▽13:だって男の子ですから 「……」 ジムへと進む足取りが重たい。 さっき会ったコトネに言わせると「生きてる人間の顔じゃないですよ」らしい。ちなみにそれにツッコミは返せなかった。 どんよりとした空気を背負って、はあと大きなため息をつく。 おれがなんで朝からこんなに重たい空気でいるのかというと、 「…っ」 実は今朝、レッドをめちゃくちゃに犯すという最低な夢を見た挙句、夢精までしてしまったというわけで。 どんだけ溜まって、いや、妄想があまりにキレっキレで自分でも怖い。欲求不満か? くっ、と唇を噛みしめてそこらへんの壁に手をついて反省のポーズをとってみる。 いや、そろそろやばいなとは思ってはいたんだけども。 こうもわかりやすいほどに現実に表れてしまうとなんかもういろいろ通り越して、自分への嫌悪感しかない。おれのばか。 「…つーか、おれ、気持ち悪いな…」 はああああ、と盛大にまたため息をつく。 レッドのことが好きだと気付いたのはつい最近のことで。 でも同じ男で幼なじみでライバルにそれはねーだろ、と自分に言い聞かせてきた。んだけど、今朝の件でそれは見事に打ち砕かれたことになるわけだ。まぁ自分で自分の首絞めただけなんだけど。 「…でもレッドかわいかったな…」 今朝の夢を思い出して、ふぅと余韻に浸るようにしてそう呟いて、すぐに我に返って自分の頭をたたく。 そりゃ夢なんだから妄想っつーか、理想っつーか、いろいろ加味されてんだし。 しっかりしろ、おれ。 こんなときレッドに会ったらどうすんだ。 「って、会うわけねーか。レッドはシロガネ山だし」 「僕がなに?」 「は?」 そしてお約束なまでにレッドが後ろに立っていて、おれは眩暈がした。 下りてこいって言ったときは下りてこねーくせに、なんでよりによって今日、今、下りてきてんだ。 「な、なななななななななんでお前…っ」 「色違いの捕まえたからコトネにあげようと思って。 欲しいって言ってたし」 ものすごくどもるおれに、レッドはほらと言わんばかりにモンボを見せてくる。 うん、まぁ透けてるわけじゃねーから中見えないんだけど。なに捕まえたんだ。いや、なんでもいいけど。 「だ、だったらわざわざトキワ経由で行かねーで、すぐジョウトに行きゃいいだろ!」 しっしっ、と追い払うように邪見にしてそう言ってしまう。 これが普段っていうかなにもなかったら、ああそう、ぐらいで終わるんだけど、今朝の件があるので非常に気まずい。 おれの目の前にいるレッドが、夢の中では顔を真っ赤にして目を潤ませてあまえた声だしてきて。 『…グリーン…っ』 って、待て!! 「〜〜…っ!」 「っ?!」 なに本人目の前にして思い出してんだ、おれは! 壁に何度か頭を打ち付けてから手で顔を覆うと、落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。 つーか、数時間前のことだから思い出すのも簡単に思い出せるんだよ。会うなら会うで、もう少し心の準備くれ。 そしてそんなおれをレッドは、どうしたんだろう、と首を傾げて見てくる。 やめろ、その仕草。かわいすぎるだろ。 「…グリーン、大丈夫?」 「っ、なにがっ」 「顔、赤いよ?」 いつになくレッドが心配そうなかんじでおれに聞いてくる。 お前のせいだ、とは言えない。 あ、つーか、別にレッドのせいじゃなくておれのせいなんだけど。 「バカは風邪引かないって言うけど」 「!」 するとレッドがおれに一歩近づいてきたかと思うと、手をおれの額に伸ばして。 そして、うーん、と唸るような表情になると今度は首に触れてきた。 レッドはどうやら、おれが熱があるのでは、と思って触診的なかんじでしてきているようだ。が。 今朝あんな生々しい夢見て、お前はいくつだよってかんじで夢精までしてしまった今のおれには。 「…っ」 たったこんなことでも、多少、刺激が強すぎるというか。 「グリーン?」 そしてレッドの形のいい唇がおれの名前を呼ぶ。 夢の中でもレッドはおれの名前を呼んだ。うわ言のように何度も。 『…グリーン…っ、っ、グリーンっ…』 おれに手を伸ばしてきて、しがみついてきて抱きついて。 「っ」 思わずレッドの唇をじっと見てしまって、それにレッドがそれに首を傾げる。 だからそれかわいすぎるからやめて。 「…グリーン、変」 「…わかってんだよ」 「?」 わかってる。 おれはおれに都合のいい夢であって現実じゃない。 現実なのは、おれがレッドを好きだってことと、レッドとセックスしたいってことだ。 あまりに直球すぎる欲望に我ながら呆れる。 「〜〜っ」 「!」 そして衝動を抑えきれず、レッドをぎゅうと抱きしめるとレッドは抵抗なんてなくて、何してるの?と不思議そうだ。 レッドに触りたい。 キスしたい。 セックスしたい。 沸々とわいてくるそんな思いにため息をつく。 いや、でも思春期の健全な男子なら当たり前のことだと思うんだけど。 好きな子に、触りたい、キスしたい、セックスしたいっていうのは。たぶん。 まあ多少、性欲強すぎるけども。 「…グリーン? なに、本当にどっか悪いわけ?」 抱きついたまま離れないおれにレッドが大して焦った様子もなく、淡々とそう聞いてくる。 そして自分勝手な自己解釈を終えたおれは、 「…悪い。 レッド、看病してくれよ」 「え?」 どこが?と言いたくなるような笑顔でレッドにそう言うと、おれはレッドの手を掴んで踵を返した。 (そうだよ、思春期っていろいろ溜めちゃいけないって言うし) (それに男なんだし、この欲求は仕方ない) |