「レッド、今日なにが食べたい?」

珍しくレッドがトキワジムを訪ねてきた。だからバトルを早々に終わらせてふたりで帰路に着くなか、隣を歩くレッドに今晩のリクエストなんかを聞いてみた。

「…なんでもいい」
「…あのな、なんでもいいが一番困るんだぞ」

ぽつりと返ってきたレッドの台詞にため息をつく。
なんでもいい。
だからといって何でも作るとけっこう文句言われたりする。なんでもいいっつったくせに。
そして、なんでもいいじゃメニューはさっぱり浮かばない。せめて、米が食べたいとかパンが食べたいとかあるだろ。まあ聞きたいのはメインというか、おかずだけどな。

「…じゃあ、こないだテレビで見たコガネシティの高級レストランのハンバーグがいい」
「はっ?食べに行くつもりかよ?!」

すると、目をきらきらとさせて語尾にハートがつきそうな勢いでレッドがそんなことを言ってきたもんだから思わず焦る。
確かに催促したから詳細を言ってもらったのは嬉しいが、待て、外食するつもりなのか?というかここからコガネシティまで行く気なの、お前は。

「…だからなんでもいいって言ったのに」

そして案の定、聞いたくせに却下していくおれにレッドが不服そうな顔になる。

「が、外食なしっ。
そして簡単なのにしろよ、カレーとかシチューとか」
「…それルウが違うだけじゃない…」
「じゃあ、ハヤシとビーフシチューも選択肢に入れるか」
「…」

言われてみればそうだ、と思ってルウ違いで選択肢を増やしてみたものの、レッドからは冷めたような目で見られる。
いいだろ、作るのおれなんだから。つーか、おれだってそんなに料理上手いわけじゃねーんだからな。
ただ、レッドと違って食えるものが作れるっつーだけで(こないだ炭の塊を卵焼きとか言ってたっけ…)
それでもレッドがこうして時々下りてくるようになったときのために、こっそり料理本とか買って練習してたりもする。けど、そういうときに限ってこいつ下りてこないけどな。

「…あのね、」
「ん?何か食べたいもんあるのか?」

すると、レッドがぽつりとそう切り出してきた。
それにレッドを見てみればレッドがおれをじっと見てくる。

「?」
「…僕にはあまいけど、コトネたちにはあまくないんだって」
「は?」
「コトネがそう言ってた」
「なんのことだ?それ。
あまいってことはデザートか?」

レッドから告げられたそれに首を傾げる。
というか、晩飯がデザートでいいのか、レッド。

「…ちがう」
「違う?あまい食べ物ってなにがあるっけ…」

だけどデザートではない、とレッドに首を横に振られる。
デザートじゃなくてあまいもの…?ちょっとそれは晩飯にはご遠慮いただきたいような。
でも待てよ。レッドにはあまくて、コトネたちにはあまくないって言ってたよな。
てことは、そこまであまいものじゃないってことか?

「…」

だけどレッドはどっちかというと甘いもの好きだしな。うーん?
悶々と考えていると、レッドがまた口を開く。

「…それ、グリーンのことなんだけど」

そして、ぽつり、とそう台詞を言ってのけるとレッドはすたすたと歩いていく。
そうか、それはグリーンのことか。なるほど。

「…って、おれ?!なんでだよ?!」

考えるために立ち止っていたおれが我に返るとレッドはけっこう先へと進んでいて、慌ててレッドのところへと駆け寄る。
レッドにはあまくて、コトネたちにはあまくない。
うん、うん?あれ、間違ってはない?

「バトルのことだってコトネは言ってたけど…」
「あーなんだ、バトルのことかよ…って、別におれ、バトルのときレッドにあまくはねーぞ?!」

聞き捨てならない台詞なんですけど!
というか、なんでおれはさっきからノリツッコミばっかやってんだ…。じゃなくて!レッドとバトルするときは全力すぎるほど全力だぞ。コトネのやつめ…。

「うん、僕も違うよって言ったんだけどね」

ほら見ろ、レッドも違うって言ってくれてるじゃねーか。
今度会ったとき説教だな、これ。
むかっとしていると、レッドがそんなおれを見て何かを考えたように先に歩きだす。
それにつられるようにしておれも歩き出すけど、そこで気がつく。
待てよ。
おれ、晩飯のメニューを聞いてたんだよな?
確かに話は全然違うオチで終わったけど、これって。

「!」

そう思って少し先を歩くレッドを見てみれば、黒髪の間から見える耳が赤くなっていて。













ご注文はお決まりで?


とりあえずは、家についてから問いただそうと思います。
「晩飯に食いたかったのってなに?」って。笑顔で。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -