「…ねぇグリーン、僕って可愛い?」

テレビつまんないなーとか思ってチャンネルを変えようとしたら、隣で雑誌を読んでいるレッドがそんなことを聞いてきた。

「…は?」

いきなり耳に入ってきた、幼なじみからのナナメうえをいく質問にとりあえず眉間にシワを寄せてレッドを見る。
か、可愛い?可愛いってあれだよな、可愛いってあの、女の子とかちいさい子とかに………え?どうした、レッド。

「…今日、女の子に言われた」
「えっ?!レッドが、その、可愛いと…?」
「変な子だよね」

しれっとそう言うレッドに頷くのはどうかと思うが、レッドのことが可愛いと思ってるあたり変わった子なのは間違いなさそうだけど。
だって男に可愛いって…確かにレッドは女顔ではあるけど。

「僕、男なのに」

するとレッドも可愛いと言われたことに対して少なからずも戸惑いというより怒っているようで、口を尖らせる。
そりゃそうだろ。男なのに可愛いとか言われてもなぁ…ちいさい頃ならまだしも。いや、それもない、か…?
その点はレッドに同調して、女の子に可愛いと言われたレッドを改めてじっと見てみる。
キレイな白い肌に、ちょっと癖っ毛のある黒髪。
まあどちらかと言えば女顔だし、ごついっていうか男らしいかんじではないよな。
それに大きな赤い目に、意外と長い睫毛。すっとした鼻筋に、ぷっくりした唇。
全体的にすごい端整な顔立ちだよな、レッドって。
いままでこんなにまじまじと見たことなかったからかもしれないけど、確かにキレイって言うよりは可愛いよな。男のくせに。
ん?

「…グリーン?」
「……。
っ、な、ないない!可愛いなんて思ってない!!」
「…は?」

ひょい、とおれの顔を覗きこんできたレッドに慌てて首を横に振ってみる。
危ねぇ…よくわかんねーけど暗示にかかるとこだった…。
どきどきする心臓を抑えつつ、深呼吸なんかしてみる。

「…でね、グリーンに彼女が出来ないのは女の子より可愛い僕がそばにいるから、とか言ってきたんだよ?」
「な…っ、出来ないわけじゃなく作らないだけだぞ…」

レッドから続けられた台詞に思わず咽ぶ。
いまはジムやらなんやら忙しくて彼女と遊んだりするような時間なんてない。前に比べて女友達とかと遊んだりするのも減ったしな。だから作らないだけであって、こう見えてけっこうモテるんだっつの。自分で言うのもなんですけど。

「…僕もそう言ったんだけどね。
挙げ句の果てには、付き合ってるんですかって聞かれた…」
「誰が?」
「…僕とグリーン」
「はあっ?!…さすがにそれはないだろ…」

呆れたように話してくるレッドの話の内容に、おれもまた呆れると首を横に振る。
そりゃ仲良いっていうか、幼なじみなんだし、過去いろいろあったとはいえ一緒にいると楽なんだよ。だからなんやかんやでレッドとはよく一緒にいるけど。
それを付き合ってるって言うなら、世界中の幼なじみはほとんど付き合ってることになるぞ?
てか、変わった子だなぁ、その子…。

「…でもたとえ僕が女の子でもグリーンとは付き合わないなぁ」
「はっ?なんでだよ?」

するとレッドからぼそっとそんなことを言われ、思わず聞き返す。
だってレッドが女の子なら問題はないだろ。

「…へたれだもん」
「へ、へたれじゃねーよ?!」
「いざって時、だめそう」
「こら!」

待て。理由がそれってなに。
レッドから告げられた理由に少なからずショックを受けてみる。
確かに幼なじみで一番近いとこにいるからおれがどんなやつかとかわかってるのはあるだろうけど、それはないだろ。へたれって………ね、ねーぞ?
レッドに反論してみると、レッドは雑誌をぱたんと閉じるとおれをじっと見てくる。

「!」

その大きな赤い目に見つめられ、不覚にもどきっとしてしまった。
くそ、へたれじゃねーつっの。

「つーか、こっちだってお断りだぜ」
「え?」
「たとえレッドが女の子でも、レッドとは付き合わねーよ」

売り言葉に買い言葉、じゃねーけどそれに近いレベルで言い返してみる。
でもそうだろ。互いに選ぶ権利はあるんだし。
レッドがたとえ女の子でも、おれのことがへたれで付き合わないって言うんなら、おれだってたとえレッドが女の子でも、レッドが、

「…」

レッドが…、が?
あれ?
…確かにレッドは喜怒哀楽薄いし、鈍いし世話かかるしめんどいけど、一緒にいて楽だ。おれが一番おれでいられる気がする。それは幼なじみだからだろうけど。
ん?そしたらやっぱり世界中の幼なじみは付き合ってることになる?

「…」

ということは、おれはレッドと付き合えるってことになるような…。
いや、待て。女の子とはいえ、レッドだぞ。おれにも一応タイプというものがあってだな。
なんつーか、女の子らしいっていうか可愛いかんじで守りたくなるようなそういう。

「…なに?」

悶々と考えながらじっとレッドを見てみれば、レッドがちょこんと首を傾げた。
それは見慣れたレッドの仕草だったけど、いまはなんか。

「……………可愛い…」

ぼそっとそう呟くと、それはレッドには聞こえなかったようでレッドはまた首を傾げている。

「グリーン?」
「っ!な、なんでもねーよ!とにかく付き合いません!」

そして怪訝そうな表情のレッドにハッとすると、慌てて首を横に振って虚勢を張ってみる。
うおおおおお!しっかりしろ、おれ!気を確かに持つんだ…!
可愛いって言うのは女の子とかちいさい子とかに使う言葉であって、レッドみたいな男に使う言葉じゃねーし!
それにおれが好きなのは女の子っぽくて可愛くて守りたくなるような、そういう子であって、たとえレッドが女の子であってもそうとは限らねーし、なんつーか、その、その…。

「〜〜…っ」

そんなこんなで心のなかは荒れに荒れていて、逆に自分で自分を追いつめてる気がしなくもない。

「…変なの」

そしておれの心が荒れてる原因の当人であるレッドは肩をすくめてそう言うと、閉じた雑誌をまた開いて読み始めやがった。
くそ、なんでおれがこんな目にあわないといけねーんだ。

「〜〜っ、だ、大体な、レッドが悪いんだからな!」
「…僕?なんかしたっけ…?」

悔しくて涙目でそう言い放ってやれば、きょとんとして、思い当たることなんてないという表情のレッドが恨めしい。
だから、ごちゃごちゃする頭と心の責任をレッドにぶつけてみた。

「〜〜…っ、
な、なんでそんなに可愛いんだよ?!」

当然レッドは、え?と言いたそうな顔でちょこんと可愛く首を傾げるだけだった。












さよなら満塁デッドボール

(うわああああああ、台詞間違えた…!!)



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