よしじゃない。
ちいさい頃から一緒だったんだ。嫌いなわけないし、好きか嫌いか聞かれたらそりゃ好きって答えるレベルだ。友だちなんだから。

「…いや、おれも嫌いじゃねーよ?」

だからそう言い返してみれば、レッドはふるふると首を横に振った。

「ち、違う…そうじゃなくて…」
「?」

気のせいか、レッドの顔が少し赤い気がする。
それになんかあんまり見たことない表情してるような。

「…その、僕はグリーンのこと……恋愛対象として、好き、なんだ」
「…」

そして顔を赤くしてレッドからさらに言われたのはそんなことで。
ああ、なるほどね、恋愛対象として………。

「えええええ?!」

頭のなかでレッドの台詞を反芻してから、おれは驚きの声を上げる。
だ、だってレッドが恋愛って言葉を使ったんだぞ?!
そういうのひとより疎いっつーか、むしろないと思ってたのに、恋愛って…。

「ん?」

そこでハタ、と止まる。
待て。恋愛はいいだろう。シロガネ山で仙人になられたレッドだってやっぱひとの子なんだよ。恋愛のひとつやふたつ…。
ん?恋愛対象としておれが好き?
ぐるぐる考えてからレッドをばっと見る。
レッドとはいうと、俯いてしまっていて表情はわからないものの、髪から覗く耳は真っ赤だ。

「え…、おれのことが好きって…」

まさか。まさか、あのレッドが。
ちいさい頃からおれの後ろにくっつくようにしてたあのレッドが。
旅に出てからは少し頼もしくなって、いつの間にかおれよりもバトルが強くなって、それでチャンピオンになったレッドが。
って、いまはそんな走馬灯なこといいとして。
恋愛のれの字もわかんないと思ってたレッドがおれのことを恋愛対象として好きだなんて。
信じられるわけがない。

「お、おれ?なんでおれ…?」

レッドにつられておれまで顔が赤くなっているような気がする。
するとレッドはおれの台詞に肩をびくっと震わせると、上着の裾をぎゅっと掴んでいる。

「…っ、ご、ごめん…気持ち悪い、よね」
「えっ?い、いや、そうじゃなくて、なんでおれなんだろうって…」

震えるちいさな声がレッドのいまの心境を如実に表していて。
それに慌ててフォローするみたく言ったけど、まじでそう思ったんだ。
なんでおれなんだろうって。
レッドがおれを好きになってくれた理由がわからない。
いや、そりゃ嫌われてるとは思っていなかったけど、だからってなんで。

「…き、気がついたらグリーンのこと目で追ってて、グリーンのことばっか考えてて…」
「えっ…」
「…僕だって、なんでだろうって思ったけど…好き、なんだ」

ぽつりぽつりと話されるその言葉のひとつひとつは、いつものレッドの声色じゃない。
なんて言うんだろう。ちょっと弱々しいけど甘酸っぱく響くレッドの声。こんな声、聞いたことない。

「…ちょっとへたれだけど、やるときはやるところとか」
「え?」

するとレッドがぽつりと話し出した。

「女の子にモテるけど、けっこう対応が紳士的なところとか」
「ちょ、」
「バトルも強いけど、たまにミスって負けちゃうところとか」
「あの」
「おせっかいでお母さんみたいなところあるけど、包容力あるし一緒にいると落ち着くところとか」
「ま、待て」
「幼なじみだっていうだけで、僕にも優しくしてくれるところとか」
「レ、レッド」
「バトルしてるときの、かっこいいところとか」
「わー!わかったから!」
「!」

なにこれ、なんていう羞恥プレイだこれ。
いきなりつらつらとおれの好きなところ(たぶん)を挙げてきたレッドに恥ずかしさで耐え切れなくなり、レッドの両肩をがしっと掴んでレッドを止める。
つーか、褒められたのかけなされたのかよくわからない気分だ。
いや、それよりもレッドがこんなにもべらべらと喋ったことにも驚いたんですけども。

「レッドがおれのこと好きなのはわかったから、落ち着け!」
「……う、うん?」

きっといまおれのほうがレッドよりも顔が赤いだろう。だって耳が熱い。
そして落ち着くのは自分のほうだとツッコミを入れることもなく、レッドに勢いよくそう言うと、レッドはびっくりしたように目をぱちぱちと瞬きさせるととりあえず頷いた。

「…あー…何なんだよ、まじで…」

そして、おれはレッドの両肩から手を離すとその場に座り込む。
なんかよくわかんねーけど、いま心拍数すげー早いわ。
つーか、おれのこと好きすぎだろ、それ。
はあああ、と盛大なため息をついて顔をあげるとなぜかレッドの姿がなくて。

「えっ?!ちょ、レッド?!」

慌てて辺りを見渡すけど、レッドの姿はどこにもない。
もしかして夢?とか思って頬をつねるけど痛いだけだ。

「…言い逃げとか有りかよ…」

そしておれの脳裏に浮かぶのは、告白してきたレッドの姿。
いま思い出してみれば、最初からレッドがそういう雰囲気だったとわかる。

『…グリーンのことが、好き、なんだ』

真っ赤で緊張していままで見たことない恋する顔して、絶対言わないようなことを聞いたことのない甘酸っぱい声色で言ってきて。

「〜〜っ……なんだ、これ…っ」

言われたおれのが重症みたく、ふしゅーっと顔から湯気が出るようになると、おれは困惑した頭を抱えた。
ちなみにその日は、たまにミスって負けちゃうことが多々ありました。最終的には勝ったけどな。









ハロー、恋愛初心者



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