▽15:最初からこうなるってわかってた 「お前はおれを好きになる」 告白されてキスされて、呪文のようにそう囁かれた。 その言葉が、僕をどんどん浸食していく。 「…」 そんなことがあったのが2週間ほど前のことで。 今はシロガネ山にグリーンがいつもみたくなんかいろいろ持ってきてくれていて、そしていつもみたくぎゃあぎゃあ文句を言っている。 「…って、聞いてんのか、レッド!」 「…聞こえてます」 「おま…っ、だからな、まずは防寒をだな、」 ギッと僕を睨んできたグリーンに淡々と答えると、グリーンは呆れたようにしつつもカバンのなかからいろいろ取り出していて。 別に、なんてことない。 いつもどおり。 グリーンに好きだって言われて、さらにはお前はおれを好きになるとか言われたけど。 あれから何にもない。 グリーンもいつもどおりだし、特に何も。 何かあって欲しかったとかいうわけじゃないけど、あんなこと言われてキスまでされたからまた何かあるかもしれないと身構えていたのに。 この2週間、いつもと変わらない。 これだと、そもそも告白自体が嘘か冗談だったんだろう。 だって、あり得ない。 グリーンが僕のことを。 「…ド、レッド?」 「!」 ハッと我に返ると目の前にグリーンがいて、それに驚く。 「…熱…は、ないな。 ぼーっとしてどうした?」 「…っ」 帽子をずらして前髪を梳かれ、額に手を当てられる。 グリーンの手が額に触れてると思った瞬間、体がぐわっと熱くなった。 それが何なのかはわからないけど慌てるようにその手を振り払ってしまって、帽子がパサッと地面に落ちた。 「レッド?」 「………っ……何でもない」 それにグリーンが驚いていたから、いつもどおり、と無表情を決め込んで帽子を拾う。 僕のほうが意識というか、変に動揺するなんておかしい。 「…」 グリーンのことは好きだ。幼なじみとしてライバルとして。 だけどグリーンの言う好きはそうじゃなくて。 というか、お前はおれを好きになるとか上から目線で言われて、はい好きになりましたとか言うひといないと思うんだけど。 それ以前に僕はそういう好きがよくわからない。 家族とか友だちを好きっていう気持ちとどう違うんだろう。 「そうか? ああ、そういえばこないだじいちゃんがさ」 「…グリーン、むかつく」 「はっ?!」 ぼそっと呟くとそれは意外と大きな声で言ってしまってたらしく、グリーンがそれを聞いて眉間にシワを寄せている。 あ、ごめん。 でも、ほんとむかつく。 なんで僕がこんなこと考えないといけない? 絶対に、グリーンのことなんか、好きになんてならない。 「レッド」 ぐるぐる思いながら帽子を被ろうとしたところで名前を呼ばれた、と思ったら、その手をがしっと掴まれた。 「ッ?!」 そして、ぐっと身を乗り出すようにしてグリーンが僕に近づいてきて、また目の前にグリーンがいる。 「…っ……な、に?」 何かを言われるわけでもなく、至近距離で腕を掴まれてじっと見つめられて。 その目は真っ直ぐすぎるほとに真剣に僕を見つめていて、なんか居心地が悪い。 だから目を逸らしたんだけど、 「!」 グリーンがゆっくりと僕に顔を近づけてきて。 それに咄嗟にぎゅっと目を瞑ってしまう。 2週間前にキスされたことがあったから、なんか余計に、無駄に。 「…っ、 ……………………?」 でも何も起こらなくて、恐る恐る目を開けてみると、目の前でニヤニヤと笑っているグリーンがいて。 「…っ!」 それに顔がかああっと熱くなるのがわかる。 「もしかして、何かされるって期待しちゃった?」 くすくすと笑うグリーンに羞恥心が許容範囲を超えそうになる。 「〜〜〜ッ」 ない。 絶対にない。 グリーンを好きになるなんて絶対にない。 絶対にない! ぐるぐるする頭で必死にそう言い訳のような、負け惜しみかのように叫ぶ。 「っ!」 すると僕の手を捕まえていないほうのグリーンの手が僕の頬に触れてきて、それに体がぞわっと粟立つ。 「っ、なにして…っ」 自由な片手でグリーンを押しやろうとするけど、むかつくことに力では敵わない。 「っ、ひっ?!」 そして僕の頬に触れているグリーンの手がするり、と頬を撫でてきて。 さっきたみたく体が熱くなって、ぞわぞわする。 「ッ?、??、?!」 なにこれ。 こんなかんじ、初めてだ。 「お前はおれを好きになる」 「!」 グリーンが僕の頬を撫でるたびに、体がぞわぞわとして頭がぐるぐるする。 そして涙目な僕に、グリーンはくすくすと笑ってそう言ってきた。 「…っ、グリーン…っ」 唇が触れるか触れないかのところまで近づいてきて、僕は焦点の合わなくなった目をぎゅっと瞑ってしまった。 さっきまでグリーンはいつもどおりだったのに。何もなかったのに。 告白自体、嘘か冗談だったんだろう、って安心したのに。 「ッ」 こんな空気、雰囲気、知らない。 ぞわぞわする。これも知らない。 なにこれ。一体なんで僕は。 「…好きになるよ」 なんで僕はまた、目を瞑ってしまったんだろう。 |