指輪争奪戦以降、場所はイタリア、何だかフレンドリーなヴァリアー…………OK?



「王様ゲーム!」

「……………何それ?」

ヴァリアーの幹部が使う談話室。有人は空き缶を手にして高らかに叫んだ。もちろん空き缶の中には数本の割り箸が突っ込んである。

「え、知らないの?この割り箸に番号振ってあるんだけど、1つだけ王様って書いてあるんだよね」

「それがどうかしたのかい?」

「そんで王様引いた人は一回だけ命令出来るんだよ。何番と何番でポッキーゲーム、みたいな」

カラカラと空き缶を振り答える有人。要するにただの暇潰しなだけであるが、やってみたら意外と面白いかもしれない。

「それって何でも命令出来んの?」

「出来るけどあくまでゲームだからな?全財産差し出せとかちょっと死んでこいとかはダメだよ?」

「ちぇ、何だつまんねーの」

「ま、そういうのじゃ無かったら王様の命令は絶対なんだけどな。つーことでやんねーか?」

カランとベルフェゴールに空き缶を差し出す有人。特にやることもやらなきゃいけないこともない、つまり退屈。
有人の言葉が魅惑的に思えた訳ではないが確かに退屈しのぎには持ってこいかもしれない。

「ししししっ、あんまりタイクツにさせんなよ?」

「それはお前次第でもあるっつーの。マーモンは?やらない?」

「論外だね。一銭の足しにもならないよ」

「えー。でもこれある程度人数居ないと楽しくないしさぁ」

「んじゃ何人くらい居りゃいいんだよ?」

ベルフェゴールの問いに有人は軽く考え込む。そしてパッと顔を上げ言った。

「だいたい5〜6人だな!そんくらいがベストだと思う」

「じゃーちょうどピッタシじゃん」

「へ?」

「お前とオレとマーモンとレヴィとスクアーロとルッスーリア。ピッタシ6人」

「おぉ!確かに!!」

「ちょっと待てゴルァ!!!!」

今の今まで会話に参加していなかったスクアーロが立ち上がった。その拍子に椅子が音をたてて倒れたのだが。

「いつ!誰が!!てめえ等の下らねー遊びに付き合うっつったかぁ!?ゔお゙おぉい!」

「そうだぞ、第一オレにそんなことをする暇は無い!」

「スクアーロ命令されんの怖いんだ?」

「もしかしたら日頃の鬱憤晴らせるチャンスかもよ?」

「「……………………………」」

有人とベルフェゴールの言葉、または挑発に考える素振りを見せるレヴィとスクアーロ。熟考の末出された結論は、

「少しくらいなら、まぁ、構わん」

「上等だぁ!!吠え面かくんじゃねぇぞぉ!」

((うっわチョロいな………))

「ルッスーリア、君もやるのかい?」

「そうねぇ、面白そうだしやってみてもいいんじゃないかしら?」

「ま、僕には関係無いけどね」

「何言ってんだよマーモン、強制参加に決まってんだろ」

「ムギャ!」

さり気無く王様ゲームの輪から離れようとしたマーモンを目敏く見つけた有人が鷲掴みにし、ベルフェゴールと自分の間に座らせる。逃げ場は皆無だった。

「よーし、それじゃ行くぞ!」

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

全員が割り箸を一本ずつ取り自分が王を引き当てたか確かめる。最初の王は、

「お、ラッキー俺だな!」

言い出しっぺの有人だった。確かに、王様ゲームを知らない者ばかりで簡単に触りを理解させるには都合がいいかもしれない。
そうだなぁ、と呟いた有人は何か思いついたかのように鞄を漁りだした。その手に掴んで取り出した物は、

「んじゃ、これを着けてもらおうかな!」

「げ」

「んだぁそりゃ………」

「あらあら」

ネコミミカチューシャだった。どうしてそんなものを持っている、等のツッコミは一切許されない状況でもあった。

「で、いったい誰がそれをつけるんだ?」

「おーそうだった。………4番で!」

「んな゙ぁ!!?」

「スクアーロか」

「しししっ、ちょーウケる!」

確認してみれば確かにスクアーロの持つ割り箸には4と番号が振られていた。わなわなと震えるスクアーロに有人は言う。

「スクアーロ………俺はそんな非道な人間でもないし、王様ゲーム初心者であるお前にある程度は考慮していいと思ってる」

「………………何が言いてぇんだぁ?」

「ネコミミが嫌ならこっちのウサミミでも「おんなじだろうがあ゙!!!」ちぇー。んじゃ俺の独断と偏見で決めちゃうからな?」

いつの間にか有人の手にはウサミミが握られていた。ちなみに色はネコミミが黒、ウサミミが白だ。

「僕はウサミミをオススメするよ」

「俺も髪の色的にはウサミミかなー、って思ったんだよね!よし、じゃあウサミミにしよう!」

「ふざけんなあ゙!!!!」

「ダメダメ。スクアーロ、最初に言っただろ?」

「そうだぜ、スクアーロ。オーサマの命令は、」

「「「「「絶対!」」」」」

「私が取り押さえててあげるわ♪」

「サンキュールッスーリア」

「やめろお゙お゙ぉぉおお!!!!!」

抵抗虚しくスクアーロの頭には可愛らしいウサミミが鎮座することとなった。余談だが有人とルッスーリアの顔はやけに輝いていたらしい。

「あ、とりあえず王様ゲーム終わるまではそれ着けててね」

「てんめえぇええ…………!!!!!」

「ちなみに今ならオプションでうさしっぽもつくけど、」

「いるかあ゙!!!!」

「ししっ、ずいぶんいいカッコしてんじゃん♪」

「ぶっ飛ばすぞぉ…………!!!」

「まぁだいたい今のでルールは分かったよな?それじゃ第2回戦始めるぞー。せーの!」

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

一斉に割り箸を引いた一同。先程引いた時とは違い少しばかり、否かなりの気迫があった。おそらく、あぁはなるまいと思い緊張する者。
もしくは野郎絶対復讐してやると怨念を飛ばす者。そして栄光の座を手にしたのは、

「僕が王様か」

「ちぇっ、マーモンが王様かよ」

「で、マーモンはどんな命令にすんの?」

「そうだね……………」

超一流の幻術師でありサイキッカーの赤ん坊、マーモンだった。
これがゲームではなく本当に何でも聞いてもらえるなら全財産を譲渡してもらうか呪いを解いてもらおうかと思ったが、生憎なことにこれはちょっとしたお遊び。
重たい命令はNGであろう。ならば、

「それなら、1日50個限定のレアチーズタルトを買ってきてもらおうかな」

「マジで?」

「それより、何番にやらせるの?マーモンちゃん」

此処ヴァリアーの本部から車で40分くらいの所にあるパティスリーは毎日50個限定のレアチーズタルトを売っている。
もちろん毎日完売するほどの人気を誇っているそのタルトは値段の割にはかなり美味しい。いや、値段を惜しまずともかなり美味しい。
何処かに仕えたりしたらもっと高給になるだろう、そのくらい絶品なのだ。

「じゃあ、1番」

「ヌ…………オレか」

1番の割り箸を引いたのはレヴィだった。即座に携帯電話を取り出したレヴィは雷撃隊にレアチーズタルトを買ってくるよう命令していた。哀れ雷撃隊。

「んだよつまんねーな………お前が買いに行けよ」

「俺も何か頼もうかと思ったのに……」

残念、と呟いた有人とつまんなさそうに頭の後ろで手を組むベルフェゴール。だが、まだ王様ゲームは2回しかやっていない。
所謂、これからが本番というヤツだ。復讐に燃える奴も若干1名居るようだし。

「ゔお゙ぉい!!!!もたもたすんなぁ、早く次やるぞぉ!!!」

「しししっ。何だよスクアーロ、ノリノリじゃん」

「るせぇ!」

「それもそうだな!行くぜ!!」

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

全員の手に1つずつ割り箸が行き渡る。その顔は真剣そのもので、これからSランク任務に取り掛かるのだろうか?
と、通りかかったヴァリアー隊員に勘違いさせる程の迫力があったそうだ。そして3回目、見事王様の座を掴んだのは、

「あらっ!私よん♪」

「なんだルッスーリアか」

「まぁルッスーリアなら大丈夫かな」

ルッスーリアだった。比較的幹部の中でも優しい人間の部類に入るルッスーリアならハチャメチャな命令はしないだろうという安堵にも似た信頼。
変態でオカマだけど。だがしかし、世の中そんなには甘くなかった。

「そうねぇ…………そうだわ!ボスをデートに誘うっていうのはどう?」

手をパンと叩いて名案だわ〜と言ったルッスーリア。瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がり無音になったと通りすがりのメイドが証言している。

「ヌ、それならオレが!」

「待ちなよレヴィ。命令を実行するのはあくまで番号を指名された奴なんだから」

「それで………ルッスーリアは何番に命令すんの?」

「そうねぇ…………」

再び静まり返る談話室。誰もが息を飲みその時を待った。そして、

「じゃあ、3番にやってもらうわ!」

「去らばだ!!!」

「確保ぉ!!!!」

「ししっ、逃がさねーよ!」

「うわっ!ちくしょう、放せ!!!!」

「往生際が悪いぞ、大人しくしろ!!」

「諦めが肝心だよ」

ルッスーリアが言った瞬間、扉へダッシュした有人にベルフェゴールがナイフを投げスクアーロが立ちはだかりレヴィが取り押さえた。見事な連携プレーである。

「てめぇオレに言ったよなぁ?王様の命令は、絶対なんだろぉ?」

「確かにそうだけど、俺ちゃんと命に関わるものはNGだって言ったぞ!」

絨毯にうつぶせのまま捕縛された有人が叫ぶのをスクアーロは上から見下した。その様子は正に悪役そのもので、顔にもざまぁみろと書いてある。
しかし奴の頭にウサミミが着いていることを忘れてはいけない。

「大丈夫よぉ、かっ消される前に逃げればね!」

「それが余計に死を招くんだろ!!?」

「安心しろぉ、墓くらいなら作ってやるぜぇ」

「死ぬの前提じゃんか!しかも遺骨も遺体も残らないから入れられないだろ!」

「遺灰なら残るんじゃね?」

「風に吹かれてどっか行くだろ!」

「いいじゃないか、火葬する手間が省けて葬儀代が浮く」

「マーモンんんんん!!!!!」

「っく、何故こいつが……………」

「替わってやろうか!!?」

有人が何を言おうが叫ぼうがルッスーリアの命令は撤回されないらしい。明日の朝日が拝めるどころか最期の晩餐すら食べられなさそうな雰囲気。
此処に彼の味方は1人としていなかった。

「…………………じゃあ、後でやるから」

「ダメよぉ、今いってらっしゃい」

「だな。お前やりそうにねーし」

「監視した方がいいんじゃねぇかぁ?」

「それもそうだね」

「ボスは今執務室に居る筈だ、早くしろ」

「何でお前把握してんだよおおお……!!」

瞬く間に外堀を埋められ最早有人の為す術は無かった。もちろんXANXUSの執務室に向かう途中何度も彼は脱走を試みたのだが、ここでは割愛させて頂く。

『誰だ』

「有人です………」

XANXUSの執務室の前にやって来て、ようやく有人は腹をくくったらしい。来るなら来いやぁ!!!!人はこれを自暴自棄と呼ぶ。

『入れ』

「し、失礼しまーす…………」

有人が入っていった扉の隙間から中を窺い見る者達が居た。そう、ヴァリアーの愉快な幹部達だ。
ルッスーリアは鍋の蓋を盾に、ベルフェゴールとマーモンはレヴィを盾に、スクアーロはこれといって防御力の無いウサミミを装備して有人の最期を見届けようとしていた。

『何の用だ』

『ぼぼぼボスご機嫌麗しゅう………本日はお日柄もよく………』

『何の用だ、と聞いてんだ』

『あー、えーと、あのですねー、明日とかって、空いてたり………しませんよねー!ボス忙しいですもんね!』

『何が言いてぇ』

『あ、空いてるなら…………ちょっと俺とお出かけなんて如何でしょう…………なんちゃって!』

『構わねぇ』

『そうですよねー!構いませんよね!………ってはい?』

『構わねぇ、と言ったんだ』

あ、こいつ散ったな。誰もがそう思った。ところがどっこい全員の予想を綺麗に裏切りXANXUSはそれを了承した。
もしかすると明日の朝日は西から昇るのかもしれない。

『え?空いてる………の?てかいいの?』

『何度も言わせんじゃねぇ。………何処に行くつもりだ?』

『え、あ、んと…………フィレンツェとか……どうっすか?』

かくして、XANXUSと有人の2人きりでドキドキ(生命の危機的な意味で)のお出かけが決まったのである。

「ねぇどうすんの!!?どうすんのこれ!!?」

「ししっ、生還オメデトー」

「ありがとう!でも新たに問題増えたよね!!?どうすんの!!?」

「これはもう…………行くしかないんじゃないかしら?」

「そうだよ、それにここで反故してみなよ………今度こそかっ消されるよ」

「嫌だあああああ!!!!!」


つづく。






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