▽12:(気づいてあげられなくて、ごめんね)



※グリーンが女の子と付き合ってる




「…っ」

早足に歩いて通りの陰に入る。
そして壁に背中を預けると、今まで感じたことのない痛みを発する胸を押さえる。

(いたい?)

だけどそれが痛いかどうか今の僕にはよくわからない。
キスしてた。
グリーンと、知らない女の子が。
たぶん彼女、なんだろう。
こないだ、たまたまジムに寄ったときに女の子から呼ばれてるって言ってたし。

「…」

グリーンはモテる。
バトルは強いし、トキワジムのジムリーダーだし、女の子には取り分け優しいし、見た目も悪くない。
今まで彼女が途切れたことなんてない。ただ、グリーンがジムリーダーで忙しくて長続きしないというぐらいで。
だから彼女と一緒にいるのを見ることなんて、これが初めてじゃなかった。

「…っ」

(それなのに、なんでこんなにいたいの?)

ズキズキ痛む胸を押さえ、壁伝いにずるずると崩れ落ちると地面にしゃがみこむ。

「……なんで、」

呟いた声は情けないほどに弱々しくて。
自分でもわからない。
何がどうしてこうなったのか。

(グリーンに彼女がいるぐらい、そんなこと、どうだって)

グリーンに彼女がいたのがショックだったとかそんなことはあり得ない。
それだったら今までだって何度もあった。

(じゃあ、なんで?)

「………なにこれ…」

痛む胸を押さえ、よろりと立ち上がる。
脳裏に浮かぶのは、グリーンと知らない女の子のキスシーン。

ズキ。
ズキリ。
ズキズキ。

「…っ」

背中を壁に預け、帽子を深く被る。

(いたい)
(痛い)
(痛い、)

胸を刺す痛みはどんどん増していく。
そして知らないままでいればよかったのに、僕はその痛みの正体を捕まえてしまった。

「…………そんなこと、ない…っ」

捕まえたそれを手を離してみるけど、一度知ってしまえばそれは僕の胸に居座ることになって。
ズキズキ。
今まで知らなかった感情が僕を突き刺す。

「…あるわけない、そんなの。
あって、たまるか…っ」

ぎゅう、と痛む胸を押さえ、自分に言い聞かせるように呟く。
そう、あるわけなんかない。
グリーンのことを、

「………っ…なんで、今更…っ」

そしてまたずるずると壁伝いに崩れ落ちると、地面にちいさな染みができた。




(いたい)
(痛い)
(痛い、)
(痛い)

(ひとを好きになるってこういうことなんだね)
(気付いてあげられなくて、ごめん)
(ごめんね、僕の恋心)